侍のお気持ち表明より
寝不足でぼーっとする頭で何とか登校して、気付かぬ間に溶けの針はグルグルと回り、しっかりと意識を取り戻した頃にはもう放課後だったので、古文準備室へと重たい頭を引き摺るようにして向かった。
「遅いよナントカ君。待ちくたびれたよナントカ君。何とか言ったらどうなのかね?」
「そうは言われても部長。僕も一介の高校生ですし、何なら今年受験生なんですよ。通り魔事件を解決しても内申点はもらえないんですよ」
「でもでも、四子ちゃんは朝からこっちに来てたよ?」
「まー、俺は仕事優先で動いても問題ねぇからな」
特等席であるソファに胡座でシュークリームを食べながら四子は言った。
そういえば、例の廃屋の事件の後の転校のスピード感から鑑みるに四子のバックにはかなり強力な何かがいるのだろう。
「内申点が足りなくて受験に失敗したら警察で引き取りますよ」
お客さん席である方の椅子に腰掛けて四子と同じシュークリームと一緒にお茶を呑んでいたのは暮林さんであった。
「というか、なんで暮林さんがこんなところにいるんですか?」
「手ぶらというのも何なので、南斗さんもいかがですか?」
机の上の小さな箱を覗き込むとそこには3つのシュークリームが入っていたので、僕は棚から取り出した紙皿にシュークリームを2つ取ると部屋の隅の神棚に供えた。
これは、お客さんがいるときなんかに部長へお茶菓子やお土産を供えるやり方だった。
やったー、とふよふよ神棚からシュークリームを取った部長を見て部屋の隅でつまらなさそうにしていた真理さんにもどうぞの合図を送った。
「それにしても入ってきて早々に南斗さんは誰と話してたんですか?」
一旦落ち着くとそこはやはり気になる所なんだろう。部長や真理さんが見えない人にこの部屋で起こることの説明をするのは難しいなと頭を捻っていると、四子が声を出さぬよう我慢していたようだが、やがて喉を鳴らして笑い出した。
「お前、シュークリームは何人数分あったんだよ」
「あ」
シュークリームはこの部屋の人数分確かにあった。
となると、暮林さんは部長や真理さんを知っていなければ成り立たないか。
「全部が冗談というわけではないんですよ。現に私から見ればこの部屋に居るのは3人なんですから。ただ上司にここに来るなら手土産は私の分を除いて4つ持っていけというように言われたので」
「そういうとこは無意味に律儀だよなぁ」
なんだか警察と死神が犬猿というのはなんとなく察せられるので、空気を読んで間に入った僕は暮林さんに話を振った。
「それで何かあったんでしょうか?」
「今朝お預かりした手紙ですが、急ぎで鑑識に回したんですが指紋も出ないですし、内容もすぐには解読不明ということで南斗さんへ返しに来たんです」
「お前会ったんだってな、侍。」
「会ったって・・・。なんでそんなにニコニコしてるんですか。あれは襲われたっていうんですよ。危うく死にかけましたし、あの侍、想像出来ないくらい強かったですよ」
「はぇ〜」
聞いてないなあ。
「さて今夜の巡回もありますし私は帰ります。お茶ご馳走様でした」
僕らの中身も蓋もついでに鍋もなさそうな会話に仕事の詰まった公僕である暮林さんは退出していった。
まぁ本人も言うように今夜また会うので挨拶もほどほどであった。
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「お客さんが来ると私達って肩身狭いよね。」
「私はシュークリームに免じてあげるけれど」
暮林さんが帰ったことで、部室はいつもの賑やかさを取り戻した。全く実体ない人達は内弁慶だ。
誰も興味はないかもしれないが僕は、侍が残していった手紙を机の上に広げた。やっぱり何が書いてあるのかわからない。
「四子さんもこれ見てもらっていいですか。一応この中じゃ一番の専門家なんだから」
「座学なんかまともにやっちゃねぇんだから読めるわけねーだろが。侍とっ捕まえて直接聞く方がまだ可能性あるわ」
「じゃあ真理さん?」
シュークリームでご機嫌だからか、真理さんは大人しくふよふよとこちらにやって来ると手紙を覗き込むと眉間に皺を寄せた。
「なんだか、古い書き方だから正しく読めているのか分からないけれど、」と前置きをすると、ブツブツと言いながら文字を指でなぞり始めた。
内容が纏まったのか、真理さんは国語の先生のように一文一文に意味を添えた。
「えーと・・・。武術家に武器を使って申し訳ない。刀を持つ資格はない。中で、構えが美しい。再度手合わせ願う。無銘。
大体はこんなところだけれど、どう?」
呪術は小説より奇なり、初めての感想をいただきました。嬉しかったです。




