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第16話


「ベオ、手を離してさっきのナイフを持たせてやれ」


「えっ、ウェンロッド……」


「心配いらない、すぐに済む。それにこれもやっておかないと隠し事がなくならないからな」


 どういう意味?

 でも私が戸惑ってるうちに、ベオさんはセルド王太子の自由を解いてしまった。

 セルド王太子はさっきのナイフを渡される。


「もっといい得物を貸しましょうか?」


「……ウェンロッド、貴様の武器は?」


「素手で充分だ」


「なにっ!? それなら私はナイフでいい!」


 セルド王太子の顔が怒りで真っ赤になっている。

 ウェンロッドは今日も腰に剣を下げているけど、抜くつもりはないみたい。

 大丈夫なの?


「セルドさまぁ、応援しております! 万が一お怪我なさっても、このメアリルがついてますわぁ!」


 一人空気が読めていないのはメアリルだ。

 両手を胸の前で握り合わせて声援を送っている。


 セルド王太子の少年のように細い身体を見れば、ナイフを持ったところでウェンロッドには敵わないと思うけど……。


「安心しろ、シールドの魔法はもう解けてる。そうだ、賭けをしようか? 俺が負けたらお前の罪はすべて不問とし、このままオールラム王国に帰してやる。だがもし俺が勝ったら……お前はリルシアの件と今日の襲撃含めすべての罪を認め、王位継承権を放棄するんだ」


「はぁ!? なんでそんなこと!」


「罪を認めたくない、か? だがこっちはほとんどの証拠を押さえてる。オールラム国王陛下の体調不良の件も含め、な」


 えっ、国王陛下の体調不良って……。

 するとセルド王太子の顔がサッと青ざめた。

 それって、国王陛下の体調不良の原因が、セルド王太子にあるってこと?

 まさか……毒とか!?


「ええい、黙れ! いいだろう、もし私が負ければすべてを話す。だが死ぬのはお前だ! なにせこっちには聖女メアリルがついているんだからなっ」


 セルド王太子は叫びながら、ナイフを構えてウェンロッドに向かっていった。

 しかし、すぐさまウェンロッドの長い足で腹部をを蹴られて後ろ向きに吹っ飛ぶ。


「くっ……まだまだぁ!」


 セルド王太子は再び立ち上がって向かっていくも、今回もさっきとまったく同じくお腹を蹴られて、その勢いのまま壇上から階段を転げ落ちていった。

 ああ、なんだか惨めすぎて見ていられない……。


「セルドさま!?」


 慌てたメアリルが追いかけて行く。


「お前、怪我するぞ! 離れていろ」


 ウェンロッドはメアリルをけん制しながら階段から飛び降りて、倒れたままのセルド王太子に飛びかかった。


 そしてセルド王太子の腹の上にまたがると、ウェンロッドの手から炎が放たれる。

 あっという間に二人を周りから隔離するかのようにサークル状に炎の壁ができあがった。


「えっ、魔法!?」


 大丈夫なの!?

 案の定、ウェンロッドが苦しげに唸ったかと思うと、その髪がみるみる銀色に変わっていく。

 それと同時に頭にぴょこんと二つの獣の耳が生えた。

 恐ろしくも神々しい、半神獣のウェンロッドだ。

 固唾を飲んで見守っていた大勢のギャラリーから、悲鳴や困惑の声が上がる。


「ウェンロッド!?」


 急いで階段を駆け下りる。

 確かに最近は調子がいいと言っていたけど、もしこの場で暴走でもしたらっ……!


 けれども、私を安心させるかのように、さっとウェンロッドの片手が上がった。


「さあみんな、俺のこの姿を見てくれ。これが獅子王と呼ばれる男の正体だ。俺は神獣を殺めたせいでこんな化け物になってしまった。これを鎮めることができるのはこの世でたった一人、リルシアだけだ。……セルド、お前はさっき自分には聖女がついていると言ったな? それなら俺には黄昏の魔女、リルシアがついている。お前なんかに負けるわけがないだろ?」


 そう語ったウェンロッドの目には、しっかり正気の光が宿っている。


 二人を囲う炎が勢いを消し、ウェンロッドの方に引いていった。

 そしていつかと同じようにウェンロッドの身体に炎がまとわりつく。

 それはセルド王太子の服に、あっという間に着火した。


「た、たそがれ……? あっ、あちちちちっ!」


「さあ、負けを認めろ。さもなけりゃ、全身丸焦げになるぞ?」


「わわっ、わかった! だから消しっ……あちっ、わああっ!」


「降参だな? このホール中のみんなが証人だからな」


 セルド王太子はもう言葉も出ないのか、何度もうなづき、それでウェンロッドは彼の胴の上から立ち上がって退いた。

 同時に炎は消え、セルド王太子はぐったりと横たわったまま荒い息を繰り返す。

 上等だった綺麗な服は、すっかり焦げついてしまっている。


「さあ、癒してやれ」


 ウェンロッドがすぐそばで立ち尽くしていたメアリルに声をかけた。


「あ、えっとぉ〜……あの、私、聖女のメアリルです! 私、知らなかったんです、セルド王太子が国王陛下に何か悪い事をしていただなんて……そして、ウェンロッド陛下がこんなに強くて素敵な方だったなんて! ああ、こんな事なら姉に身代わりなんかさせず、私が最初から来れば良かったですわぁ!」


「……は?」


 媚びるようなメアリルの話し方に、私も思わず口がポカンと開く。

 え、な、なんなの?


「だから、妃は私じゃダメですか? 囚人に囲まれて監獄で育った姉より、私の方が見た目も品位も教養も、すべて上ですわ!」


 メ、メアリル……。


「あのなぁ、俺に必要なのはリルシアただ一人だ。簡単に自分の男を見捨てるとは……リルシアの妹とは思えないほど下衆(げす)な女だな。お前は自分が恵まれた生活をしている間、少しもリルシアの事を想わなかったのか?」


「え……げ、げすぅ!?」


「癒す気がないならいい。ベオ、こいつを拘束しろ。クレエド、誰かに指示してセルドをなんとかしてやれ」


「ちょ、ちょっと、少し顔がいいからって酷いわ! 私を誰だと思ってるの!? 世界でたった一人のせいっ……」


「はいはいはい、話はあっちで聞くわよ〜」


 メアリルは抵抗するも、いとも簡単にベオさんの肩に担ぎあげられて連れて行かれた。

 火傷で息もたえだえなセルド王太子の周りには、魔法騎士団の団員が何人か集まり、回復魔法をかけている。

 周囲はまだざわついているものの、クレエドさんがみんなに声をかけて事態の収拾を図っていた。


 お……終わったの?

 本当に?

 良かったあぁぁ……。


 私は安堵のあまり、その場に座り込んでしまった。


「メアリル、大丈夫!? ……あっ、メアリルじゃなかったんだっけ?」


 綺麗に着飾ったアンヌが、心配そうな顔で駆けつけてくれた。

 その姿を見て本当に全部終わったんだと、またもや涙が出てくる。


「ごめんなさい、ずっと嘘をついてて……私の本当の名前はリルシアよ……」


 そしてあなたの憧れの聖女があんなでごめんなさい……。

 アンヌは「そんなこといいのよ!」と笑ってくれる。


 まだ周囲が騒然としている中、ウェンロッドが大ホールの中央に向かって歩き出した。


「みんな、今回は色々と巻き込んでしまって申し訳なかった! お詫びに今回の顛末を話そう。ああ心配いらない、この姿はすぐに戻るから」


 そうして人の姿に戻ったウェンロッドは、改めてこれまで隠してきた神獣化についてや、セルド王太子の企みについて説明した。


 みんな驚いていたし、もうパーティーって感じじゃなくなっていたけど……そこはさすが(いくさ)慣れしたグレライン王国。

 あっという間にホール内は元通りに片付けられ、パーティーは再開。

 そうして当初の予定通り、私とウェンロッドはみなが見守る中、ダンスを踊ったのだった。


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