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例えば、5人組の女子グループが居るとしよう。Aがクラスの男子を好きだとグループ内で告白すれば残りの4人は目を光らせて、協力するよ!!と言うが、協力するとはイコール楽しむと言う事だと知らないAは好きな男子との話をする。そうすると、全く興味を持っていなかったCがその男子を好きになってしまう。
あれ程仲良く話していたAと男子の筈が知らぬ間にCと男子になり、周りの男子に『お前ら付き合えよ!!』と言われCと男子が付き合い、AとCの仲が悪くなる。
これが学生時代の恋愛だと自分は思う。
そんな経験をしている女が大人になると、周りにしかも同職場の人間に誰が好きだとは言わない筈だ……普通なら。
「はい、皆さんにお知らせがあります!!なんと、相原は長原の事が、好きになりました!!」
こんなにも堂々としかも近所の焼肉屋で他の客も居る中、宣言してしまうのは相原だけなのかも知れないというか相原自身、普通という言葉の基準が他とは違うのかもしれない。
「きゅ、急にどうした?」
「せやろ?」
「………」
夏のボーナスが入り美味いもんでも食いに行くか!!と話出した原本に意気揚々と誘いに乗った相原と、たまたまその話に入って来たパートの荒田弘美。荒田は"姉"さんよりも"姐"
さんの方が似合う肝っ玉姐さんと言っても過言ではない。
そして、原本と荒田が相原から経緯を聞いている中、ただ黙々と肉を食べている姫崎美咲。
「姫ちゃんは、知っとたん?相原ちゃんが長原君を好きやって」
「へ?いや、今初めて聞きました」
「うん、初めて言ったー」
お互い向かいの席で、一方は何が?って顔でもう一方はにゃはと言う顔で荒田を見ているもそれも一瞬。
姫崎の小さな取り皿が空だと気が付いた原本が焼きたての肉や野菜をもっと食えと言わんばかりに山盛りに積み上がる方に目線が飛んだ。
「まぁ、長原君どっちかと言えば顔も悪くないし、性格も優しいし、女受け良さそうやけども……」
「え、そうなんですか?」
「待て待て!!そこに好かれたんじゃないん?」
「せやから、急に好きになったん!!」
「ま、まぁ、好きに理由なんて無いけどもさー」
「……え、相原さん、長原さん好きなん?」
「「「………はい?!」」」
あれ程3人が謎の男、長原の事を話していたのになんなら荒田が確認を取ったにも関わらず、姫崎の発言に見事にハモる3人。
相原の脳内の普通基準が可笑しいのもあれだが、それに勝る程の姫崎のこの天然もなかなかなもんだ。
「あのさ、この3人以外で知ってる人おるん?」
荒田の一言で姫崎の小皿に同時に肉を入れていた原本と相原が手を止めた。
あの自覚宣言から早1週間。確かに、相原が誰にも言わないという我慢など出来やしないと原本は思い、当の本人は何かを考えている素振りを見せこう言った、
「他にも言った方が良いのかな?」
呆れた……
きっとこの場に居る荒田、原本、姫崎、誰もが思っただろう。ついでに焼肉屋に居る赤の他人の客や従業員も。だが、相原は至って真面目だ、ビール4杯にマッコリ2本飲んではいるが。
「いやいや、相原ちゃんが言いたかったら言えばいいんやで?でも……」
「止めとけ!!」
「うんうん、止めた方が良いで?」
「じゃ、黒木さんには言っても良いかな?」
相原の口から黒木と言う名前が出てきた途端に3人がホッと安堵の表情を見せた。
長原に続き黒木と言う謎の人物。
さて、この黒木と言う人物は男なのか女なのかどちらなのか、それすら……
「まぁ、黒木さんになら大丈夫やろう」
「確かにな、黒木さんには伝えといた方がいいと思う」
「うんうん、お母ちゃんは大丈夫!!」
「だよね?」
……うん、お母ちゃんと呼ばれているのであれば女性だろう。だが、どうしてこの3人がそれ程までにこの黒木という女性は大丈夫だと言うのか結局の所、謎だ。
そして、謎の男・長原とは一体どんな人物なのか?
荒田が言うには……
どっちかと言えば顔は悪くない。
性格も優しい。
女受け良さそう。
さて前回同様、鳥取砂丘で例えたら砂中から黒豆を探す程のレベルになったが、それでもあの広大な砂丘から黒豆1粒探すのは……至難の技だ。
そして、女と言うのは時として男よりエロい。
急にどうした!?となるが……
「やっば!!何この柔らかさ!?」
「おぉ、すげぇ!?」
「……どれどれ」
「止めんかい!!」
御歳55歳の荒田の胸を平気で揉みまくる、相原、原本、そして相原に促され姫崎まで。
それに仕返しだと言わんばかりに、3人の胸の大きさを確かめる荒田。
酒の力は侮れない……と周りの男性客は皆そう思っただろう。