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呪術は小説より奇なり  作者: 麻人 弥生
妖刀村正擬き

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30/40

天才の苦悩

金属と金属がぶつかり合う音が街に響いていると通報が幾つも入った事でその事態は発覚した。


「当初予定していたところからだいぶ早いですがそちらは大丈夫ですか!?」

焦った様子の暮林の電話の相手は四子であった。

「俺もまだ着いてねぇよ!」

風切り音と共に聞こえた返答は怒号のようだった。

「打ち合えてるってことは相手してんのはナントカの奴だろ!!とりあえず急ぎでできることするしかねぇ!!」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


暗い路地で幾度もぶつかり合う金属の塊はその都度火花を散らした。

「今回は覚悟をしっかり決めてきたから、一筋縄じゃいかないでしょう」

冷静を装いつつ侍へと話掛ける。

「果し状の時間はもう少し先だと思っていたんですけど」

浪人笠で表情は見えないが、その問いに答えた声は思いの外若く感じた。

「暁九つだったか。永い間過ごしていると時間というものは些細な概念だと気が付く。

生前はもう少し時間にうるさかった記憶もあるのだが・・・。

しかし数日前に比べて、動きが良いな。研鑽を積むというのは良い事だ。私には分からないことだが兄はそう言っていた」


言い終えると返事も待たずに繰り出された現実離れした速度の踏み込みと同時の斬り上げを三節棍を使って勢いをそのまま弾き上げた。

普通であれば刀を手放すだろうという衝撃はそのまま、僕へと返ってきた。

変わらずの怪力。

両手で振られた刀はそのまま地面から生えた大木が如く叩いた僕の手をビリビリと痺れさせた。


上段からの返す刀で更に僕の方へと一歩踏み込みを入れる。

距離を詰められるとまずい!!!咄嗟に三節棍の繫がりを2本と1本に分けると左手の短い方を相手の顔の位置目掛けて思い切り振った。

侍は上段の構えのまま柄を叩きつけ防いで見せた。

柄を叩きつけられて棍が弾き飛ばされるが、右手の二節を使って柄を振り下ろした勢いを殺さない流れるような面の軌道を逸らし、バランスを崩した体ごと横に避ける。

地面に着いた左手をバネにして、弾き飛ばされた後方の棍の元に着地して再度三節へと連結する。


当初の作戦では、誘い出して有利な場所で果し合いという流れだったがこうなるとは・・・。

先ほどから僕の視界では幾度となく死のイメージが走り回っていた。

ギリギリで試合が成立しているのは、少なからず今日の特訓の成果もあるだろう。


「興味深いな、知らない技術だ。」

侍は距離を取ったまま刀を構えずに初めて弾んだ声を出した。

「私は大抵のことは思いのままに出来るんだ。しかしどうも、呪術というのは上手く扱うことが出来ない。何故だろうな。」


それは自問にも感じられる言い方だった。


「さぁ?僕とは違う出来がいい頭で考えたらいいんじゃないですか?」

脊髄がアドレナリンを使って生成した言葉を理性でなんとか飲み込む。

わざわざ相手が手を止めているのに直ぐに戦闘を再開させるようなことを自分から言うもんじゃないなと思ったからだ。

「出来てないと思い込んでいるだけで実際は十分以上に出来ているんじゃないでしょうか」

気を抜かず、相手の一挙手一投足に注視したまま口にした言葉をゆっくりと咀嚼するように会話が続く。


「凡人は完璧を求めない。故にすぐにそう言った諦めを口に出来るのだ。やはり、才能がある者が苦悩を続けなければならないのか」


なんて返すのが正解だ・・・??

少し黙った僕の横を後方から何かが勢い良く掠めた。


「ちげーよ!おめーが井の中の蛙なだけだろ!!」

聞き覚えのあるじゃらじゃらという鎖の音。口の悪いセリフと共に僕の背後から飛んできた分銅が煌いた。


「それは興味深い意見だ」

矢のように飛んできた分銅だったが、弾くでもなく、避けるでもなく刀の刃の上を滑らせるようにして最小限の動作でそれをいなした。


飛んで言った分銅を手元に手繰りながら、四子は悪態を吐いた。

「勝手なことをしやがって、準備が台無しじゃねーかよ」

「それ僕に言うことじゃないと思うんだけど・・・」

「いいか?作戦変更だ。不如がこっちに向かってる。あいつの弱点(ウィークポイント)を連れて来るらしいからな。それまで時間を稼ぐ」

「了解」


「興味深い・・・が、その意見。(おまえ)にその言葉に足る価値があるのか私に示してくれ」

刀の切っ先がこちらに向くのに合わせて、僕と四子は互いの武器を構える。


初撃は数日前と同様の喉元へ向けての突きが放たれた。

不死の呪いが出なかったからという手遅れな理由でその攻撃が自分に向けられたものじゃないと気が付いた。


それを四子はただの動体視力で持ってその初撃に対応した。

自分と相手を結ぶ最短距離を一瞬にして詰めてくる村重に対してその眼前に分銅を置くように放ったのだ。


村重は勿論反撃に対しての警戒は怠っていなかったが、眼前に置かれたものに対して自身が突っ込むという構図。

静止したものへの反応は遅れた。刹那、首から上に凄まじい衝撃が走った。



そして、足が止まる。



仰け反り、体勢を崩した村重への一遇のチャンスにいち早く反応したのは四子だった。

それはひとえに慣れの一言で片付けられるかもしれないが、この中で誰よりも冷静であり凶暴なことからくる攻撃意識がそうさせたのかもしれない。

慣性の法則が働く分銅に繋がる鎖を左手で掴む。右手に入れ替えた鎖鎌を浪人笠の上からこめかみの位置に向かって突き立てる。

次点で動き出した海斗は、四子よりも村重と打ち合っていた時間が長かったからかその不自然な隙に気が付いた。

「四子ダメだ!!」

声には出たがそれだけじゃ・・・!!!!

体を仰け反らせた体勢のままの侍が握る右手の刀の柄を足刀を使って打つ。

カウンターを狙っていた村重は柄を蹴られたことでその軌道を大きく反らした。

それに伴って狙いを外した四子の鎌は侍の浪人笠を切り裂いた。

「こいつ意識があったのか!?」


はらりと落ちた笠にその顔が露わになる。

「今のは惜しかった。なかなかどうして楽しませる」

総髪に無精髭、爛々とした瞳に薄ら笑いを浮かべていた。

細い首に痩せぎすな印象を受ける男だった。


「額当てで受けやがったのか」

四子は舌打ちをした。

「でも一本には変わりないでしょ」

一人では確実になし得なかっただろうがそれは少なからず希望であった。


この日数時間に渡って行われた修行という名の四子とのボコられタイムは殺気(コロスケ)体得以上のプラスに働いていた。

互いに本気で繰り出しあった幾つもの攻撃パターンはその動作の起こりから、互いの次の動きを鋭く察知し村重を相手に2対1以上の連携を見せていたのだ。

勿論、四子も海斗も普段の鍛錬があっての動きであったが、四子の場慣れと海斗の数瞬先の未来視は格上相手に通用していた。


そんな状況に置かれた村重の思いは別にあった。

生前からの人生を含めて、初めて人間相手に本気(マジ)を出せることにある種の感動をしていたのだ。

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