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月の裏側を覗く

私が付喪神として自我を持つずっと前から彼女は虐げられていた。

閉鎖的な村だったここで金色の髪に青い瞳というのはあまりにも目立ちすぎていたからだ。

彼女の母は当時は珍しい西洋の人で彼女自身、その面影を色濃く残しておりとても美しかった。

元々村の大地主の一人息子だった彼女の父が始めた、貿易業が軌道に乗り出した頃に両親は出会い彼女が生まれたそうだ。

母の生まれ故郷で暮らしていた頃は良かったが、村を治めていた祖父が急死した事により一家が村へ戻ったことで彼女の人生を一変させた。

村人達は外部の者に厳しく、それは例え村を治める家の嫁と娘であっても変わらず、祖母に始まり村全体からの迫害の対象となってしまったのだった。

そして彼女から友人と呼べる者がいなくなり暫く経った頃、延々と話掛けられ続けた私は付喪神になった。

「お待たせしました!」

私に対して掛けられた声に空中で体を翻して向き直る。

「別に待ってはいないから安心しなさい。」

久しぶりの遊び相手に随分と昔の事を思い出してしまった。

「それで私を捕まえる作戦とやらはどんなものなのかしら、楽しみね。」


真理の能力に部長は二つの仮説を立てた。

一つ目は、ある一定の距離よりも近くに人間の背後に瞬間移動する。範囲は不明。

二つ目は、視覚で捉えた人間の背後に瞬間移動する。これは最後に視界に捉えた相手という場合もある。

まずはどちらかを満たす条件で彼女を追う。瞬間移動の選択肢を絞るための鬼ごっこをするという事だ。

このどちらにも当てはまらない現象が出た時は、また仮説からのやり直しだが部長曰く。

「この限られた範囲でルールが鬼ごっこである以上は最終的な攻略は出来るはず。でも四子ちゃんの事を考えると悠長にしている暇はないから最大限こちらに都合が良い前提で話を進める必要があるから、」

普段はあんまり考えなし、だが必要な時の頭は足りている人なのだ。こう言うギャップも部長のチャームポイントとしておこう。


ラウンド2が始まり部長に指示された通りに追いかけ続け、真理さんに瞬間移動を使わせること22回。

僕と追い掛けつつ観察に徹していた部長が合図を出した。

「ナントカ君!プランB!」

「了解です!!」

掛け声と共に真理さんを再度挟み込むよう位置を取り二人同時に突っ込む。

「それは見飽きたわよ。」

余裕の笑みを浮かべつつ真理さんは後ろの空間に下がることで、視界の中に僕と部長を入れようとする動きを取った。

そこに反応して僕が真里さんの背後へとギアを一段上げて飛び込む。

先に到達する僕を警戒して真理さんがこちらに振り返ったことで、僕を正面に捉える形になる。代わりに真理さんの背後に迫る部長が死角に入る。

そしてそのまま僕が手を伸ばしたことで、真理さんが視界を揺らした。それは瞬間移動の予備動作だった。

「今!!」


二人で前後に私を挟む。

攻略方法としては正しい。私の瞬間移動は、視覚で捉えた相手の背後に移動する。

視界に入るのが一人であれば移動先を絞ることが出来る。

だけど私はそんなに甘くはない。私がこの遊びをどれだけやり込んでいると思っているのだ。

移動速度は前方の海斗の方が早い。後方の不如がこちらに到達するにはまだ2秒ほど掛かる。

海斗がこちらに手を伸ばす。触れようとした瞬間、私は視界を巡らして周囲を確認した。

「今!!」

目の前で海斗が大きな声を出した瞬間私の視界を何かが覆う、認識から遅れて瞳のピントがゆっくりと合うと私は私と目を合わせている事に気が付いた。


真理ちゃんには瞬間移動前の動作ともう一つのクセがある。前後で挟まれた時、状況把握の後でより早く移動する方と正対する。

状況把握が早く正確な分、より脅威的な方に備える為の動きとも言えるし、敢えて晒している隙とも取れるがそこを突く事でしか早急な突破は不可能だと私は考えていた。

そして私が伝えたプランBとは、捕まえるのはナントカ君。真理ちゃんの瞬間移動阻止を私で分担する作戦だった。

「今!!」

正面から迫るナントカ君の合図と共に私は物理干渉ポルターガイストであらかじめ頭上にとどめておいたコテで真里ちゃんの視界を塞いだ。

ピカピカの大きなコテはまるで手鏡の様に光を反射していた。

私が想定した瞬間移動を封じの解はナントカ君の伸ばした手が真理ちゃんの肩に触れたことで証明された。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


真里さんを連れて3階に戻ると大きな廊下を含めて様々な部屋がボロボロのズタズタになっていた。

「これはホラーというよりは、ゾンビ映画みたいな内装になってるね。」

「急げってことでしょ!」

内装の傷跡を追うように廊下の奥へ進むと、取り憑かれた田端君と四子さんが変わらず交戦中であった。

僕と部長が足手まといだったからなのか端方見ると明らかに四子さんが優勢に見えるのだが、時間稼ぎに徹していたからか消耗しているのもまた四子さんの方だった。

田端君に牽制を入れて距離を取ると四子さんはこちらに合流した。

「おせーよ!土地神は見つかったのか!?」

「貴様、”様”を付け忘れているわよ。」

「おい、この黒出目金は誰だ?お前また新しい浮遊霊を捕まえてきたのか?」

「この人が土地神代理の真理さんです!」

「代理ってなんだよ・・・。」

「それよりあれ!田端君なんか怒ってますよ!」

正気を失った様相で何やら喚いている田端君は壁や扉に不必要な攻撃をしている。

「だから!何で、みんな僕を無視!するんだ!!長谷川も馬場も相沢も!!本当は僕をバカにしてたんだろ!!クソ!!!」

さっき出会った時はまだ対話が出来た気がしたけれど、と四子さんの方を向くと照れくさそうに頬を掻きながら弁解を始めた。

「攻撃せずに捌くのキツくてさ、売り言葉に買い言葉で結構ひどい事言っちゃったんだよね・・・。そしたらあんな感じになっちゃった。」

現在進行形でいじめられている中学生の地雷を踏み抜いたんだろう。この人大人気ない事この上ないな。

「あの五月蝿い小僧が取り憑かれている訳ね。」

汚い物を見るような顔で田端君を観察する真里さん。

「それで土地神様の力でアレはどうにかなるんですか?」

「私の力でもあれはどうにもならないわよ?」

こんな話をしながらも田端君は喚いているし、彼を取り巻くガラクタの嵐も質量が増えてこちらへの流れ弾が徐々に増えてきている。

「四子さん話が違うみたいですけど!?」

「ナントカ君落ち着きなよ!」

「方法はあるんだ。ただ、ちょっとそのな。土地神が少しとっつき難い奴だったから頼むのがな・・・。」

「何よ。貴様は私の所為だと言いたいのかしら?」

「いやなんというか、田端アイツに土地神の座を譲ってくれないか?」

今週は忙しそうだから

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