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人は場所を考えてモノを言うのが当たり前だ。
まだ学生ならば若いなと言えるが、いい歳した大人がギャーギャーと周りの事を考えずに騒いでしまえば、大人気ないと言われてしまう。
どんなに嬉しい事が起きようとも、心の中でガッツポーズをする位で留めて置くのが良い。
大人の恋愛なんて特にそうだ。好きな人にグイグイ行くのはどうなのか?と言われると、引かれる率は高い。大人の女性ならば大人しく、しおらしくいるのが良いのかも知れない。
「お久しぶり、あゆちゃん!」
「お久、こず!」
それ程お久しぶりではない2人。
と言うのも、この2人昨晩3時間も電話で話しているし3日前にもこの挨拶を交わしている。
おっと、こずと呼ばれた女性はこの物語の主人公・相原梢だとお気付きだと思うがもう1人のあゆちゃんとは誰だ?となっておられるかと。
実は相原にとって心の拠り所と言うのか本気の友人と呼べる相手と言うのか……まぁ、簡単に言えば相原の良き理解者の樋口あゆみだ。
「さて、どこ行こうか?」
「昨日、話してた店行く?」
「うん、行く!」
樋口とは専門学校からの知り合いでかれこれ14年程の付き合いだ。相原にとったら友人と言える数少ない人物なのかも知れない。
「で、こず!昨日話してた事、本気なん?」
「うん、本気らしいよ?」
「はぁ、こずが年下を好きになるなんて……」
「えへへ、うちもビックリしてる!」
「うちもやって!!」
大阪梅田の茶屋町の端にある行き着けのお店で、いつものアイスコーヒーとホットカフェラテを1口同時に飲み、昨晩の話の続きをし始める2人。
樋口には今までの恋愛や家族内の話は勿論、職場の愚痴等、様々な話をしている相原にとって現在片思いしている長原の話をしないなど考えられないし、また、樋口も相原同様、様々な話を相原にしている。
特に、お互いの母親の性格なんて手に取るように分かる程、話し込んでいる。
「で、その長原君ってどんな子なん?」
「うーん、どんな子なんやろう?」
「同じ職場なら分かるやろう?」
「それがねー、全くの謎なんだよ!?」
「……珍しい」
相原にとって相手がどんな人なのか2日もあればある程度分かるが、そんな相原でも今回好きになった長原という男は1ヶ月経っても分からないのだ。
「彼女おるとか、どんなのがタイプだとか」
「うーん、本気過ぎて話すのも躊躇う」
「うち、今こずと話してるよね?」
「うん、こずえだよ?」
「誰かに協力してってお願いした?」
「したした!!」
「なら、良かった」
「えへへー」
情報収集は得意だが、おひとり様行動が苦手な相原にとって誰かの協力が無いと駄目だと樋口は分かっているみたいだ、流石だと言えるだろう。
そんな樋口は極度の猫舌な為まだ湯気が立っているカフェラテと格闘し始めたのを見つつ相原はケータイを見ると、原本からLINEが届いていた。
その内容を確認するや、相原の目がより一層大きく見開かれたのに気付いた樋口が不思議そうに問い掛けた。
「どないしたん?」
「……」
「こず?」
「あゆ、うち、見込みあるかも!!」
原本からのLINEには、
【長原さん、彼女おらんてー
少し前に別れたんやって
年上か年下かってなると、
年上が良いみたい!!】
この情報源は、黒木からだ。
今日、黒木が長原に聞いたと後付けで送られて来た。
「黒木さん、仕事早っ!!」
「え、マジで!?」
「マジマジ!!」
相原は原本のLINEを樋口に見せると、まるで自分の様に喜んだ。
だが、ここは店内だ。
しかも、30過ぎの女が叫ぶのは余りにも恥ずかしい行為だと、流石に2人は知っているので最小限に抑えて喜んだ。
「ヤバい、めっちゃ嬉し過ぎるんだけど!!」
「良かったやん、こず!!」
「うん!!」
今の相原の喜ぶ顔を見れば謎の男・長原だって落ちるんだろうなと樋口は口が裂けても相原本人には言えなかった。だって、相原の素の笑顔は本気で心許した人間以外には見せないと知っているからだ。
「さて、これから忙しくなるでー!!」
「せやね、先ずは年下、7つ下の男がどんな人を好きになるのか調べなあかんね?」
「せやね!!」
さてさて、毎度お馴染みの謎の男・長原情報!!
今回、分かった事は……
・相原よりも7つも年下
・最近まで彼女がいた
・年上がタイプ
なかなか進まない謎の男・長原像。
まだまだ鳥取砂丘の砂中からジャガイモを見付ける程、至難の技だ。
と言うか、砂の中に埋もれているジャガイモを探すのは黒豆よりも大変なのでは?と今、気が付いた。
「で!うちの話よりもあゆちゃんは最近どうなん?」
「うーん、可でもなく不可でもなくって感じかなー?」
「えー!あゆちゃんが結婚してくれなうち、死ねへんやん!」
「何でやねん!!」
自分の事よりも相手の幸せを願ってしまうのは、相原の長所でもあり短所なのかも知れない。
特に樋口は相原よりも2歳年上の34歳だから尚更なのかも……




