百聞を一見に如かず。
幽霊と死神と一般人というトリオになった僕達は、とりあえず目的地である廃墟を目指してトンネルの中を移動していた。
てっきり素人は帰れとでも言われて一悶着するかと思ったのだがそういう訳ではないらしい。唯、自分たちの身は自分で守るようにと釘を刺された。とは言われたものの僕も部長も死神を名乗る人と出会ってのは初めてだったので、謎テンションに突入していた。
もう部長なんて質問攻めである。好きな食べ物、好きな色。休日は何をして過ごすかなど、相手が生返事なのも相まって勝ち目のないお見合いみたいになっている。
「それで、どうして私とナントカ君は襲われたのかな?心霊狩りがどうとか言っていたと思うけど。」
生返事だった四子が少し申し訳なさそう顔をする。まぁ人違いで襲われたのだから少しは反省してもらいたい。
「簡単に言うとインチキ霊媒師だとか、霊かなんかに取り憑かれた人間なんかだな。心霊スポットてのは、少からず云われがあったり、何かしらの噂になるような原因がある場所なんだが、そういう所は閉鎖的な分バランスが崩れやすいんだ。一般人の冷やかし肝試しならいざ知らず、外からナニカが入り込んだ場合良くも悪くも変化が起こる。今回はそれの確認に来たんだが・・・。」
そう言って僕等にジトッとした視線を向けた。
「どうも最近、この辺を荒らしまわってる奴がいるんだよ。おかげでこっちは残業続き。そんな折、明らか怪しい奴がいたら八つ当たりの一つでもしたくなるだろ?結局人違いだった訳だが、ごめんな!」
一転して二パッと明るい笑顔を作る。やはり猫の様な印象の子だ。
「ごめんなで僕等は一回死んでる訳ですか・・・。」
「いや、元気にピンピンしてんだろうが。なんなら俺が返り討ちにあってんだろ。」
「いやこっちの話ですよ。」
「まぁいいや、そんでお前等は何しにここへ来たんだ?」
「ウチの学生の弟君が友人三人と肝試しに来たらしくて、そこで一人行方不明者が出ちゃったらしくてその子を探しに来たんだよね。」
「ちなみに、それって5日くらい前だったりするか?」
「確かに5日前って言ってたよ。」
部長の返答に四子は立ち止まりクソでか溜息を吐いた。
「はぁ〜?ジジイから聞いてた話と違うじゃねぇか・・・。」
僕等のポカンとした顔に四子は補足を入れてくれる。
「どっから説明したもんか・・・。」
以下四子の説明を簡単に要約したものになる。
まず霊にも幾つか種類がある。ざっくりと3つ幽霊<悪霊<呪霊でそれぞれ生きているものに対して影響力が変わるらしく。
幽霊は体を持たぬ意志の塊、基本的には無害であるが同じ部屋にいると5度ほど温度が下がるらしい。
次の悪霊は一般人が場合により認識出来るレベル。幽霊と違い人を襲う。ここからが死神による退治の対象となる。
最後の呪霊は、呪いを振りまく存在。呪いとは、その霊の特性の具現化であり、それはこの世の理に反するものとなる。
四子曰く、死神とは生きるものと霊とを正しく線引きをする者だそうだ。
心霊スポットとは大概が、忌み地や云くのある土地との事で霊が集まりやすく、代々そう言った土地を治める為に様々な試行錯誤があったそうだが、専門家の手が回らない様な所では人柱や生贄などを使っていた所も多く、この先の廃墟も元を辿れば人柱により治められていた土地に建っており、そんな土地のバランスが崩れるというのはいわば大事件であった。
肝試しに来る人間が増えれば、更に噂が広がり、霊はより力を付ける。そうすれば、より被害が出てと悪循環に陥ってしまう。
早急に対処しなければ、対応出来ないほど強力な呪霊が産まれてしまうというのが、四子の懸念だった。
「それじゃあ私の物理干渉も呪いってこと?」
「俺も別に座学をしっかりとはやってねぇから、分かんねぇけど似たようなもんだろ。」
そうこう話をしているとトンネルの出口が見えた。
「さて、散々説明したけどよ。ここから先は呪われた土地、俺もお前等を守る余裕は無いからな。」
改めての四子の警告に僕と部長を顔を見合わせるとニッコリと告げた。
「オーケー望むところだね。」
「いざという時は四子さんの事も守りますから安心して下さい。」
トンネルを抜けると夜の闇を月明かりが照らしていた。
幻想的な風景のように聞こえるかもしれないが、何も明かりの無い夜の森というのはそれだけでも十分に怖いものなのだ。
そしてその廃墟はそんな闇の中に静かに身を潜めて獲物を狙う深海魚様に玄関を開けて待ち構えていた。
警戒をしつつ中に僕等が入った途端、大きな音を当てて玄関の扉は閉まった。
両開きの木製の扉は元から壁だったのではないかと思うほど、頑丈に閉まり押しても引いてもビクともしなくなった。
「ここからは呪霊のナワバリだぜ。」
気が付くと四子は出会った際に振り回していた、小さな鎌を左手に握っている。その後、何か思い当たった表情をして手首の数珠を一つ外して僕へ渡してきた。
「そういえばナントカ、お前霊は見えても触れないだろ。これを付けとけ、俺の殺気が込めてある。」
「えっ幽霊ってそもそも触ったりは出来ないんじゃ?」
「何回も実験したけど、私からは触れても、ナントカ君からは無理だったよね?」
だいぶ前、暇を持て余していた僕と部長は幽霊の可能性についての実験を行ったのだ。その際、発見したの物理干渉であり、霊側から実体に干渉することは出来ても、こちらから霊に干渉する術は見つからなかったのだ。
「死に神は殺気を使って霊を払う。一度死んだ霊をもう一度殺すって訳だ。その為の武器が殺気、殺気が具現化したものだな。」
「そんな危ないもの僕等に振り回してきたんですね・・・。」
「まぁ過ぎたことじゃねぇか!気にすんな!俺ももう気にしてねぇから!」
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僕は豪快に笑う四子から受け取った数珠を右手首に付けた。
その後、僕達は廃墟の中を探索したが特に手掛かりを見つけることも出来ずに例のベランダから最上階へと上がった。
割れたガラス戸の鍵を開けて部屋の中へと入る。
なんの変哲もないただの部屋だったが、明らかに僕達以外の気配を明確に感じた。
扉の先、もっといえばこの階の何処かにそれはいる。そんな確信が込み上げてきて拭えなかった。
「これは怖い雰囲気なんじゃない?」
ふよふよと部長は僕の背の後ろへと寄ってくる。
僕等はそれぞれに臨戦態勢を取り、廊下へと続く扉を開けた。
そこには不自然に広い廊下があった。
この部屋の倍はあるであろう幅、先は闇に飲まれているが光の届く範囲でもざっと20mはありそうだ。
廊下の両側にはそれぞれ今開けたものと同じデザインの扉が等間隔で並んでおり、その内側は異様なほど静まり返っていた。
「伏せろ!!」
視界の一瞬の閃きに僕は叫んだ。
予め予想していたかのように避けた四子と遅れた部長の手を僕は右手で思いきり引っ張る。
部長のうぎゃっという声と同時に、先ほどまで僕等が居たところにはガラクタが弾丸の様に叩き込まれた。
咄嗟にガラクタの飛んできた方を見る。闇の先から足音を立てて現れたのは、拓也君から見せてもらった写真に写っていた少年だった。
「ビヒチビの言う通りだよ。足りなくなったらやってくるんだ。」
空を手繰り寄せる仕草をすると、壁にめり込んでいたガラクタが少年の周囲へと帰って行く。
二の矢が来る前に形勢を立て直さなければ・・・!!
少年が手を前に出そうとした予備動作を拾った四子が僕に目配せをする。
それ合わせて低い姿勢のまま、一番近い右手の扉を開けて部屋に逃げ込んだ。ガラクタが木製の扉を強烈にノックする衝撃を自分の体で抑え込む。
ガラクタの雨が止むと僕は扉の向こうに聞こえるように大声で話しかけた。
「君は田端君だよね!?君も馬場君を探しに来たのかい??」
そう、写真で見た彼は拓也君と馬場君の友人である田端君であった。
反応のない扉の向こうに変わって、四子が応えた。
「無駄だと思うぜ、あれはもう取り憑かれちまったみたいだからな。」
また来週です