表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

7/17

第7話


 その日の午後もサロンは大いに賑わっていた。

 私はまたもやアンヌに見つかり、さっさとサロンの中心に連れていかれる。


 昨日の朝にウェンロッドが私の部屋を訪れたことは、あっという間に後宮(ハレム)中に広まっていた。

 それを知らずに昨日の午後、今度こそ図書館に行こうと部屋を出た私……もう大変だったわ!

 しかもウェンロッドは今朝も来ちゃったし。


「陛下ったら、今朝もいらっしゃったそうじゃないの! これでお会いするのは三日連続でしょ!?」


 興奮気味のアンヌに苦笑いしながら、うなづく。

 正確には四日連続なんだけどね。

 到着した日にも会ってるから。


「朝ってのが引っかかるけど、これはもう確定よね?」


「ええ、きっと明日の夜……いえ、今夜にも陛下はいらっしゃるわ!」


「えっ、今夜って、どうして?」


 アンヌとその隣の女の子の会話についていけない。

 周りの子たちには分かるのか?

 なぜか「きゃー!」って盛り上がってる。


「何言ってるの、後宮(ハレム)に来るのは普通夜でしょ? 愛する妃と、一夜を共に……」


 アンヌの言葉の先を、みんなの盛大な「きゃー!」がかき消す。

 それでようやく意味がわかった。


「ないない、ないわ! 聖女は成人前にそういうことをすると、聖なる力を失うって言われてて! だから結婚は半年後の私の成人まで待って欲しいって……」


「えっ、結婚、決まったの!?」


「ついにあの陛下が!?」


「えっ、ち、ちがっ……」


 さらなるみんなの「きゃー!」で、私の声なんて聞こえない。

 まずいわ、私たちの結婚は一ヶ月後のパーティーまで秘密なのに!


「みんな落ち着いてってば! 私はウェンロッド陛下の妃にってオールラム王国から呼ばれたでしょ? だからお城についた時に私からそう言っただけよ。でも陛下の返事は『誰とも結婚するつもりはない』だったけど」


「な〜んだ、そっかぁ……」


 と、アンヌもみんなもガッカリする。


「ていうか、なんで私の結婚でそんなに騒ぐの? みんなだって陛下の結婚相手としてここにいるんでしょ?」


 それなのに、私がウェンロッドと結婚するのを喜ぶのって、おかしくない?

 普通はやきもち焼くところじゃないの?


「だって、貴族の間じゃ陛下の女嫌いは超有名よ? 自分が妃になれる可能性はほぼゼロだって、みんな分かってるわ。それにほら、女の子はみんな恋の話が好きなものでしょ?」


 アンヌのその一言で、みんなが楽しそうにうなづき、そして笑う。


 相変わらず私には笑うポイントが分からないけど……なんだか私も少し楽しいかも。

 同世代の友達ってこんな感じなのね。


「それなのにメアリルが来た途端、陛下があんなに変わっちゃうなんて!」


「ね〜? システッドさまがご存命の時から陛下はベガルダ大陸を平和にするため、戦に出てばかりで。女性には興味ないのかと思っていたわ」


「えっ、平和にするため?」


 思わず会話に割り込んでしまった。


「ええそうよ。ほら、グレライン王国はベガルダ大陸の中央に位置する上、豊かな国だからしょっちゅう他国と戦になるの。だから大昔、この大陸が平和だった時のようにいくつかの国に統合するんですって」


「そうそう、特に去年まで戦をしていたサムハダ帝国なんて皇帝がひどい人だったから、帝国民からも感謝されてるくらいよ」


 グレライン王国が他国を侵略してるのって、そういう理由だったの?

 じゃあ、ウェンロッドは平和を目指して戦を……。


 でもよく考えればそうよね。

 あの人が戦が好きで他国を侵略するわけないわ。

 困ってる人を放っておけなくて、神獣を討伐して祟りを受けちゃうくらいだもの、人々のために戦ってるに決まってる。


「そうだったの……ぜんぜん知らなかったわ。ウェンロッド陛下ってすごい人なのね」


「そうなの、見た目も中身も素晴らしいんだから! でも他国じゃ陛下のことを戦好きだとか化け物だとか言いたい放題」


 ドキッ。

 それ、うちの国のことだわ……。

 ウェンロッドの評判はすこぶる悪いもの。


「王室も陛下が女嫌いなのを隠すためなのか、逆に女好きだって変な噂を流しちゃうし」


「本当、陛下がかわいそうよ。でも……メアリルが来てから変わったわ。表情が柔らかくなったような気がするの」


 アンヌがそう言うと、一人の女の子が「そうそう!」と声を上げる。


「今朝なんて、陛下を見かけた子の話だと微笑みを浮かべながら帰っていかれたそうよ!」


「微笑み!? 見たかったわ〜! もう堪らないわねぇ。私、毎日ドキドキしちゃって……興奮しすぎかしら? 昨日あたりから身体がだるいのよ」


「あら、あなたも?」


 その会話を聞いて、ドキリとした。


「私もよ、昨日は夕食前からずっと横になっていたわ。今までが退屈だったんだもの、メアリルが来てから毎日が刺激的すぎるのねぇ、きっと」


 そう言って笑うアンヌの横顔を、チラリと見る。

 化粧をしてるものの、目の下にうっすら隈が浮きでて、顔色も青白い気がする。

 さりげなく見渡した他の女の子たちは……一昨日初めて見た時より、みんな少し眠そうだったり、疲れてるような気がした。


 た、大変……私の呪いの力のせいだわ!

 ウェンロッドが平気そうだから、呪いの力が無くなったのかもって思ったけど、違ったの!?


 って、そりゃそうよね……。

 そんなうまいこと行くわけないわよね……。

 どうしてウェンロッドが元気なのか分からないけど、アンヌやサロンの女の子たちには呪いの力が効いてるわ。


 今すぐにでもここを去るべきなのに、ショックで手や膝が震え出してしまって、すぐには立てない。


 だって、呪いの力が残ってるって事は――。

 やっぱり私は、この力でウェンロッドを殺すの……?

 今は平気そうだけど、私に分からないだけで、彼も少しずつ弱っていて……。


 とても優しくて、私と二人だと子どもみたいに楽しそうで、顔立ちもスタイルもこれ以上なく素敵な彼。

 そしてなにより、国のため、人々のために戦に身を捧げてる。

 あんなに素晴らしい人を、私は――。


「あら? メアリルもなんだか疲れた顔してる。まだここの生活に慣れないのかしら? でも陛下に溺愛されて幸せよねぇ、羨ましいわぁ」


「で、溺愛!?」

 

「だってそうでしょ? 一昨日は馬に乗ってデート。昨日も今日も朝からお部屋デートだもの。ねえ、今日はどんなお話をしたの?」


 そんな話をしたい気分じゃないけど、とりあえず答える。

 ああ、早くここを去らないと……。


「どんなって……今日は子猫を連れてきてくれたの。私が動物を好きだって言ったから」


「あの陛下が、子猫を? いやん、素敵〜! ほらぁ、やっぱり溺愛されてるじゃない〜!」


 なぜか身悶えるアンヌ。


 え、そうなの?

 まあ確かに色々やってくれるし、果物を毎朝取り寄せるのもアンヌに言わせたらそうなのかも?

 でも溺愛って。

 私相手に、そんなことある?


「この様子なら、結婚が決まるのもあっという間……」


「ずいぶんと騒いでらっしゃるのね。庶民的な方とご一緒すると、品位も落ちるのかしら?」


 突然降ってきた冷たすぎる声に、みんなの「きゃあきゃあ」がピタッと止まった。


 いつの間にか、目の前に座る女の子たちの後ろに、あのロラーナが立っていた。



ここまで読んでいただきありがとうございます!

今回はどうしても1話にエピソードが入りきらず2回に分けたため、今回と次回はいつもより少し短めです。

って、いつもが長すぎるんですけどね……すみません。

もう少し1話を短くしたいんですが難しくって……。

最後までこんな感じかもしれませんが、引き続きよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ