偽物の侍
不発に終わった5日目の巡回も終わって今日は土曜日。
やっとこさ終わった一週間に僕は久しぶりの惰眠を貪っていた。
一応本日も学校に集合ということにはなっていたが、少なくともお昼までは寝ていられる。と数回目の2度寝の構えに入った時に携帯が鳴った。
間違えてセットしたアラームかと思い枕元に手を伸ばす。
すると画面には暮林の文字があった。
「あい、もひもし。」
欠伸を押し殺しつつ電話に出ると、てんやにわんやと言ったいろんな人の声をBGMにしつつ話始めたのは暮林さんだった。
「急に連絡申し訳ないです。これからすぐに学校へ来てください。四谷さんにはこちらから連絡しておくので、」
それだけ言うと電話は切れた。
なんだか良くないことが起きたor起きているということはわかったので、僕は急ぎ学校へと向かう支度をするのであった。
支度ついでに点けたTVでは、今朝方から降り出した雨は夕方ごろに一度強まり深夜には止むとのニュースが流れていた。
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「「遅い!!!」」
古典準備室の扉を開けた僕に部屋にいた全員からの、というか主に四子と部長のクレームが襲った。
「これでも雨の中急いで来たんですけど・・・」
と僕は頭の寝癖を指さした。
「いつもそんなもんだろーがよ」
「私たち20分は待ってんだよ」
そんなこと言っても部長はここに住んでるみたいなもんじゃないか。とは責められないので、僕は本題へと話を逸らすことにした。
「というか何も聞かされてないんですよ、僕。一体何があったっていうんですか」
そして視線は暮林さんの下に、否、暮林さんの持つ紙に集まった。
「これです」
机の上に出された紙を覗き込む。
「これ、侍が置いてった手紙じゃないですか」
それは数日前に相対した侍の手紙であった。真理さんに解読してもらったところ大した意味はないものだったと記憶しているが・・・。
武術家に武器を使って申し訳ない。刀を持つ資格はない。中で、構えが美しい。再度手合わせ願う。無銘。
確かこんな感じの内容だったと思う。
「やっと専門家の解読が終わったとのことで、今朝その翻訳が届いたのですが内容から見るにこのままだと今夜。侍による被害者が多数出る可能性がありまして、現在署の方はその対応に追われているといった状況です」
「要はあれだろ。一般人への被害はなるだけこっちが抑えるから、俺らでちゃんと侍のヤローをブッ殺せよってクレバーは上に釘刺されたんだろ」
「まぁ、はい。申し訳ない限りですが、その通りです」
「それで、肝心の手紙の内容ってのはどんな具合だったんですか?」
僕の問いに暮林さんはもう一枚の紙をポケットから出した。僕と部長と四子は頭を突き出してさらに覗き込んだ。
現代で稀にみる研鑽、誠に感服した。しかし其れ故に惜しい。
我が太刀に対し、貴殿の偽りの刀は天と地ほどの力の差がある。
数度の獲物を持つ偽の侍と会えど、どれも鈍、構えもままならぬ。
刀を持つ資格などない者ばかりである。
貴殿も真の侍に非ず。
しかし拳の道に生きる姿勢、その構えから我は悟った。
今一度貴殿との手合わせの機会を得るまで、我は偽の侍を狩り、更に腕を磨こう。
異種試合。次は互いの命を賭けて。
無銘。
「「「・・・・・・・・」」」
僕らは無言で部屋の天井の隅で小さくなっている真理さんを見た。
あえて触れなかったが、
部屋に入ってから今の今まで、真理さんが一言も発さなずに部屋の隅にいた理由がなんとなーくわかった気がする。
「何よ」
こちらを見上げるようにして視線をよこした真理さんは、いつもとは違うしょぼくれた感じでそう言った。
「行間がすごい手紙でしたね」
「私なんか中身全くわかってなかったんだから、真理ちゃんはすごいよ!」
僕と部長がフォローを入れている間に四子は話を進めていた。
「んで、なんで今日侍が出るって話になんだ?」
「今までの通り魔事件は突発的且つ、無作為に事件が起こるため対応が遅れていましたが、侍が現れてからのここ数日は最初に侍が現れた深夜の時間に絞って巡回をしてきました。そして実際に南斗さんは一度侍に襲われています。しかし今回、手紙の内容がわかったことで侍は通り魔の犯人とは違い明確な目的を持って人を襲っていることが分かりました」
そこまで聞いた部長は暮林さんの回答に喰い気味に合わせた。
「それが偽物の侍って訳ね」
「偽物の侍です」




