朝の阿佐ヶ谷シンカイにて
阿佐ヶ谷パールセンターの中にあるシンカイという店に来るように四子から連絡があった。
昨日と同じく一度部室に寄ってから部長と真理さんを回収して向かう。
時間は朝8時。普段なら通勤、通学のラッシュで人通りも多いはずだが日曜日ということもあってか落ち着いた朝の光景だった。
指定された店に着くと既に四子は店の前で待っていて、全員揃ったのを確認すると裏口へと回りインターホンを押した。
中から人の気配がして磨りガラスの戸の奥に小柄な人影が映る。
そこでガラス戸に比較的に新しいガムテープが貼られているのに気が付いた。何かの拍子で割れてしまったのだろうか?
と思考が外れた矢先、古そうな割に建てつけの良い戸が横に開くと困ったような表情を浮かべる老人が出迎えてくれた。
「あ、すみません・・・。中へどうぞ」
通されたのはまだ開店前の表の店舗部分だった。
ショーウィンドウの中には所狭しと並べられてた刃物。そうここは阿佐ヶ谷で唯一の刃物店であった。
マニアの間でも話題になるくらいの品揃えがあり、ビンテージのナイフやら男心をくすぐる物で店内は溢れかえっていた。
「昨夜起こった事件について、心当たりがあるそうだな」
一通り店の中を見回していたら、語気が強めに四子が店主に声を掛けた。
四子の見た目も相まって店主は少し萎縮しているように感じた。
「心当たりというか・・・。使われたであろう凶器がこの店から盗まれたものじゃないかと思ったんです・・・」
そう言って店主はショーウィンドウの一角を指差した。
「そこには我が家の家宝の刀が飾ってあったんです。まぁ銘も無いただの古い刀だったんですが、少なくとも私の曽祖父の代から我が家に伝わっていたものでして・・・。鑑定などを受けた訳では無いですが、作りもしっかりとしていて美しい刀でしたので、祖父が店を開いた際に看板として掲げたとの事でした。しかし、その刀は最近になって盗まれてしまったんです・・・。
1週間ほど前に突然、刀を譲ってほしいというお客様が現れました。やはり店に飾っているとそう言った人は偶にいますので、飾っている経緯と家宝の為、売れないし値も付けられないと言ってお断りしました。大抵はそこから話が膨らんで、そこに並んでいるナイフなどをお勧めするのですが、そのお客様はなんというか・・・。あの刀に対しての執着がすごい方でして、他のものにはあまり興味を示されなかった。仕方がないので、最終的にはお帰りいただいたんですが・・・。翌日そのお客様が再度いらっしゃったのです。そして現金で800万円。どんと出してきて譲って欲しいとおっしゃる。私もね、なんだか怖くなってしまって。警察を呼ぶと言って追い返してしまいました」
「ちなみにその刀というのは、実際にどれくらいの価値があるものだったんですか?」
僕は気になって店主に聞いてみた。
「そうですね・・・。相場で見ても数十万円で良いところでしょうか・・・。それよりも私としては我が家の守り神の様に思っていましたので、売るという選択肢はなかったのですが、800万もの大金を積まれるとは・・・」
と話を聞いている間も部長と真理さん幽霊組は店の中をふよふよと徘徊していた。
「そして刀が盗まれたって事か?」
「はい・・・。二日前に強盗に入られまして、ここも扱っているものがものなので対策はしているんですが、防犯カメラなんかにも犯人の姿はなく、ガラス戸を少し割られたくらいで・・・盗まれたのも例の刀だけでした」
その言葉に改めて店内を見回すと少ないが死角の無いようにカメラが設置されているみたいだった。
「話だけ聞くとその客ってのが明らかに怪しいが、何か身元が分かるもんとかは無いのか?」
「えぇ・・・。私が店先に出た際に話掛けられたので、防犯カメラにも映っていないと思います」
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「お前らもニュースで見たんじゃないか?昨夜の通り魔事件」
店を後にした僕らに四子が話を振ってきた。
「そーだねぇ。ネットでも結構騒ぎになってたよ。現代の辻斬り!犯人は侍!!って」
「家出る前の朝の特番も同じ感じでした。今までとは全然扱いが違いましたけど、やっぱりインパクトが違うからかな」
「今まで通りなら、一回の犯行で呪具の呪いも消えるはずだが今回は呪いの元となっている呪具を使った可能性が高い。なるべく早く犯人を捕まえなきゃならねぇ」
確か、犯行で使われていた凶器の呪いは人の血で消えるとか話してたな。
「となると本格的に連続事件になる可能性がある訳か・・・」
「それもあるけど、結局さっきのお店とこれまでの凶器って何か繋がりはあったのかな?やっぱり盗まれた刀が村正でその呪いが移ったとか?」
「そっちについては警察の方に頼んでるっつうか、よく考えたら俺達働かされすぎだよな。日曜の朝っぱらから駆り出しやがって・・・。おかげでプリキュアもスーパーヒーロータイムもリアタイ逃したじゃねーか」
後半は小さな声で聞こえなかったが、四子の嘆きには同感だ。まして僕にはお給金も発生していないボランティアだ。そりゃ悲しくもなる。
「しゃーない。とりあえず朝メシでも喰いに行こうぜ。ムカつくから全員分ジジィの金で奢ってやる!」
四子の奢りと聞いて僕達はわーいと朝からやっている喫茶店に吸い込まれて行った。




