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呪術は小説より奇なり  作者: 麻人 弥生
妖刀村正擬き

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36/40

呪いの根源

俺は弟の妖刀を生涯可能な限り収集した。

その数はざっと5000振。

普通の刀鍛冶が生涯で打つ刀の倍以上の数だった。

俺はその一本一本に自身の呪いを刻み込んでいった。

本当であればあの時に全ての刀を破壊してしまえばよかったのだが、実際の所刀を収集していたのは例の件の後に使えることになった大名であった。

我々の流派は村重が殺した大名によって囲われていた為、刀の流通も全てその大名が仕切っていた。

あの騒ぎの後で一番早く接触を図ってきたのが今の大名ということだ。


そして私はその恩に報いる為に大名が集める刀の手入れを一手に買って出た。

というのが正しい顛末だった。


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「私はさ、一つ腑に落ちていない事があるんだよ」

「突然何かしら?私達じゃあ足手まといだから外に居るように言い出したのは不如の方だったと思うのだけれど」

「いやそーなんだけどさ、それじゃなくて」

迷い家を配置した路地からほど近い場所で村正を送り届けた不如と真理は空中を漂いながら海斗と四子の帰りを待っていた。

「私が言っているのは今回の事件の始まりについて。

侍・・・じゃなくて村重さんが暴れる前から事件は起こっていた訳でしょ?

それで当初私達が考えたのは呪いが伝染するという仮説。

実際それは可能だという事でそのまま来ちゃったけどさ。村正さんがシンカイの店主さんに取り憑いたのはここ最近。

村正さんの話が本当であれば村重さんの妖刀の呪いが効力を発揮した時には、村正さんが目覚めていないとおかしいんじゃない?」

ざっと説明を聞いた真理はふむと言い何か考えるような素振りを見せた。

「そうね・・・。辻褄を合わせる事は幾らでも出来るけれど不如が欲しいのはそんな答えじゃないわよね。

だとすると考えられるのは、刀が呪いの原因ではないという可能性じゃないかしら。

呪いが効力を持つための条件か、そもそも呪いを掛ける方法が別にあるか、それとも幾つかあるのかも知れない」

真理の話しながらも順序立てる様な説明を聞いて不如のどこへ繋がっているのか分からない思考は加速した。

「そか。そうだよね。・・・。だとしたらまだ私は何か見落としてる気がする」

「だとしたらどうするの?」

分かりきった笑みの真理に不如も笑顔を返した。

「そりゃあ、呪物()探しに行くんだよ!!」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


3度目の阿佐ヶ谷シンカイだった。

「それでまたどうしてここなのかしら?」

「暮林さんが言っていた30年前の事件について実はあの後調査してみたんだけれど・・・。

関連はなしってことになってるんだけど、全国で何件か刃物が凶器の事件が起こってたんだ」

二人は閉じた扉を意に介さずに通り抜け店内へと入る。

「後に犯人が語った内容の手記にあったじゃん。暮林さんが持ってきたやつね。

それに最近仕事が上手くいっているって書いてあったんだ。

もし、犯行に使われた凶器達に共通点があるとしたら”誰が手入れをしたか”なんじゃないのかな」

大量の刃物が並ぶショーケースを横目に奥へ進む。

先日開くことがなかった台所の床下収納。

不如は手近にあった幾つかの包丁を物理干渉(ポルターガイスト)で浮かせると収納の扉に片っ端から突き立てた。

「おりゃ!てやっ!!うりゃ!!!えいっ!!!!」

ゆるい掛け声とは裏腹に扉は穴だらけになった。

「これくらいで大丈夫かな」

先日同様に扉に手をかざすとその扉はすんなりと開いた。

ズタズタの扉の裏に貼られたお札の真ん中に穴が空いていた。

「貴女・・・。他人様(ひとさま)の家なのだからもう少し上品に開けられなかったのかしら」

「今は緊急事態だからね!さて中身は、と」

ガソゴソと漁り始めた不如は早々に目当ての物を見つけた。

「真理ちゃん。今回の騒動、呪いの根源はこれじゃないかな?」


不如の手に収まったそれは背筋が凍るような赤黒く禍々しい塊。

まるで人間を押し固めた様なそれは砥石だった。

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