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呪術は小説より奇なり  作者: 麻人 弥生
妖刀村正擬き

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空研

四子が張り巡らせた鎖の束は全方位を守りつつ、厄介な見えざる斬撃の軌道を少しでも予測するために繰り出された咄嗟の策であった。

その意図を海斗は瞬時に読み取り、スムーズに前衛をスイッチした。


四子の鎖が前方の空間を押しつぶさんと村重へと迫る。

村重は冷静に手を振った。

目が慣れて来たのかそれは何かの動作なのではないかと海斗に一つの疑念を生んだが、直ぐに攻撃の波はやってきた。


鎖の束が見えない何かに少し触れたように動く。

そして束になった四子の鎖に喰いこむと中心に目掛けて真っ直ぐに進んだ。

四子と海斗はその斬撃の姿を捉えた。

それはまるで透明でガラスのような切れ味で風に揺蕩い宙を舞う布の様な斬撃だった。


体を捩って斬撃をやり過ごすと分銅を村重の正面に向かって放った。

うごめく鎖の塊から放出された矢の様な分銅だったが村重は左手でそれを掴んだ。

「止まって視えるぞ」

冷静に距離を取ったのは四子だった。

鎖の塊から飛び出すと海斗の横に着地すると一度鎖鎌を消すと再度両手に構え直した。

村重が掴んだ分銅も合わせて消えた。

「反応もナントカ並だな」

「僕でもアレは掴めないですけどね」

会話を始めて気が付いたが四子の服や肌がパックリと切れていた。

完璧に躱していたように見えたのだが、まとわりつく様な透明な斬撃に紙一重だったということだ。

「お前ら俺が突っ込んでる間に何か気が付いた事とかねーの?」

息を整えつつの四子の問いに僕と村正は顔を見合わせた。

「村重はただ手を振っている訳じゃなさそうでした」

「凄まじく斬れる”モノ”を使っているのは間違いないのだが・・・」

「んあー!!そんなんバカでも見りゃ分かってんだよ」

つまらなさそうに鎌をぶらぶらさせている背後から声が掛かった。

「じゃあさ、じゃあさ。村重が本当は何に自身の呪いを掛けてたかは皆分かったかな?」

「って部長!外で待機だったはずじゃ!!」

「ちょっと事情が変わってさ。それよりもこれなんだと思う?」

取り出したのは四角い塊だった。

「んだそれ、気持ち悪りぃな」

正直な四子の感想に対して正解を出したのは村正だった。

「見たこともないものだが、その質感は砥石だな」

「流石本職の村正さん!実はこれがシンカイに保管されててさ」

「それってつまり?」

「一連の村正擬き事件の発端はこの砥石が原因だよ」


「じゃあとりあえずその砥石を壊せば解決ですよね」

部長から砥石を貰うとそれを地面に置いた。

海斗は吐息で温めた拳をグロテスクな赤色の砥石に思い切り振りかざした。

「チェストォォォオオオ!!!」

「こいつカンフーが好きなくせに掛け声は”チェスト”なんだな」

「ナントカ君はその辺テキトー和洋折衷なんだよ」


おおよそ人体と物体がぶつかったものとは思えない音が響いた。


フフフと笑い声が響いた。

「私は砕けたかい?」

笑い声の主は村重だった。

「その砥石はまだ生きていたんだ。正真正銘の私自身。それが今砕けて死んだ」

「まだ生きていた??」

海斗の足元には砕け散った塊だったものの破片がキラキラと光っていた。

「知っているか?呪いとは願い。そして全ての死は呪術たり得る。

私はこれまでに数多の刃をこの身で研ぎ、その刃は様々なものを切り裂いた。

糧は十分に得た。血肉を束ねた身体もある。最早依り代は必要ない。

元の身体の死をもって、私自身が私自身の呪い(願い)そのものとなるのだ」

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