一旦整理をしてみましょう2
夜の巡回に備えて一度自宅へ帰った私が署に顔を出すと随分と年季の入った手帳が置いてあった。
中身を見てみると内容は、ありふれた怪談のような内容だった。
余計になんだこれと手帳を手に思案していると背後から声が掛かった。
「おう、暮林。一通り目を通したか?」
「このいたずら、滋さんですか?私が変な事件に回されたからってからかってるんでしょう」
私は手帳をひらひらと振ってみせた。
「あのな。新人はみんな最初に起きた○怪に当てられんだよ。別に所長も移動してきたばっかのお前に一々嫌がらせをしてる程、暇じゃあねーよ」
げんこつでも飛んでくる勢いだった。署員から慕われている一方で、犯罪者からは雷オヤジと噂されるこの人はいつだって迫力がある。
そしてそんな反論に私は軽く膨れてみせた。
「それじゃあこれ、なんだっていうんですか」
「その手帳はな。俺が30年前、最初に担当した○怪事件で使ってたヤツだよ。そんでもってお前が見てたページは、最終的に捕まった犯人の事情聴取の内容だ」
滋さんの説明にピンと来るものがあった。
32年前、東京の西の端のとある地域で起きた事件だったはずだ。
犯人は刃物屋の主人で店の日本刀で暴れまわり、死傷者は2名。その後主人は捕まり、死刑の判決が下っている。
「表には出てないけどな。これも呪い絡みってんで相当拗れた。結局裏4課に回して俺達はずっとその雑用よ」
裏4課。それは四谷四子達、すなわち死に神達の警察内部での通称であった。
メンツ的な部分であくまでも彼らは、組織の中の者ですよと外に示す為に慣例としてそう呼ばれているようだが、そんなことを気にしているのはこちら側だけであった。
「それで、滋さんはこれを私に読ませてどうしろって言うんですか?」
「この事件な、本当の被害者はもっと多いんだ」
そう言った滋さんの表情は暗かった。
「兎に角。こんな事件で手柄を立てようなんて思うなよ。餅は餅屋に任せておけばいい。その手帳は事件の内容も似てるしよ、なんかの手掛かりになるかと思ったんだ。今回の担当に渡しておいてくれ」
私は改めて手帳はペラペラと捲ってみた。
30年前の似たような事件・・・。考え込んでいても仕方がないので、私は二回頬を叩いて気合を入れた。
さて今夜の巡回へ向かわなければ。




