非連続通り魔事件
朝から変なイベントが発生したが、今日はそもそも巷を賑わす通り魔事件について事件現場の見学という話だった。
この事件は、環状7号線から環状8号線の間の新青梅街道沿いで起こっている。厳密に言うと高円寺、阿佐ヶ谷、荻窪周辺で発生していた。犯人も動機もバラバラでそれぞれの事件に関連性は見られない。しかし警察庁が公表していた全国の年平均を超える件数がこの小さな区間でしかもここ数週間で起こったのだ。
当然ワイドショーや新聞なんかでも連日して取り沙汰されており、街からは何処となく警戒感というのか不安感のようなものあるように見えた。
「んでもって、ここで一つ目の呪具を回収したって訳」
そこは高円寺駅から徒歩15分程の住宅街だった。既に諸々の処理は済んでただの道になっている。
「5件目の事件・・・厳密に云うと未遂だったんだがーーー」
事件の概要としては、買い物帰りの主婦が近所に住む友人とばったり出会い立ち話・・・。
所謂井戸端会議的なものをしていた際に、突然買い物袋から取り出した包丁を使って相手に斬りかかったとのことだ。
幸いに偶然通り掛かった男性によって取り抑えられケガ人はなしとの事だが主婦は事件前後の記憶に混濁があり、記憶も曖昧で何故包丁を持ち歩いていたかも覚えていないと供述したそうだ。
その後の警察の調査で包丁は加害者の自宅で、最低でも数年は使用していたものという事が判明した。
そんな折、鑑識から押収された包丁が呪具化していたという報告が上がり、事件は四子の所属している組織の管轄となった訳だ。
そして加害者も被害者も動機も点でバラバラな似たような事件が全部で6件。昨日四子が学校で襲われかけたものを合わせると7件となる。
「四子ちゃんさ、呪具とか呪いとかから何か分かったりしないの?」
四子は昨日と同じようなグルグル巻きにされた塊を鞄から取り出す。
「っても、封印しとかないとどうなるか分かんねぇしなぁ・・・。匂いとか嗅いで追ってくれないか?」
ん。差し出したのは真理に対してだった。
「四子はなんで私がそんなこと出来ると思っているのかしら?犬じゃないんだから出来ないわよ」
「呪具の呪いって昨日の彫刻刀と一緒なんですか?」
「それについては調査中なんd」
「一緒よ。間違いないわ」
四子の返事に被せる様に断言した真理は、包丁に顔を近づけた。
「かなり古い呪いね。その上多くの人間の思いが複雑に絡み合っている。こんなものが幾つも出回っているなんて世も末ね。村正の辻斬りを思い出すわ」
「村正ってあの妖刀で有名なやつ?」
「妖刀かどうかは知らないけれど、ずっと座敷牢にいた私も知っているんだから相当に有名だったんじゃないかしら?」
「それで実際はどんな話だったんですか?」
まさか妖刀村正なんて話が飛躍するとは思わなかったので、僕も興味津々で真理さんに先を促す。
「別にそんなすごい話じゃあないわよ。当時・・・どれくらい前だったかは忘れたけれどね。村正を名乗る辻斬りが出たの、まぁ大分昔だし辻斬りも珍しいって訳じゃなかったわ。けれどそんな事件が至る所で起こり始めたものだから大事になった。更に言うと明らかに単独犯とは考えられない行動範囲にまで村正の辻斬りは広がっていったの」
「今で言う所の模倣犯とか愉快犯みたいなものでしょうか?」
「もしそれが本当に呪いだとしたら違う見方も出来るけどな」
神妙な顔で聞いていた四子が僕の呟きに突っ込みを入れた。
「そうね。私が聞いた話でも”村正の呪いは感染する”と言われていたわ。もっと言えば何人か犯人も捕まったみたいだけれど、実際に村正を使っていた訳ではなくて、名乗っていただけだったのよね」
集団ヒステリーなんかは聞いたことがあるが、物から物へ呪いが移ることなんてあるのだろうか・・・。
そんな僕の顔を見ていたのか再び四子が口を開いた。
「呪いの感染は結果から言うと間違いなくあるぜ。例え呪いの元となる呪具があるとするだろ。それが何らかの条件を満たしたものに自身の呪いを分け与えるんだ。とするとそれはもう立派な呪具だ。そんなもんを大事に使ってれば、何かしらの悪影響も出るだろ。お守りの逆バージョンだな」
「でもこれはそんな簡単な呪いじゃないですよね?触れようとしただけであんな事になるなんて初めてですよ」
「相当強い呪具なら似た特性を持つ物に、呪いを掛ける事は出来る可能性もある。というかそうとしか考えられねぇ」
「じゃあじゃあ、もしもオリジナルの妖刀村正がまだ存在していて。その近くに刃物を置いておいたら呪いが移るってことだよね。それなら以降はこの事件を”妖刀村正擬き”と呼ぶことにします!」
なんだか壮大な話だった気がするけれど、部長の言葉で一旦終了しそのまま残りの事件現場を廻って追加のケーキを食べに行ってその日は解散になった。
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その翌日新たな事件が報道された。
被害者は男性。例によって事件は新青梅街道沿いで発生。
男性は一命を取り留めたものの、どうやら鋭利な刃物で右手首を切り落とされたそうだ。
また、男性の証言曰く「侍に襲われた」とのことだった。
有言実行