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ある程度、恋愛経験を積んでいる者なら恋愛センサーが敏感になると、私は思っている。しかも、自分と同じ職場なら尚更の話。 それを否定するのか応援するのかは、センサー発動した本人次第だ。
今日も8時間働いた!!と喫煙所で相原と荒田と黒木の3人で一服していた。
勿論、今日あった事について反省会も含めた内容だったのが、流石、女性だ、急に長原についてになった。
「最近どうなん?」
「うーん、何も無いです」
荒田の急な話題変更にも関わらず、相原は焦る事無く平然と応えてみせた。が、本気で何も無いらしい。
「てかさ、相原ちゃんは長原君のどこが好きなん?」
「あれ、まだ言ってませんでしたっけ?」
「顔、とか?」
「うーん、顔は中の上ですけど......」
「なら、どこなん?」
黒木の問に悩み始めた相原の姿を、珍しく黙って見ていた荒田が数十秒待ってた.....荒田にとったらよく待てた!と言いたい。
「あれやん、声が好きって言ってたやん!?」
「そうですよね、声はどストライクなんです!!」
「はぁ?声!?」
「そうです!長原君の声が......っ!?」
好きなんです!と言い切る前に、言葉を失った相原の視界に映ったのは、
「お疲れ様です、まだいたんですね?」
「ふ、古田さん!!!」
スーツ姿の古田という男が立っていた。
て事で、久しぶりの新たな登場人物だ。
古田拓巳は、相原達が働いている施設の施設長だ。職員達からの人望も厚く、常に面白い事を探している......仕事は真面目にしている、そんな人物だ。
「相原さんって、長原の事が好きなんですか?」
「......それを知ってどうするんですか?」
「良いんじゃないいですか?」
「はぁいぃ!?」
相原の叫び声は後程、室内にまで聞こえていたと言う。それ程、大きな声で叫んでしまった相原に尽かさず黒木の、うるさいよ!が飛んできた。
「いやぁ、社内恋愛いいじゃないですか!?」
「あぁ、古田君も社内恋愛だったもんね?」
「そうなんですよ!」
そう言う荒田に、古田は面白い事を見付けた子供みたいに目を輝かせていた。
いやいや、何かおかしいぞ、この職場!!
今までが順調に進みすぎないか!?そう思っている人、是非とも挙手をして欲しい。
「そっかぁ、相原さん、長原の事をねー」
1人廊下を歩いている古田は、先程の出来事を思い出しながら、顔を緩めていた。
「古田さん、今いいで、す、か?」
「え、うん、どうした?」
向かい側から長原が声を掛けてきた。
本当に何てナイスタイミングなんだ、長原!!!
「自分さぁ、今彼女いないだろう?」
「え、は、はい」
「好きな人はいr「お疲れ様です、施設長」あ、はい、お疲れ様です」
丁度、横を通り過ぎる相原の、喋んじゃねーぞ?喋ったら、いてこますぞ!?と言う視線と、珍しく自身の事を施設長と言われ、内心ビビりながらも笑顔を絶やさずに、挨拶をした古田。
「古田さん、大丈夫ですか?」
「長原、付き合うなら優しい女にしろよ」
そう言って去って行く古田の言葉に、何も言えなかったのでは無く、半分聞いていない長原の視線の先には、黒木達と笑い合っている相原の笑顔があった。
「あ、そう言えば......ま、後でいっか」
何の用事だったか聞くのを忘れていた古田は、長原の方に振り返ると、これこそ!!恋する乙女の様な顔で相原を見詰めていた長原。
「あぁ、なるほどね、両片思いってやつか......てか、懐かしい、俺もあんな顔をしてたんやんなー」
と、今の妻への片思いをしていた自分を思い返していた。