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呪術は小説より奇なり  作者: 麻人 弥生
妖刀村正擬き

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34/40

兄弟喧嘩

「今回も?それはどういうことだ」

村正は弟を睨みつけたままに聞き返した。

「それにしても・・・。相変わらず全てがお粗末ですね。構えも振りも何もかも」

「話を逸らすなよ。だがぁまぁ、なんにせよお前を閉じ込める事には成功した。今回はこれまでだ」


「あのおじさんは誰?」

不如(しかず)が見つけてきた、本物の村正らしいぜ。ちなみに侍の方は村正の弟の村重だってよ。

元はシンカイの店主に取り憑いていたらしいんだが、迷い家の中だから霊が実体化してんだ」

兄弟の間に流れているのは不穏な気配であったが、その間に僕らは極力の回復に努めていた。


「何も分かっていないですね。それだけ鈍感に過ごして来た癖してどうして今更構ってくるんですか」

「そりゃあな、弟の不始末の責任は俺以外に取る奴がいないからに決まってんだろ」

「不始末?」

「お前やお前の刀が何人殺したと思ってんだ。挙句の果てに妖刀なんてもん作って、死んでからも好き勝手にやりやがる」

「それで?今回は味方も沢山居て勝てそうだからそんな口を叩いているって訳ですね」

村重が刀を構えるのに合わせて村正も持っていた脇差しを構えた。


先に仕掛けたのは村正で細かな足運びで間合いを詰める。

村重の刀の方が数十cm長い分、村正の方が先に相手の間合いに入った。

先ほどまで何度も受けて躱していた1kg程の鋼鉄の鋭い塊が目にも留まらぬ速さで振り抜かれる。

離れてみると改めて、村重の剣戟の凄みというのが分かる。

振った刀の軌跡がまるで図形の様に(くう)に残る。


しかし、そこで想定外だったのは村正がその短い刀身で村重の刀を弾いていたのだ。

村重は一瞬驚いた反応を見せたものの、重ねて6度の斬撃を繰り出すがその(ことごと)くを村正は弾いて見せた。

「なるほどそれも妖刀という事ですか」

「驚いたか?お前の(呪い)を壊す為だけに拵えたんだぜ」


互いに退かぬ激しい攻防であったが、明らかに村正の防戦一方だった。

僕は村正に加勢しようと三節棍を握り前に出ようとしたが、それを察した四子に制止させられた。

「あの呪具の特性上仕方がない事だけどな。動きから見て村正の方は明らかに素人だろ、多分あの刀は”近づいた刀を弾く事”だけに特化させた呪いが掛かってんな」

つまり僕たちが間に入ることによって、互いを邪魔し兼ねないということなんだろう。

「呪いってそんな便利なものなの?」

僕の問いに四子はハンと鼻で笑って返す。

「んな訳ねーだろ。でもな呪いの元を辿れば最終的に人間ないし、生物(せいぶつ)の意思やら願いが必ず作用することになる。強い呪い程、大掛かりな呪術程差し出すものがデカいってだけだ」



「無理やりに刀を振るって防いだところでジリ貧ですよ」

延々と刀をぶつけ合う中で村重が言ったことは、何よりも村正が分かっていたことだった。

つまり狙いはその均衡の中で着実に果たされていたのだ。


村正の体が熱暴走を起こす寸前、村重は自身の悪手に気が付いた。

(私の刀だけ刃こぼれしている・・・!!!!)

「所詮俺もお前も妖刀の取り憑いているだけの存在!刀が折れればそこまでだろ!!!」

ばきんと一際大きな音を立てて村重の刀は真ん中から折れた。

はぁはぁと大きく呼吸を乱す村正に対して刀を折られた村重は静かだった。


「確かに、私は兄上のことを過小評価していたのかもしれないですね。

前回も、前々回も、その前も、何度も何度も多少の横槍を入れてくるだけで、大したことは出来ていませんでしたから」

「あぁ?何の話だ」


「前回、前々回・・・?」

四子が何かを思案するように呟く。


パキンと薄氷が割れるような音がした。


「あ・・・」

無意識のうちに声が漏れたのは、村正の持っていた刀の刀身が斬られていたからだった。

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