時間稼ぎと鬼ごっこ。
引き続き扉を打ち付ける暴風雨に耐えながら小さな作戦会議が始まった。
「本来ここの土地を治めてる霊の力が弱まってる。間違いなくさっきの田端ってガキが何かやったんだ。」
「それで、この後は、どうするんですが!」
「どうするもこうするもあのクソガキをブン殴るに決まってんだろ!」
「そんなことで解決出来ちゃうの?」
「いや出来る訳ねぇだろ。そういう気持ちってことだよ。」
「それで、四子さん、実際どうすれば、いいんですか!」
「ナントカ君声大きいよ!」
「だって、僕一人で扉、押さえてるし!扉を叩く音が大きくて、二人の声が、聞こえづらいです!」
「うるせーーーー!よく聞けよ!やることは二つ!土地神の霊を探して協力させる!ガキに取り憑いてる霊を払う!俺が時間を稼ぐからお前等は土地神を探してこい!以上!」
「了解!」
「ラジャー!」
「合図で飛び出すぞ!お前等は隙を見てさっきのベランダの部屋へ行け!」
目配せと共に扉を蹴破る勢いで四子は外へ転がり出た。
しなやかな身のこなしで、あらゆる方向から飛んできたガラクタを鎖で撃ち落とした瞬間。
僕と部長も部屋から飛び出した。
「作戦会議は終わったんですか?」
視界の端に捉えた田端君の挑発を無視して、再度ベランダの部屋へと逃げ込む。
「無視するなぁああ!」
血相を変えた田端君と僕等の間に割って入った四子が吠える。
「お前こそ俺を無視してんなよなぁ!」
縦横無尽の鎖が弾けたように火花が舞った。
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急ぎ2階へと移動した僕と部長は上階から響く金属音を聞きながら考えていた。
3階に辿り着く前に僕達は既に廃墟の探索を終えていた。とするとどこかに見落としがあったか・・・。
腕を組んでウンウンと唸っていた部長が声を上げた。
「地下室!」
「地下室なんてありましたか?」
「確信はないけど、少なくとも床下収納はあると思うんだ。とりあえず1階に行くよ!」
バタバタと1階へ辿り着くと僕達は手分けした。棚をズラし、戸という戸を開けた。主に僕が。部長は周辺をふわふわしていた。
「はぁはぁこれ本当にありますか・・・?」
「探し方が間違っているのかな?」
又も腕を組んでむにゃむにゃと何かを呟いている。
この廃墟3階の様子こそおかしいものの、1階と2階は広いとは言っても普通の家の様相・・・なんだと思うが・・・?
「隠れる。幽霊。逃げる。捕まりたくない。・・・あ。」
すると部長は壁という壁を通り抜け始めた。階全体を縦横無尽に移動する部長を眺めてしばし待つと数部屋先で部長の声が聞こえた。
「ナントカ君!あったー!」
声のする方へ僕が急ぐとそこは壁の中だった。
ひょこっと首だけを出した状態で部長が僕を呼んでいる。
「この壁の中、下に続く階段があるよ!」
僕は壁に向かってノックをした。音からして厚さは15cmくらいだな。肩幅に足を開き腰を落として、セイッ!
拳が壁に突き刺さり一呼吸置いてヒビが走り穴が開いた。向こうへと乗り越えると壁の中は畳を縦に半分にした幅の廊下があり、そこから建物の下へと向かう木製の古びた階段があった。
「部長急ぎますよ!」
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階段を下っていくと先にあったのは座敷牢だった。
まぁ座敷牢なんてのを見たのは初めてだったのでこの感想があっているのかは分からないけれど、牢屋というには居心地が良さそうな作りだった。
木製の頑丈そうな檻に触れてみると、かなり年季が入っている事が感じられた。
部長も興味深気に檻に触れようとした時、静電気のような音が鳴って手を弾かれてしまった。
「痛っ。」
手を引っ込めた部長の視線の先には、手を伸ばし背伸びをすれば届く程の高さに一枚のお札が貼られている。
「僕はなんともなかったんですけど・・・。」
「痛みを感じるなんてすっごい久しぶりな気がするけど・・・?」
「招く。」
女の声だった。
その声が聞こえてすぐ瞬きをすると僕等は座敷牢の中にいた。
どうやって入ったのか、どうやって出るのかも分からないまま辺りを見回す。
広さはどれくらいだろうか、ドーム状になっていて直径が20m程ほどありそうだ。高さもそれなりにある。
階段で降りてきた分がまるまるはありそうな高さだ。
状況観察をしていると部長が僕に声を掛けてきた。
「ナントカ君あれ。」
言われるがまま見ると灯篭が二つ建っておりその間には小さなお社があった。
「土地神様のお社?」
僕の呟きに先ほどの女の声が答えた。
「そうここは土地神様の眠る神域。こんなところへ貴様らは何をしに来たのかしら。」
腰まで伸びた金色の髪に透き通るような白い肌。まるで青い瞳の西洋人形のような顔立ちに黒い着物を着た女が立っていた。
「僕等はここで行方不明になった、少年を探してここへ来ました。」
「それと、上に居座っている呪霊も一緒に払えたらいいなって思ってます。」
「貴様らにその少年との縁も、呪霊を払えるほどの力も無いように見えるのだが?」
今まで感じた事のない気配の持ち主だった。仮にも神と名のつく霊、僕は努めて正直に話をした。
「その通りです。なので土地神様の力を貸していただきたく探していました。」
というよりもまるで催眠術にかかったように口が勝手に動いている気分だった。
「正直に答えてくれてありがとう。それじゃあ・・・。鬼ごっこで私を捕まえられたら力を貸してあげようかしら。」
そう言うと目の前にいたはずの女がパッと姿を消し、音もなく僕の背に冷たい手が触れた。
「次の鬼は貴様らだ。」
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「そういえば、自己紹介がまだだったけれど貴様らからしてももいいのよ?」
「はぁはぁはぁそういえば、そう、でしたね。はぁ、僕は南斗、海斗はぁ、と言います。」
「私は部長の今野不如と申します。」
ざっと5分。僕と部長は全力で追いかけ回した。しかし手が触れる寸前まで行くと僕か部長の背後へと瞬間移動してしまうのだった。
部長は幽霊になってから疲れがないということだったので、僕だけが一人ヘロヘロになるまで走らされていた。
「丁寧にありがとう。私は真理。真の理と書いて真理。土地神代理の付喪神よ。」
「それじゃあ、はぁこれからは真理さんとはぁはぁ、呼びますね。」
「ご自由にどうぞ。それと諦めたくなったらいつでも外に出してあげるから言ってちょうだいね。」
ひらひらと踊るように袖を振る真理は退屈そうに外側を指さした。
「いやいや、ナントカ君諦める訳ないよね?」
「はぁ、勿論まだまだ行けますよ。」
やっと呼吸の整った僕は改めて、軽くジャンプして体から疲れを振り払った。
「でもちょっとタイムもらっていいですか?」
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本日二度目の作戦会議である。
「部長は真理さんのあれどう思いますか?鬼ごっこであれはチートじゃないですか。」
「本当にそうなんだけどさ、ナントカ君の目でも追えてないんだよね?だとしたらアレは瞬間移動で間違いないんだけど、その上で真理さんを捕まえるにはあれを封じるしかないんだよね。ナントカ君が気が付いた事はある?」
「それでいうと移動する瞬間は確かに目で追えないんですけど、その前に真理さんは辺りを見渡します。ホント一瞬ですけどね。なので移動される瞬間は分かるようになりました。」
「クセ?それとも予備動作なのかな?」
「何か瞬間移動に条件があるとか、実は部長の物理干渉と似たようなもんだったりしません?」
「うーん。四子ちゃんならその辺も詳しそうだったけど・・・。まぁいいや一つ確かめたい事も出来たし、そろそろ再戦いってみようか。ちょっと耳貸してもらっていい?」
遅刻。