拮抗と罠
四子が合流してから状況は拮抗しているように見えた。
村重は激しい打ち合いの中で僕と四子の攻撃をいなしつつ、こちらへの攻撃を散らし致命的な隙を狙っているようだった。
焦燥瞬間が延々と連続していた。
しかしこちらが想像しているよりも村重の脳内は疑問で溢れていた。
(こいつらは何を狙っている・・・??)
敢えて攻撃のしやすい隙を見せるが其の悉くを的確に回避される。
かといって防御に徹しているようにも見えない。
刀を作っても、刀を振るっても天才だった彼を前にこれ程打ちあった相手は過去にいなかった。
それゆえに拮抗して見える時間が進むにつれてその完璧主義が自身を蝕んでいた。
(あの角は右!!)
焼け付くような脳内で目の前の景色と地図を照らし合わせる。
(直進!2個目の角を左!!!)
四子と僕は目的地への移動のみに集中していた。
それが防戦一方にさせる訳でもなく、絶妙な攻防一体を見せることで村重を撹乱していたのだった。
あくまで逃げの姿勢を前面に出さない逃走、力量の差によるギリギリで勝てるという状況が村重の策に対する警戒心を鈍くさせていた。
(勝負になっているのは四子が前に出てくれているからだ)
四子は僕の倍近い手数を出していた。
本人曰く「場数が違ぇ」の一言で全てが片付くらしい。
人を強くするのは経験と慣れだそうだ。
一瞬も気の許せない剣戟の合間を縫う。避ける。弾く。
相対性理論によって凝縮した時間がショートしていた脳の回路を繋ぎ直すが如く。
一挙手一投足が自身の想像を超える反応と動きを見せる。
そして最後はこの成長を持って生き延びるのだ。
「押し込め!!!!」
四子合図に無茶な体勢から村重を力いっぱいに押す。
村重は刀で鎌と棍を同時に受けるとその場に留まった。
僕は棍を手放し、思い切り鳩尾に目掛けて蹴りを叩き込む。
まさか獲物を手放すとは思っていなかった村重は蹴りをまともに受けると後ろへと数歩仰け反った。
瞬間、草木が夜露に濡れるような懐かしい匂いがした。
「やっと捕まえたぜ、クソ人斬り侍」
「ここは・・・?」
足の裏の感触が先程までとは違う。
あたりを見回すと小さな祠を中心に巨大な草原が広がっていた。
「ここは迷い家ってんだ。あんたが待ち合わせ場所に来てくれれば簡単だったのに」
それは特定の手順を踏んだものを招き入れる土地の呪いを人工的に再現した死神の道具だそうだ。
人も呪いも取り憑かれた者も全てを土地に縛り付ける。隔離するための呪具。
そして僕達の目的は侍をここ連れてくることにあった。
「どうやら外界とは遮断されているようだが・・・。結界のようなものか」
そう呟き辺りを見回す。
背の低い草原、遠くには山々の影が空に浮かんでいる。
何より先程までは夜だったはずなのに、空が少し白んでいた。
「村重ぇ!!!覚悟ぉお!!!」
背後から村重に斬りかかったのは村正の渾身の一撃は空を切った。
勢いそのままに草の上を転がった村正を見下ろした村重は、久しぶりに会った友人に声を掛けるように言った。
「兄上、今回も遅かったですね」




