E.G.O国物語~華やかな勝利の誓いと新たな戦乱の序章~
長き騒乱が終わってから丸三年が過ぎた。各国も今は内政に重点を置き、目立った戦争も起きてはいない。そんな中で一つの国が細々ながらも栄えていた。その名はEGO国。つい三年ほど前に出来た新しい国である。その国の城の執務室で一人の女性が何かを描いていた。
「ここをこうしてっと・・・いややっぱりこうの方が良いかなぁ…?」
「シルバ様、何をしているんですか?」
その女性…シルバと呼ばれたか、の後ろから背中に鳥の羽を生やした男が話しかける。今の世界には色々な種族がいるが彼はその中でも羽翼族と言われる種族だ。渡り鳥の様に団体で世界を旅する種族である為、国の中にいる事は極めて珍しい。
「あ、ジョン。ちょっと国法を改善しようと思ってね。新しく作ったのよ。」
「国法ですか。シルバ様はマジメですねぇ。」
「当然よ。国の良くする為にはこういう細かい所から直さなくちゃ。」
ジョンという名の羽翼族の男はそれを聞いてウンウンと頷く。一見ただの男と見えるが侮る事なかれ、この男は現在のEGO国で大臣を務めている立派な人なのだ。大臣と聞くと戦いは弱いと思われがちだがこの男は武器も使わず相手を倒す凄腕の実力者である。
「ふぅ、これで終わり!ジョン、後でこれを公表しといてね。」
「分かりました。あっと忘れかけていましたが耳に入れたい事が「シルバ様、今年の農作物被害の報告書です。」」
ジョンが何かを話そうとした同じタイミングで部屋に青い髪に黒いリボンをつけた綺麗な女の人が入ってきた。
「レィさんご苦労様。そこの机に置いといてください。」
「分かりました。…ジョンさんもいらっしゃったんですか。」
「えぇ、レィさんは相変わらずお綺麗で…」
「男なのに綺麗と言われても嬉しくありません。」
レィと呼ばれた青い髪の女性、いや男性は書類を机に置きながらジョンの言葉に反論した。だがその顔はそこらへんの女性が敵わない程整っていて服装も女っぽい為、女性と見られても仕方ないだろう。
「私は羨ましいですけどね。女性なのに男性に負けるって何か悲しいですよ…」
「シルバ様は今はどちらかと言えば可愛いという感じですからね。」
シルバは昔は銀色の髪に赤い瞳というどちらかというとカッコ良いという姿格好だったのだが今は茶色の髪に黒い瞳、服も白を基調にしたシンプルな服となっていた。
「もう影武者をする必要もありませんしね。」
「…すみません。」
シルバは昔を懐かしむような目で天井を見つめる。それを見たジョンがシルバに謝った。恐らくヤオヨロズ滅亡の時を思い出させてしまったと思ったからだろう。全くこういう所は律儀なんだから…
「別に気にしてませんよ。そういえばジョン、何か私に言おうとしてませんでしたか?」
「あぁ実は「国王様、我が国の商隊が何者かの攻撃を受けて全滅との報告が入りました!」」
「またですか。すぐに向かいます。」
ジョンが言葉を発しようとすると同時に今度は部屋に兵士が入ってきた。よくよくこの男は誰かに邪魔をされる運が強いらしい。その兵士の報告を聞いたシルバは急いで部屋を出て行った。後にはレィとジョンだけが残される。レィがジョンを見た。ジョンも泣きそうな顔でレィを見た。
「ドンマイです。」
「まぁ私の報告もさっき事だったので別に構いませんが…とりあえず泣いていいですか?」
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EGO国の城の大きな部屋。ドア上のネームプレートに会議室と書かれたその部屋で何人もの国の幹部が集まって椅子に座っていた。今は会議室の中は重苦しい雰囲気で包まれている。最初に喋り出したのは一番上座に座っているシルバだった。
「今日皆さんに集まってもらったのは他でもありません。今日の正午、我が国の商隊が何者かに襲われました。商隊は全滅、積み荷も全て奪い去られたとの事です。オンガ、詳細報告を。」
「はい。襲われた場所はレインボー共和国付近、さらに襲った者は皆レインボー色のエンブレムをつけていたとの報告が入っています。」
シルバに促されて次に喋ったのはEGO諜報部隊副隊長であるオンガと呼ばれた人物だ。オンガは頷くと椅子から立って詳細説明をする。その説明を聞いた幹部達はどよめき出した。
「これでもう五度目。いい加減対処すべきです!」
「同感だねぇ。これ以上野放しにしてたら自国の産業が停滞しちゃうよぉ。」
「オレもレィさんに賛成です。これ以上図に乗らせるわけにはいきません。」
レィが怒りをぶつけるように机を叩く。それに同意したのは巫女姿の女性と赤い帽子を被った少年だった。二人ともまだ年若いがこれでも立派なEGO国の幹部だ。
「ミー将軍、ベニバナ隊長…決定ですね。明朝、我が国はレインボー共和国に宣戦布告します。各部隊は戦闘準備をしてください。」
「「「了解!」」」
それから城の中が一気に騒がしくなった。皆一様に走り回り、武器や防具を準備している。その中で青い髪をした二十代後半くらいの青年と紫の鎧を纏った同じく二十代くらい…こちらは前半だろうか?が話しあっていた。
「しかし戦争ですか。攻撃側になるのは初めてですね。」
「ポンさん、気を抜いたらこちらがやられます。油断せずに行きましょう。」
「ファイタさんは相変わらず堅いねぇ。もう少し気楽にいきましょうよ?」
「あなたがお気楽過ぎるんです。本当に同じディーの名を持つ者なんですか?」
ファイタが手を顔に当ててため息を吐きながら目の前の紫の鎧の男、ポン・ディーに聞く。
「そんな事言ってもディーの名前なんて勝手に付いただけだしなぁ。」
「一応名誉なことなんですよ?」
この世界には少ないが強大な力を持つ一族がいる。彼らは代々その力で国、または世界に影響を与えてきた。中でもディー一族は守りの力に特化した一族でその守りの力は最上級魔法にも匹敵すると言われている。
そのディー一族が二人もいるのだ。これも国王、いやシルバのカリスマと実力の高さともいえるだろう。
「そんなもんは知らない。でもまぁ…頑張らないといけないな。」
「そうですね。」
「おっとそろそろ出陣の時間だな。」
「でわそろそろいきますか。」
この二人がEGOの双風と呼ばれ、各国に恐れられる存在となるのはまた後の話。そして二人は出陣の列に加わる為に外へと出て行った。
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「もう出陣するんですか?」
ディンが出陣する為に外に出かけようとすると心配そうな顔をしたチェリーに呼び止められた。
「あぁ、もうすぐ出陣だからな。心配か?」
「全然心配じゃありません。」
ディンの言葉にチェリーは即答する。それを聞いたディンは少し傷ついたような顔になった。
「おいおい自分の旦那さんの心配くらいしてくれよ。」
「だって旦那様は帰ってくるでしょう?」
「…そうだな。それに来年生まれる子供の為にも死ねないしな。」
「あらそれは死亡フラグですよ。」
「お前はオレを殺したいのか!?」
それからディンとチェリーは互いに笑い合う。しばらく笑うとディンは魔剣、レクイエムをかついでチェリーに背を向けた。そして一言。
「じゃあ行ってくる。」
「行ってらっしゃいませ、旦那様。」
ディンが外に出るとシルバが待っていた。シルバはいつもの白い服とはべつに背中にはロンギヌスの槍を背負い、全身を頑丈そうな防具で守っていた。
「遅いですよ。」
「すみません。少し急ぎます。」
「別に構いません。死んだらダメですよ?あなたが死ぬと私も悲しいですから。」
「国王様の命令なら逆らえませんね。」
「よしよし、国王の命令は絶対です。」
笑いながらディンの頭を撫でるシルバ。それはまるで母親の様だった。厳しい所はありながらも根本的な所では優しい。これもシルバが人に慕われる理由なのだろう。そこで茶髪で長い髪を後ろに束ねている男が息を切らしながらシルバの元へ走ってきた。
「シルバ様、やっと見つけましたよ。」
「あらキリンさん。そんなに急いでどうしたんです?」
「どうしたんです?じゃありません!もうみんな待ってるんですよ?早く城に来てください。」
「早いわね。良い事です。」
「ヤレヤレ、オレも行くかな。」
キリン・エンジェに引きずられていくシルバの後ろからディンがついていく。だがその顔に不安が出ていたのをディンは見逃さなかった。
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レインボー共和国に宣戦布告をした正午、城の最上階の窓から鎧姿のシルバは現れた。騒いでいた兵士達がそれを見ると誰が注意したわけでもなくシンッ静まる。
「皆さん、私は孤独でした。国が滅亡した後、親友であったセンカもいなくなって私は一人になりました。ですが今は違う。この国を作って、人が集まって、楽しい仲間が出来て、私は孤独では無くなりました。私は孤独は嫌いです。だから私はもう孤独にならない為にここに勝利を誓います。独りよがりかもしれませんが皆さんついてきて下さい!」
シルバは頭を下げた。それは国王の初めての弱音。一国の王が兵士に頭を下げるなんて…しかもそんな気弱な事を出陣前の演説で話すなど前代未聞だ。下手をすれば国王のカリスマがここで一気に崩れるかもしれない。だがあえてシルバは頭を下げた。もうヤオヨロズの…センカの様な事にはならない為に・・・
城下にいる兵士たちは反応しない。やっぱりこんな理由ではダメなのか・・・?だがそれは杞憂に終わった。次の瞬間城下一帯に歓声が上がったのだ。
「国王にはオレ達がいますぜ!」
「もう孤独にはさせませんよ~!」
「国王様結婚してくださ~い!」
右・左・前、様々な所からそんな声が聞こえてくる。最後の若干おかしい事を言ってた人はレィさんによって締められていた。シルバは目から水を溢れだした。それは建国以来初めて見せた国王の涙だった。
「不安そうな顔をしていたと思ったらそんな事が原因かよ…大体そんな理由で国王から離れるなら最初からこの国に仕えませんて。」
「でもオレは今の演説でシルバさんへの忠誠心上がりましたよ?やっぱり弱い所見せてくれた方が守りがいありますから。」
「あの人はこれを見越してあんな事言ったのかね。」
木陰で演説を見ていたディンとペケサがそんな会話を交わしていた事を泣いていたシルバは知らない。
「全軍出陣!!」
シルバの大きな号令が城下に響く。後日談になるが出陣した次の日、EGO国はレインボー共和国に圧倒的に、そして華やかに大勝利を収める。レインボー共和国はそれなりに大きな国であった為、たかだか三年ほど前に出来た国にレインボー共和国が滅亡させられた事は世界を震撼させた。
EGO聖戦と呼ばれたこの戦いは聖ブルーローズ神国、旋律合衆国など新たな国の歴史が始まるきっかけともなる。だがそれは同時に新たな戦乱が始まる序章でもあった。
これは後に治世王と呼ばれたシルバ・ハルミの最初の戦いの記録である。ここからEGO国の戦いの歴史は幕を開けた。
完
作ってしまいましたEGOの続編、もう連載にしろよという声は許して下さい。さて今回のテーマは「上に立つ者の弱さ」でした。
色々な短編をかくつもりですのでもしよろしければアドバイスなどよろしくお願いします。