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百聞が一見に如かず。

そんな風に勢いよく学校を飛び出したものの、依頼人のアフターフォローも大切。

18時半、僕等は長谷川さんから渡された住所のアパートの前に着くとインターホンを押した。

「こんばんは。高円寺高等学校呪術研究部の南斗です。」

しばらくしてチェーンを掛けた扉越しに目の下に大きなクマを作った少年が訝しげに現れた。

「お兄さん誰ですか?」

「君のお姉さんから相談されて来たんだけど、君が拓也君かな?」

拓也君は僕の足元から頭までをじっくり観察した後に言った。

「なんかの宗教ですか?母さんから知らない人とは話すなって言われてるんで。」

僕の何が彼の警戒センサーを鳴らしたのかはよく分からないが、バタンと無慈悲に扉を閉められ、丁寧に鍵の閉まる音が虚しく響いた。

こうなったら仕方がない実力行使と行こう。

「部長お願いします。」

「はいはい〜。」

部長は雑な返事と共に扉の向こうへ通り抜けるとガチャガチャと音を立てて扉が開いた。

僕は玄関で驚きの表情のまま腰を抜かした少年に笑顔で告げた。

「失礼、お邪魔するよ。」


こうして無事、部屋の中へ招いてもらった僕は拓也君の部屋でお茶をいただき、部長は頭上をくるくると浮遊していた。

「さて早速本題なんだけど、5日前の夜。君達が肝試しと称して林の奥の廃屋に行った話の詳細を聞きに来たんだ。」

湯呑みを置いて僕は正面に座る拓也君へと話題を振った。

「詳細も何も馬場の奴が居なくなって警察の人とか、それこそ姉ちゃんにも覚えている事は全部話しました。」

そう言いつつ忙しなく周りを警戒している様子の拓也は明らか秘密を隠しているようだった。

「警察にも相談したって聞いたけどこういう場合は役に立たないんじゃないかな?中学生が、肝試しに行って行方不明。今時こんな内容じゃあ洒落怖スレでも相手にされないと思うけれど。もし君が本当に行方不明の馬場君の事を助けたいと思うなら僕等が力になるよ。」

きっと彼の周りの大人は誰もこのように手を差し伸べてくれなかったのだろう。縋るような表情をした拓也君は静かに話し始めた。

「田端の奴が・・・。えっとオカルトマニアのやつなんですけど、廃墟に行くことになってからの様子が変だったんですよ。具体的に何が変かは上手く言えないんですけど、雰囲気が違うというか、一人でブツブツ言っていることも増えて、あいつこそ何かに取り憑かれてたんじゃないかって思うんです。」

「それで馬場君が居なくなったのは、その田端君が何かをしたからじゃないかってことかな?」

「だってそうとしか考えられない!そんなんだだから田端は・・・。」

何かを言いかけた拓也君だったがそのまま尻すぼみとなり、残ったのは行き場のない怒りだけと言った具合だった。ふむ。

「まぁ君達の間にどう言った事があったかの詮索はしないでおくよ。それと馬場君について保証は出来ないけれど、拓也君が感じている視線についてはちょっとしたおまじないをしてあげよう。」

「おまじない?どういうことですか?」

「聞いたところによると、肝試しに行ってから謎の視線に悩まされているって事だったから、ちょっとしたおまじないでそれを消してあげようかと、言い方を変えれば呪術と言ってもいい。これでも僕は呪術研究部の部員だからね。大きめスプーンがあれば貸して欲しいんだけど、あるかな?」

話半分に聞いていた拓也君だが、バタバタとスプーンを取りに行き、すぐに戻ってきた。差し出されたのはデカいコテであった。

「これでもいいですか?親父がコテコテの大阪人でスプーンがなくて・・・。」

大阪の人だってプリンをコテでは食べないだろうとは思いつつ、強度を確認する。

「まぁこれでもいいか。両手を出してくれるかな?」

対面に座った拓也君の両手にコテを平行になるように置く。

「それじゃあ拓也君に向いている霊の攻撃意識をこのコテに移すよ。あまり強い霊ではないから力を使い切らせたら勝手に消えるだろうから、安心してくれ。」

僕は両手をコテにかざしてムンと力を入れた。するとゆっくりコテはひとりでに起き上がり始めた。

最終的に拓也君の手の上にはグニャグニャと体を捩ったコテが生まれた。

拓也君は信じられないという顔で一部始終を見ていた。

そんな彼に「もう大丈夫だよ。」と言うと、急に申し訳なさそうな顔になり、

「実はこれ一本8000円くらいするやつで・・・。」

なんて言い出したので、頭上で部長が爆笑していた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


その後探検セット用意した僕等は地下ではなく、例の緑地公園へ最寄りのバス停から向かっていた。時刻は既に21時を過ぎている。

「そこに悪意を持っていた人間が居たのなら前提が変わる・・・、か。」

部長の小さな呟きに僕が返す。

「どういう事ですか?」

「さっきの弟くんの話、行方不明になった馬場くんって子が田端くんに嵌められたのかもってやつ。なんだか引っかかるんだよなー。」

「引っかかるとは?」

「いやさぁ、幽霊の私が言うのもなんだけど、よく言うじゃない?幽霊よりも怖いのは人間だって。」

「確かに言いますね。」

僕の肯定で話は進む。

「なんだか良くない事が起こる予感がするなぁ。」

「縁起でもないこと言わないでくださいよ。」

部長の顔は大きな眼鏡が光を反射して窺い知れなかった。がパッとこちらを見て明るい表情で続けた。

「そんな事より相変わらず、ナントカ君も優しいねぇ。8000円も払って中学生にマジックを見せてあげるなんて。」

僕の顔を覗き見ながら部長は茶化してきた。僕は買い取ったグニャっと曲がったコテをポケットから取り出し何回か振る。

コテは元あったようにしゃんと真っ直ぐになっていた。それにしてもこのコテ、ピカピカだな。

「一目見た時に拓也君には何も憑いてないってのは分かりましたからね。雰囲気に当てられて出来た錯覚が、友達を置いてきてしまった罪悪感で固定化されたものだったんでしょう。

それでも僕みたいな怪しいお兄さんに”君が感じる視線は気のせいだよ。”なんて言われても中学生男子が素直に分かりましたとはならないと思いまして、それに病は気からっていうじゃないですか。」

「家の鍵を無理矢理開けて入ってくるお兄さんを怪しいお兄さんで済まさないでとは思うけれどね。」

それはそう。だけれど部長も共犯じゃないか。


しばらくしてトンネルに着くと真新しいバリケードテープが入り口を封鎖していた。

さすがに数日前に行方不明者が出ているだけあって、一度は警察もここへ来たのだろう。

僕等はその下を潜って先へと進む。流石にこんな夜更けでは、僕を咎めるほど熱心に残業している警察の人もいないだろう。

懐中電灯で照らされたトンネルの中は薄暗く、じめじめとしていて不快な肌寒さを感じた。

「たまにはこういう初心に帰った心霊スポットてのも乙なもんだよね。」

何故かルンルンの部長であるが、幽霊な手前こういった所の方が居心地がいいんだろうか?

「見た所、嫌な気配とかはないんでトンネルを抜けるまでは何も起こらないとは思いますけど・・・。」

そうして進み始めて100m程、トンネルの真ん中辺りまで進んだ僕は気が付いた。

前方の20mほど先、人影が見える。立ち止まった僕に反応して目を凝らした部長もその影を捉えたようだった。

「ナントカ君、あれは何かな?コスプレ?」

真っ暗な心霊スポットに通じているトンネルで真っ黒なローブを着て立っている。

こんな場所と時間と場合でコスプレイヤーが居てたまるか!TPOを弁えやがれ!と思いつつ更に観察する。

顔は白い面でもつけているのか、そこだけが妙に浮かび上がって見える。

さっきの話でもあったけど、こういう場合はどう考えても!幽霊よりもコスプレしている人間の方がやばいだろ!



「ミツケタ」



その声と共に黒ローブは何かを受け入れる様に両手を広げて僕らの方へ差し出す。長いローブの袖が少しずり落ちて病的に白い手が覗く。淡く光る人魂の様な両の掌に金属的な光が反射した。そしてジャラジャラと音を立てて鎖が両の手から溢れて零れた。

ゆっくりと重力に従い落ちる鎖が地面に着地しようとした瞬間。爆ぜたような突然の殺意が鎖の先端に付いていた分銅を巨大化させた。否、僕の眼前数センチへと迫ったのだ。

「バカヤロっ!!!」

咄嗟に身体ごと左へ避け、分銅の側面を右手で持っていた懐中電灯の柄で叩いた。

後ろに居た部長の右後ろ、トンネルの壁に分銅が叩き込まれる。鈍い音と共に上がる土煙にその攻撃に実体があることを再認識する。

返す刀が来る前に懐中電灯を黒ローブへ向かって思い切り投げ、僕は前へと走り出した。

くるくると回転する懐中電灯の光が相対する二人を交互に照らし出す。黒ローブは左手に小さく鋭い鎌を構えていた。

先に到達した懐中電灯を黒ローブはひらりとやり過ごし、前方へゆらりと距離を詰め始めた。早い。

互いにカウンターを狙っているのはこの数瞬で直感していた。しかし、僕は先に固めた右手の拳を勢いに任せて突き出した。

がすっ、と鈍い音が響いた。それは黒ローブの後頭部に先ほど投げた懐中電灯が当たった音だった。

前のめりに倒れた黒ローブに対し僕は背後の部長に向かってサムズアップした。

「部長、ナイスカバー。」

はぁはぁと息を切らせた部長は前方に突き出して力を込めていた両手をだらりと下ろした。

物理干渉ポルターガイスト、射程ギリギリはやっぱりしんどい・・・。」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「痛ってぇ・・・!!」

後頭部を摩りながら身を起こした黒ローブは辺りを見回した。

枕代わりにしていたキチンと折り畳まれた学ランは僕のものだ。

「結局手荒なことになってしまった・・・。」

申し訳なさから来る僕の独白に、部長がツッコミを入れてケラケラと笑っている。

「はじめましての挨拶が殺意マシマシの鎖鎌民族だったんだから正しいコミュニケーションだったと思うよぉ。」

それは果たしてフォローなのか、バカにしているのかとやれやれしていると気が付いた黒ローブはこちらに向かって声を掛けてきた。

「痛ってぇな、チクショー・・・。なんだお前等、心霊狩りじゃねぇのかよ?」

「なんだね。その物騒な呼び名は。私達は高円寺高等学校、呪術研究部部長!今野不如!」

ババッとポーズを決める部長に僕も反応する。

「同じく!呪術研究部部員!南斗海斗!」

そして同じくポーズを決める。僕等はプリキュア!ここぞって時の為に二人で練習しておいて良かったぜ。

それにしてもそのリアクションきっとその白いお面の下はさぞポカンとした顔した顔してるんだろうなー。

毒気を抜かれたのか、黒ローブは肩を揺らして笑い始める。トンネルの中に愉快な笑い声が響く。ウケた。爆笑である。

そのまま顔の所に手を掛けると黒ローブは面を外した。

日本人形のような奇麗な黒髪は真っ直ぐに切り揃えられおり、第一印象は上品な黒猫の様な少女だった。

笑いすぎたのか切れ長の目には涙が滲んでおり、白く細い指で拭う。呼吸を整えた彼女の薄い唇が言葉を紡いだ。

「俺は四子ヨーコ、死に神の四子だ。」

また来週。

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