13
前回、こんな話をしたのを覚えているだろうか?
『誰もが好きな人の前に立つと緊張するもんだ。密室で2人きりなら、口から心臓が飛び出しそうな程に緊張するはずだ』
と。今度こそは!と願いたい。今度こそ、甘っーい、ラブストーリー以上の、空間を誰にも邪魔されず、長く見続けたい!!
そんな私の願いは、叶うのだろうか......
「じゃ、頑張って来い!!」
「はい!」
敬礼する勢いで返事をした相原は、夜勤の黒木に飛びっきりの笑顔を見せた。
そう、今夜は待ちに待った、あの日なのだ!!!
「あれ?相原さん、なぜ私服??」
「あ、山川ちゃん!お疲れ様ぁ」
「お連れ様で......す?」
軽くスキップしながら廊下を歩いていた相原に声を掛けてきた、1人の職員に軽く挨拶し......質問には応えていないが、え、山川の説明はって?あぁ、それは後程しようかと、なんせこの山川、1行2行じゃ足りないので!!!
おっと、こんな話をしていたら知らないうちに、相原が近くのバス停に行っているじゃないか!!!
「お疲れ様です」
「うん、お疲れ様!」
相原は19:42発のバスに乗る為に、バス停にいると、仕事終わりの長原がやって来た。
ワイシャツの袖を肘下まで捲り、リュックを背負った長原の姿に相原は内心、黄色声が飛び交っていた。
「(はぁ、めっちゃカッコイイー!!)」
相原にとってその姿は、どストライクらしい。
なんせ、私服よりも仕事帰りの姿の方が好きだ!と何処かで話していたのを私は聞いた事が……あ、香坂に熱弁していた。
「わざわざ、休みの日に来てたんですね?」
「うん、研修を受ける為に」
「そうだったんですね?」
傍からみたら、若いカップルが……1人はアラサーだが、一緒に帰る姿に見えているだろう。
だが残念な事に、この2人は両片思いなんですよー!!と私は叫びたい。
「そう言えば……」
10分遅れで来たバスに乗り込んだ2人は、一番後ろに座るや否や、仕事の話を始めた。
いつも一方的に話をする相原だったが、ここは年上らしく、聞く側に徹しているのだろう、長原の声が聞こえやすい様に、そして相手に、アナタの話をちゃんと聞いてるよ?と、身体を長原の方に傾けていた。
「このバンド好きなんやね?」
「え、何で知っているんですか?」
「LINEの待ち受けにしてるやん」
仕事の話から長原の好きなバンドの話になった時、相原はフッと車内を見た。
乗客は相原と長原そして、仕事帰りの同世代位の男性1人だけだった。
「そうなんですよ、めっちゃ好きなんです!!」
「実は、私もなんよ」
「え、ライブとか行かれるんですか?」
「うん、行くよ?」
バンドの話に夢中になっている2人は知らないだろう、2つ前の席に座っている男性がそっと音楽を止めたのを……。
そんな事など知らない2人は、初ライブはいつなのか?他に好きなアーティストは?など盛り上がっていた。
「待って!長原君と好きな物、被りすぎやん!」
「確かに、そうですね!?」
そう言った時には、2人の距離が近付いていた……物理的に。
でも、バスだってその場で止まっている訳では無い。動いているのだ。
「あ、もう着いたん?」
「そうですね……」
目的の停留所に着いた2人はバスを降りる為に立ち上がり、長原が先に歩き出しその後ろを相原が着いていくと、
「頑張ってね」
「……え?」
あの男性が相原が横を過ぎ去る時にこう言ったのだ。相原が振り返ると男性は、人差し指と中指を交差させるフィンガーズ・クロスドというハンドサインをしていたのだ。
日本では馴染みが無いが『幸運を祈る!!』という意味がある。
「あは、ありがとうございます」
男性はハンドサインが通じたことに驚いていた。ではなぜ、相原が日本では馴染みが無いハンドサインを知っているのか?それは、相原自身が色んな国の友人がいるからだ、あ、日本語以外は挨拶程度しか話せないが……
「どうかしましたか?」
「何でもないよ!?」
男性に飛びっきりの笑顔でお辞儀をした相原を見た長原は、一瞬ムッとした顔を……だが、相原はそれには、気が付いていない!!
気付けよ、相原!!
「じゃ、行きますか!」
「はい!」
車内で他愛もない話をしていたと思っている2人でも、周りから見たらお互いが恋をしていると分かってしまうくらい、2人の声が弾んでいたのだろう。
さぁ、皆さん!!
ご一緒にあの鈍すぎる2人に、フィンガーズ・クロスドを贈ろうじゃありませんか!!!!
閲覧ありがとうございます!!
この車内での内容、もっと深く詳しく
書こうかなと思っていたのですが、
次回の内容の方が重大なのであっさりと
終わらせました!
そして、今回の13話をもちまして......
やっと折り返し地点となります!!
まだまだ2人の恋という名の距離は遠いですが
これからもどうぞお楽しみください!!!
そして、もし良ければ、
いいね・評価などして下されば
今後、書く活力になります!!!
よろしくお願いいたします