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第15話


「ウェンロッド!?」


 慌てて身体を起こしてウェンロッドの方を見ると、彼も倒れ込んでいた。

 まともに正面から撃たれたんだわ!


 私は慌ててウェンロッドに飛びつき、横向きの身体を仰向けに返そうとする。

 ホール内には悲鳴と怒号が満ちていた。


 二人は向かい合っていて至近距離だった……。

 しかもオールラム王国では銃をホルダーにさして腰に下げている兵士がたまにいるけど、魔法が普及しているグレライン王国では見たことがない。

 つまりウェンロッドはあれが銃だと気づかなかったのかも……。


 ああ、なんてこと!

 セルド王太子がウェンロッドを狙っているのは分かっていたのに!


「ウェンロッド!」


 泣きそうになりながら叫ぶ私の肩を、誰かが強い力でつかむ。

 そしてウェンロッドから引きはがされた。


「これで獅子王も終わりだな」


 セルド王太子だった。

 再び銃を持つ手が上がり、銃口が倒れたウェンロッドに――。


「やめて!」


 彼に飛びかかろうとしたけど、先に何かが素早く動いてセルド王太子の手元を払った。

 銃が弾き飛ばされ、硬い音とともに床をすべっていく。

 それを受けとめたのはクレエドさんだった。

 銃を拾ったクレエドさんは眉を上げて、呆れたような表情を見せる。


「やれやれ、同盟国のパーティーでその国の王を襲うとは、度胸だけはありますねぇ」


 その声は穏やかで冷静だった。


「くっ……いったいなぁ、こんな近くで撃たれるとは思わなかった……」


 ゆっくりとウェンロッドが身体を起こす。


「無事なの!?」


 思わず飛びつくと、ウェンロッドは苦笑いしながら私の頭に大きな手のひらをのせた。

 そのままポンポンとなでてくれる。


「驚かせて悪かった、すぐに声が出なくて。持続性のシールド魔法をかけていたから怪我はないよ」


「そ、そうなの? ああ良かった!」


 よ、良かった、本当に……。


 そうか、さっき銃を叩き落としたのはウェンロッドのつま先だったのね。

 私は安堵であふれ出た涙をぬぐってから、セルド王太子をにらみつけた。

 けれどもセルド王太子は驚く様子もなく、片頬だけで笑っている。


「ふん、そんなのは想定内だ。いいか、動くなよ? 大事な国賓が一人でも命を落とせば、グレラインが責任を問われることになるぞ」


 セルド王太子は、今度は胸元から大ぶりのナイフを取り出しながら、半分だけ背後を振り返る。

 するとさっきまでセルド王太子やメアリルのそばにいたお付きの者と、ホールにいた給仕係のうち何人かの総勢十人ほどが、みな銃を片手に動き出していた。

 その中でも、ひときわ身体の大きな眼帯をつけた男が、他の者に指示を飛ばしながらこちらに向かってくる。


「なるほどな、護衛たちも腕利きを揃えたってわけか。しかも事が終わった後はどうとでも誤魔化せるように国の兵士ではない、と」


 ウェンロッドが吐き捨てるように言った。

 誤魔化せるようにって、まさか護衛が勝手にやったことだとか言うわけ?

 どこまで汚いの、この人は……。


 けれどもパーティーの参加者全員を人質に取られたようなものだから、ウェンロッドも私も床に座ったまま立つこともできやしない。

 そうしている間にも、あっという間に眼帯の男が階段下にいたメアリルを片腕で担ぎ上げ、こちらに上がってきた。

 その右手にはセルド王太子のものよりさらに大きな、黒い銃が……。

 ウェンロッドはシールド魔法というものをかけているって言ってたけど、その効果はまだあるの?

 それにどこを撃たれても大丈夫なのかな。

 たとえば、頭とか……。


「遅いぞラーモル、早くこいつを殺せ!」


 セルド王太子は眼帯の男にそう言いながら、メアリルが下りるのを手伝おうとする。

 すると眼帯の男がバランスを崩したのか、メアリルの身体がセルド王太子の上に落ちてきて、二人とも床に転がった。


「いったぁーい! もうっ、私を誰だと思ってるの!?」


「貴様、気をつけろ! 大丈夫かメアリル、早く立て」


 セルド王太子がメアリルに手を貸しながら立ち上がろうとするも、今度はセルド王太子の腕を眼帯の男がつかんで引き寄せた。

 そしてすごい勢いで床に押さえつけ、腕を締め上げる。


「いだだだだっ! ラ、ラーモル、なにをっ……!?」


「きゃっ、セルドさま!?」


 何が何だか分からない。


「ど、どういうこと!?」


「部下たちの武装もさっさと解いてくれ。客人たちが怯えているからな」


 その落ち着いた声はウェンロッドだった。

 彼はしなやかな動きで素早く立ち上がると、私の手を取って引き上げてくれる。


「な、何が、一体……」


 戸惑う私を見下ろして、ウェンロッドが微笑んだ。

 そして目だけでセルド王太子の方を指す。


 すると彼を押さえつけていた眼帯の男が銃を捨て、空いた片手で眼帯をむしり取った。

 そしてこちらを向いて、パチリと片目をつむる……?


「え……ええっ!? ま、まさか……」


 服の上からも相当鍛えられたと分かるその筋肉質な身体と、男らしい浅黒い肌、そして顔の半分を覆う眼帯でぜんぜん気づかなかったけど……。


「ベオさん!?」


「うふふっ、そうよ。陛下の周りは魔力がある人ばっかりだから、潜入捜査をこなせるのは私しかいないのよぉ。ほら、赤とか青とか緑とか、派手な髪色や目の色の者じゃオールラムで目立つでしょ?」


 短い赤茶の髪もその声も、ベオさんのものだ。

 でも何か塗っているのか?

 いつもより濃い肌の色と化粧のない顔は違和感がありすぎる。

 ていうか、こう見るとなんだか精悍でかっこいいような……そりゃそうか、ウェンロッドの兄弟だものね。

 そういえばさっきセルド王太子が呼んだ「ラーモル」も、ベオさんの名前のベオ・ラモールから取ったのかな。


 ベオさんはセルド王太子を片手でたやすく拘束したまま、いつもと違う野太い声で部下たちに指示を飛ばす。

 警戒を解いて銃をしまわせたようだ。


「くそっ! まさかスパイだったとはっ……」


「残念ねぇ、あなたが信頼を寄せるパナゴール侯爵は、うちの陛下と秘密裏につながっていてね、もうあなたを見限っているの。彼の紹介なら疑わないだろうって思ったら大正解だったわ」


 ていうかベオさんが男のフリしてスパイって、本当にビックリよ!

 あ、フリじゃなくて、ベオさんは生物学的には男だったっけ。

 今日はその姿を見ていなかったけど、ベオさんは貴族じゃないしパーティーには出ないんだとばかり……。


「ベオさんがスパイ……もうっ、それならそうと先に言ってよ!」


「はははっ、ごめんごめん。サプライズにしようかと思って。驚いたろ?」


「さっきから驚きすぎて寿命が縮まったわよ! まったく!」


「そっ、それは困る! ごめん……今度からはちゃんとリルにも話すから」


「ふふっ、頼むわよ」


 ウェンロッドが本気で困った顔をするのが面白くて、思わず笑ってしまった。


「というわけで、だ。もう隠し事はなしで行こう。お前は俺を殺したいんだろうが、頼りにしていた部下たちは、みなそのベオが集めたグレライン王国の者だ」


 セルド王太子はこめかみに青筋を立てながら、悔しげに歯を食いしばっている。


「卑怯だぞっ、部下がいなければ何もできない臆病者のくせに!」


「……へえ、俺を臆病だって? ちょうどいい、それなら一度だけチャンスをやろうか」


 そんな安い挑発に乗るような人じゃないはずだけど、ウェンロッドの声はさっきより一段低かった。


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