駆け込んだトイレにペーパーは置いてなかったけど、壁におふだが貼ってある
急に催して駆け込んだ公衆便所。
やけに古いなと思ったが、背に腹は代えられない。
「ふぅ……助かったぁ」
俺は間に合った安堵感と排泄による快感に身を震わせる。
しかし、一難去ってまた一難。
このトイレにはペーパーが置いてなかったのだ。
まぁ、古いトイレだからしかたないよな。
でも……どうしようか。
まさかそのままパンツをはくわけにもいくまい。
どうしたものかとあたりを見渡すと――
ずぅぅぅぅん……
何やら不気味なオーラを放っている古びたおふだ。
それが壁に貼ってあったのだ。
これを使って尻をぬぐえば危機を脱せる。
しかし――いくらなんでも罰当たりすぎる。
しばらく試案していたが、やはりクソをつけたまま外に出るのもなんだ。
俺はそのおふだを引っぺがしてケツを吹くことにした。
ふきふき。
あーすっきりした!
俺は便所におふだを捨てて個室から外に出る。
すると――
「あんたさぁ、やばくない?
まさか貼ってあったお札で――」
見知らぬOL風の女が立っていた。
「で?」
「……え?」
俺の言葉にたじろぐ女。
「だからなに?」
「いや……その……」
「邪魔だから退けよ」
「ひっ!」
俺が睨みつけると女は恐怖に顔をひきつらせた。
「あのさぁ、お前みたいなやつ全然怖くないんですけど?
なんならおっぱい揉ませろよ。
ほら、おっぱい、おっぱい。
乳見せろよほら」
「すみません、なんでもないです……」
女はすごすごと退散した。
こんな古びた公衆便所に、あんなOL風の女がいるはずねーんだよなぁ。
まさか生きた人間じゃあるまいし。
俺には昔から霊感がある。
幽霊とか見えても全然平気。
というか見慣れすぎて飽きた。
あいつら、こっちが見えてても何にもしてこないし、よしんば何かしてきても視界に入って来るのが精一杯。
怖がらずにいると残念そうに帰っていく。
幽霊なんて俺にとっては蚊とか蠅とか、その程度の存在でしかない。
だからお札なんてただの紙切れなのだ。
あんな奴らを払ってどうする。
生きた人間とか交通事故の方がずっと怖いわ。
……うん?
ふと、足元を見る。
ポケットティッシュが落ちていた。
入る前にはなかったと思うが――
え? 嘘でしょ?
俺は慌てて公衆便所を出る。
そこには警察官とさっきの女がいた。
「この人です!
勝手にお札をはがしてお尻を拭いたみたいです!
あと、私にセクハラしました!」
引きつった顔で俺を指さす女。
疑いの目を向ける警察官。
どうやら俺はやっちまったらしい。
生きている人間の方がよっぽど怖い。