§4.6 温かい味噌汁
「まあ、まだ頭痛いでしょ。今日はここで休んでなよ」
樹はそう言って、結衣をソファに座らせた。
「ちょっとお腹もすいてきたんじゃない? 二日酔いのときは味噌汁。お味噌汁作るから食べてって」
彼はそう言って、結衣の様子を伺う。
「家帰るの、夕方とかでいいでしょ。ペット飼ってたりしないよね?」
「うん、一人暮らしだから大丈夫。でも、こんなにお世話になっちゃって……」
結衣は申し訳なさそうに答えた。
「気にしないで。僕が誘ったんだから」
樹の優しさに触れて、結衣は少しずつ落ち着きを取り戻していた。前夜からの緊張と疲れがどっと押し寄せ、結衣はふわりと眠気に包まれた。
***
どれくらい眠っていたのだろう。
「コトッ」
という、かすかな物音で結衣は目を覚ました。うっすらと目を開けると、樹がテーブルに大きめのお椀を置いているのが見える。美味しそうな味噌汁の香りがふわりと漂ってきた。
「おはよう……」
結衣はまだ眠たそうな声で、樹に目覚めたことを告げた。もうお昼を過ぎているのに、つい寝起きの挨拶が出てしまう。
「おはよう」
樹はその可愛らしさに思わず微笑み、同じように挨拶を返した。
「ちょうどできたから食べよう。少しとろみがあって熱いから気を付けて」
そう言って、樹は結衣の前に味噌汁を置いた。ナス、きゅうり、トマト、オクラが入った、色鮮やかな夏野菜の味噌汁だった。
トマトの酸味やオクラのとろみなど、夏野菜の旨みが混然一体となった味噌汁を一口飲むと、結衣は「美味しい……」と目を丸くした。
「どうかな。最近はトマトのお味噌汁もよく聞くようになってきたよね。きゅうりは冷や汁のイメージが強いけどウリ科だから加熱してもいけるんだ。本当はミョウガも入れたかったけど売り切れだった」
樹が少し照れくさそうにそう言うと、結衣は微笑んだ。
「樹くんの『お味噌汁』って言い方、なんか可愛い」
「え?」
「さっき『お味噌汁作るから』って。丁寧で可愛らしくて」
樹は少し赤くなりながら続けた。
「あ、そういえば二日酔いには本当はシジミとかの貝出汁がいいんだよ。オルニチンっていう成分が肝臓の働きを助けてくれるから」
「へー、詳しいね」
「でも、この夏野菜の組み合わせには合わないから普通の出汁にしたんだ」
結衣はもう一口味噌汁を飲んだ。
「すごく美味しい。私、こんな美味しい味噌汁、初めて食べた……」
次回「§4.7 安堵」
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