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呪術は小説より奇なり  作者: 麻人 弥生
妖刀村正擬き
8/9

呪われた道具

東京都立高円寺高等学校には呪術研究部という”学校の七不思議”を凝縮したような組織が暗躍しており、最近も禁足地で神隠しにあった中学生を救出したのだという。

まるで馬鹿馬鹿しい、所詮は噂だと、しょうもないオカルト話だと思っていた。2週間前までは確かにそう思っていたはずだった。

というのもこの頃、ずっと大事に使っていた彫刻刀が話掛けてくるのだ。

それからはとんとん拍子に作業が進み。作品の質も量も圧倒的に上がり、ついには顧問からは次の美術展への推薦を貰った。

それこそ最初は彫刻に対しての細やかなアドバイスを囁くだけだった。

「こうやって彫れ」だの「その角度で刃を当てるな」、「木と向き合え」なんて具合に、

しかし美術展の作品を進めていく中で、僕はスランプに落ち至ったのだ。手を付けようにも完成の想像が出来ない。

数日間悩んでいた所、彫刻刀は言った。

「もっと知らないとダメだ」知る。確かにそうだ。なんでそんな事に気が付かなかったんだろう。

「匂いも、感触も、温もりも、声も、知らないとダメだろ?作品の為だ」何度も何度も彫刻刀は繰り返した。作品の為、作品の為、作品の為。

翼の構造。形。匂い。感触。温もりも何もかも。本物に触れればすぐに解った。やはり彫刻刀の言う通りだったのだ。

鳩の亡骸は丁重に埋葬した。これも作品の為。残りもすぐに確かめよう。全ては作品を完成させる為。


題材は天使だった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


後日、クラスに転校してきて早々にマドンナへと駆け上がった四谷四子ヨツヤヨーコに放課後呼び出された。

呼び出されたのは体育館裏。何を言われるのか正直告白でもされるのではないかとワクワクしていた。

もしもそうだとしたらちょうどいい。作品作りを手伝ってもらおうと完全に浮き足立っていた。

「よう。来たな。」

すらっとした印象に切れ長な目の形。漆の様な黒髪はぱっつんと切り揃えられている。気が強そうな話し方。まっすぐと見つめられてどきりと心臓が跳ねた。

「お前、岡村とか言ったよな。ポケットのヤツだせよ。」

「それは、カツアゲってこと?」

右ポケットの中のものにそっと手を触れてなるべく余裕を持って聞き返した。

「お前、最近血生グせーんだよ。何か隠してんだろ。」

「何もないよ・・・。というか、四谷さんは告白するために僕を呼んだんじゃないの?」

「ちげーよ。バカか。誰が女に呼び出されて刃物持ってくるようなヤツを好きになるんだ?お前モテねぇだろ。」

「は?」

少し下手に出てればなんだこの女。俺のことをバカにしてる。俺のことが好きなんだろうと、優しくしてやろうと思っていたのに。なんだその態度は手伝ってもらおうなんてどうでもいい。つまりは解ればいいんだ。作品の為に。

衝動的にポケットから取り出した手によく馴染む彫刻刀を握り、なるべく柔らかいところに目がけて。思い切り振り下ろした。

ガツンと鈍い音が響いた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「邪魔すんぞー。」

ガラガラと扉を開いて入ってきた四子は古文準備室の一角を不法に占拠しており、ここ最近は毎日のように呪術研究部に入り浸っていた。

「四子ちゃんどーも。今日はちょっと遅かったんじゃない?」

ふよふよと部長が四子の元へと寄っていく。僕はやってきた四子に合わせて紅茶を淹れる準備は始めた。

「あー、同じクラスの岡村ってやつに襲われたから返討ちにしてた。」

「岡村って、あの岡村?」

クラスメイトの岡村といえば、美術部の岡村伸五オカムラシンゴの事だろう。

特に目立たないやつという記憶しかないが、少なくとも女の子を襲うだとかそんなやつではなかったと思うのだが・・・?

「まぁ、原因は分かってんだけど。」

ガサゴソと鞄の中から雑に取り出されたのは、びっしりと文字の書かれた包帯のようなものでぐるぐる巻きにされた塊。

いち早くその物質に反応したのは、パソコンで食い入るようにお菓子の動画を見ていた筈の真理さん。気が付くと僕の頭上から机の上のそれを見下ろしていた。

「あら珍しい。随分と使い込まれた呪具ね。」

「流石の付喪神。お目が高い。けど、残念。そんな大した道具じゃない。」

そんなやり取りに僕はもっとよく見てみようと手を伸ばした。

網膜を焼くような死のイメージ。鋭い刃という刃が体に突き立てられる苦痛が手を伸ばした僕の体を強張らせた。

「これ・・・。」

「ナントカ君どうしたの?」

「なんだこれ・・・尋常じゃない数の人の血を吸っている。みたいな・・・。」

「合ってるよ。簡単にとはいえ封印してこれだ。真理が言う通り掛ってる呪いだけは本物。そんで呪いが生きたまま奪えたのはこれで2本目。実は最近俺の管轄でこんな呪具の事件が増えてんだよ。」

確かにここ数週間、周辺では物騒な事件がいくつか起こっていた。所謂、通り魔的犯行が急増しているのだ。

毎度現行犯で犯人は捕まるものの、まるで感染症のように数日に一度くらいの割合で事件が発生しており、この頃は全国的なニュースとなっていた。

「呪いが生きたまま、というのはどういうこと?」

「この呪具な。人の生き血を吸うとすっぱり呪いが消えちまうんだ。だから偶然見つかった1本目の包丁が出るまで、この事件は警察が追いかけまわしてた。でもヤバイ呪具が出たってなってこっちに回ってきた訳。」

やれやれと言った具合で僕の淹れた紅茶を飲む。

「四子さんって霊専門の死神とか言ってませんでしたっけ。」

「そーなんだけどさー。こんな呪いに霊が絡まない訳ないだろって押し付けられたんだよ。だからよー。ここは一つ俺の仕事の手伝いを、頼む!」

そう言って四子は部長にパチンと手を合わせた。

部長は腕を組み考え込むフリをしていた。考えなくても分かる。こんなの部長が興味を示さない訳がない。

「いいよ!」

全力の笑みとサムズアップだった。こんなの多分わざわざ頼まなくても勝手に首を突っ込むか部長の方から頼み込んでいただろう。

「そうこなくちゃな!」

やりぃと言った具合でポーズを解いた四子はガハハと笑った。

「早速だけど明日は土曜日だし、皆んなで事件現場を巡ろうか!」

あれよあれよの間に僕の明日の予定ごと決まった。

「んじゃ、明日は9時40分に駅前集合な。」

そう言うと四子は机の上の恐ろしい彫刻刀を鞄にしまい颯爽と帰って行った。


「皆んなって、もしかして私も入っているのかしら?嫌なのだけれど。」

部長のセリフに真理は抗議したが、僕も強制参加なので連れ出される事になりますよ。

呪具編です。

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