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Losers:Under15  作者: ビーナ
第二幕:群団ウルフ
10/15

派閥長と探偵と助手

 探偵の助手の前任者――邦遠連理の代わりではなく、吾大久那として璃桜の助手を務める。

 当面はそれをモチベーションとして――勿論、父親の死の真相を知る、という当初の目的は忘れずに、助手として璃桜をサポートすることを決めた。

 とはいえ、数日前の璃桜からの熱烈なアプローチの全てが嘘だったとは思っていない。



『私はあなたが良いのよ、吾大久那さん。あなたに一目惚れしたの。あなたしか考えられないの。あなたじゃなくちゃ嫌なのよ』



 邦遠連理という前任者の存在を知った今、どの口がそれを言うんだと罵ったって文句は言われないだろうが――そして、当時の彼女のモチベーションが良く分からなくなる。

「私の何がそんなにあなたのハートに刺さったんですか? 具体的に」

 直球に訊いてみたところで、まともな答えなど期待していないが――ところで、ヴァンパイアの心臓に刺さったのだとしたら、それは致命傷ではないだろうか、と余計なことまで考えてしまった。

 実際に璃桜・ブラッドグラス・ファニーナイトの人間ならざる、摩訶不思議な能力を目の当たりにしてしまい、本人曰く「ヴァンパイア」というのも信じざるを得ない状況だ。



「あなたがとても魅力的だったからよ、良くも悪くもね」

「口説き文句としてはベタですし、回答になってませんよね」

「これから知っていってもらえれば良いのよ。まだ会って数日じゃないの――そうだわ、良ければ私の家に一緒に住まない? 下宿していかない?」

 さも名案と言わんばかりの表情で璃桜が声を上げる。逆に吾大の表情が曇っているのがまるで見えていないのか。



 瑠璃城女学園の生徒は寮住まいか、家から通っているかに分かれている。璃桜は後者だ。だが、送迎車で登下校する他の生徒達と違って、乗車する姿は見たことがない。てっきり寮に住んでいるものと思っていた。

「両親が海外にいるから今は一人暮らしよ。だから、私だけじゃあ少し手広でね。家事を少し手伝ってもらえるなら、家賃は無しで構わないわよ」

「私が構います。遠慮しておきますよ。え? 急に何を言い出すんですか?」

「探偵と助手の信頼度を上げるための妙案だと思うわ。そうすれば、さっきみたいな疑問はもう浮かんでこないでしょうし」

「それを超える疑問が浮かび上がりましたよ。どうなってますか、あなたの脳内は?」

「でも、妙案ではあると思うのよね。まずは内見からどうかしら?」

「璃桜さんの頭の中を内見したいくらいですよ、じゃなくて……」

 じゃなくて――と、いつの間にか巻き込まれていた璃桜のペースから逃れるように、吾大は話題を切り替える。

 本題を切り出す。



「あなたの助手って私で本当に良いんですか? 妥協は無いですか?」



***



「寛いでもらって良いわ。自分の家のようにね」

 ファニーナイト宅に到着するなり、璃桜は来ていた制服を脱ぎながら言った。同性とはいえ、後輩を前にして肌を露出することに躊躇いが無い。吾大は咄嗟に目線を外す――寛いでくれ、とは言われたものの、学園のアイドルの着替えを目の当たりにして不覚にも心臓の鼓動が落ち着かなかった。

「……今住んでる施設には連絡を入れましたから、取り敢えず今日はご厚意に甘えますけど……流石にすぐに住み込むみたいなことはできませんよ」

 吾大としては正直なところ、施設の職員に止めてもらいたかったところだが、意外にもあっさりと許可が下りた。むしろ今まで孤立していた吾大が友人宅に泊まりに行くことを喜んでいるような話まであった。

(……厄介者扱いされてると思っていたけど、案外心配されてたってことかな)

 まさか養護施設に対する見方が変わるとは思わなかった。

 そして、ファニーナイト宅に入って、少なからず璃桜に対する印象にも変化があった。富裕層の令嬢達が多く通う瑠璃城女学園――その生徒達から羨望の眼差しを一身に浴びる学園のアイドル。

 その彼女がどんな豪邸に住んでいるのかと思えば、拍子抜けする程に一般的な戸建ての一軒家だった。いや、戸建ての一軒家に住むことだって、相当な金銭が必要なことに間違いはないのだが。故に、ファニーナイト邸ではなく、ファニーナイト宅と表現するのが適しているだろう。

 表札に『Funnynight』と刻まれているのを見ると、冗談ではなく本当に璃桜の実家なのだろう。

 ファミリーネームが英語で表記されている辺り、海外の家をイメージしてしまうが、本当に日本家屋といった印象だ。

「正直、意外でした。璃桜さんなら、もっと贅沢の限りを尽くした大豪邸に住んでいるものかと……」

「私はそれでも構わないのだけれど、生憎とお父様はそうじゃないの。日本の生まれだし、堅実なのよ。お母様は海外の出身で、それなりに派手な方ではあったけれど、お父様のことを愛していたし、趣味嗜好は寄せたのよね」

「表札には『ファニーナイト』ってありましたけど、お父様は婿養子なんですか?」

「ああ、夫婦別姓なの。今時、そこまで珍しくはないでしょう?」

 隠すことなく璃桜は両親の話に答えた。意外な程にあっさりと。

「ハーフ……ですよね、名前からして。こうして話していると忘れそうになりますけど」

「今時珍しくはないわよ。グローバル化が進んだ社会だもの――と言いたいところだけれど、私の両親の馴れ初めはそれよりも昔よ」

「? ご両親がお年を召されているんですか? それこそ珍しくはないですよ」

「まあ、高齢は高齢ね……百年以上は前でしょうから」

「……………………」

 反応に困り、言葉を詰まらせてしまう。冗談を言っている様子はないので、本当のことを言っているのだろう――ヴァンパイアの時間の感覚はスケールが違う。

(まあ、そうよね……。突然変異って訳じゃないんだから、娘がヴァンパイアなんだから、両親もヴァンパイアよね……)

 改めてとんでもない魔窟に来てしまったんじゃないか、と心臓が締め付けられるような感覚を味わう吾大。

 主人公が先輩と仲良くなり、家に招かれたところで、実は怪物だった先輩に食われる――前にそんな結末を迎えた怪奇小説読んだことがある。あの時はどうしてもっと慎重にならないんだ、と主人公に疑問を抱いたが、実際に自分がその立ち位置にいると、意外と慎重かつ冷静ではいられないものだと実感する。

「そんな汗を掻いてどうしたの? 別に獲って食ったりしないわよ」

「比喩が比喩に聞こえないんですよ、マジで獲って食われるんじゃないかってハラハラなんですよ」

「私のお腹に納まりたいの? 腹々(はらはら)なの?」

「自分の身を差し出す程に、私はあなたに心酔してないです。こう言っては何ですけれど、私は血も肉も超絶不味いですよ」

 命乞いのような台詞を言いながら、璃桜から距離を取る璃桜。璃桜が人を捕食するようなことはないと思うが、笑った時にチラリと見える鋭い牙が警戒心を引き上げる。

「私は別に人間の血肉に興味無いの。勿論、全然飲まないと衰弱するけれど、そこは鳥とか魚の血でも済む話だし」

「それを聞いて安心しました。心の底ならぬ腹々の底から。ところで、一人暮らしということは、家事は全て璃桜さんがやっているんですか? お手伝いさんを雇わずに?」

「ええ、さっきも言ったけれど、お父様は堅実な方なのよ。あの学園に通っているからといって、何でもかんでも人任せは良くないからって、炊事洗濯掃除は一通り全て教わっているわ」

 父親を自慢するように、胸を張りながら璃桜が言う。

(一通り教わったクセして、空き教室丸々清掃を押し付けたんだ……)

 しかも、あれだけ時間を掛けて大掃除したのに、未だに使用したのはほんの僅かだ。

「そうですか。じゃあ、家事は半分……炊事と洗濯は引き受けます」

 清掃を璃桜に任せたのは、この間清掃を押し付けられた分、自分の家くらいはやってもらおうという仕返しの気持ちと、仕事で雇われた業者でもないのに、プライベートの空間を色々と弄られたりするのは好ましくないだろうという配慮からだった。

「気を遣う必要は無いわ。誘ったのは私の方だし。一人暮らしといっても、そこまで一つ一つに手間暇を掛けている訳じゃないの」

 と、璃桜は言うが、流石に全く何もしないという訳にはいかない。

「料理くらいは頑張りますよ、ある程度料理のレパートリーはあるつもりですし。冷蔵庫の中覗いても構いませんか?」

「じゃあ、カレー。カレーが食べたいわ」

「良いですけど、材料あります? 野菜とか、肉とか……」

「ちょうど材料は冷蔵庫の中に揃っているはずだし、お願いするわ」

 持ち主からの許可が下りたので、冷蔵庫を開ける。自炊をしているというだけあって、中には野菜や肉、魚まで豊富に獲り揃っている――その中に、輸血の際に使われるような血液のパックが数点。

 改めて、璃桜がヴァンパイアであることを認識させられる。むしろヴァンパイアであるならば、野菜や魚よりもこっちの方が主食のはずだ。

「……これ、入れますか?」

「うん? あぁ、無理に私に合わせなくても大丈夫よ。さっきも言った通り、血は人間に限定しないし、好きじゃないの」

「好き嫌いは良くありませんよ、って言うと私が自ら進んで身を差し出すみたいになってしまいますね。じゃあ、シンプルに肉と野菜のカレーで……」

 そこまで言いかけて、ピタリと吾大の言葉と体が止まる。

 思ったよりも早くファニーナイト家に馴染んでいる。自ら炊事を担当しているとはいえ、既に居心地の良さを感じ始めている。璃桜もそれを感じ取っているのか、リビングからニタニタとその様を眺めている。掌で躍らされている感がどうしても拭えない。

(……何だか恥ずかしくなってくるな。あの人にとっての唯一無二なろうとか、吾大久那として助手を務めるとか)

 昨日の今日で早くも挫折しそうになる。

 ある程度覚悟していたことではあるが、璃桜のようなカリスマ性の持ち主――端的に言えば天才の横に立つとなると、どうしても自身の平凡さが浮き上がってしまう。それがヴァンパイアで探偵ともなると尚更だ。

(……改めて思い返してみるとおかしいよね。何? ヴァンパイアで探偵って……)

 前任者の邦遠連理もこういうところが嫌だったんだろうな、と勝手ながらに思ってしまう。

「ねぇねぇ、はーやーくー」

 甘えるような、璃桜の催促がリビングから飛んでくる。

 助手に勧誘された時の熱量といい、今の甘えたがりな一面といい、璃桜は臆面無く、吾大に素顔を見せてくる。だから、吾大が抱える心配は恐らく杞憂で、劣等感はそれ程大事ではないのだろう。

 前任者の代用だなんて、璃桜は全く考えていないに違いない――被害妄想だ。きっとそうに違いない。

「まだ野菜を切ったばかりですよ」



***



「璃桜・ブラッドグラス・ファニーナイトが例の2年生――吾大久那を家に連れ込んだようです。同棲……もとい、下宿、を始めたようです」

 璃桜の周辺を探らせていた派閥の生徒から報告が上がった。報告を行う女生徒の後方には更織派閥の生徒達がまるで軍隊のように整列していた。

 派閥の長、更織大義は優雅な動作でティーカップを口元に運びつつ、報告に耳を傾ける。

「なるほど。以前から学園の風紀を乱す方ではありましたけど、とうとう後輩に手を出しましたか……。節操無しだとは思っていましたけれど」

 カップから唇を放すと、更織は眉を顰め、溜め息を吐く。

 元々人気の高さに反して、派閥を作らず、また派閥争いに対しても一切興味を示さない璃桜に少なからず関心はあった。尤も、それはまるで何を考えているのか分からない彼女に対する好奇心でしかない。実際のところ、何度か争いに発展したことはある――一匹狼を気取っていようと、自身の派閥とぶつかったなら、それは派閥争いになる。

(とはいえ、ですよ。個人的にあの方に悪感情しかない訳ではないんですよね……)

「如何いたしましょうか、更織様? ご命令いただければ、私共はすぐにでも――」

「すぐにでも……何をするつもりですか?」

 更織が笑みを浮かべたまま小首を傾げる。表面上は優雅な笑みを絶やしていないが、残された右目に宿る鈍い光が言外に『余計なことをするな』と語っていた。

「も、申し訳ございません……。出過ぎた真似を……」

 空気が一瞬にして変わる。深々と頭を下げる報告係。その様を一瞥すると、更織は頭を振る。正直なところ、派閥の生徒達がどのように動こうと興味は無いが、巡り巡って自分に危害が及ぶ可能性を無視することはできない。

「……容易に彼女達に手を出すことは禁じます。この場にいない子達にも速やかに伝達するように」

「かしこましました」

 速やかに、という文言が効いたのか、集合していた派閥員は即座に姿を消していった。残ったのは、更織と、常に彼女の周りで警護する親衛隊の派閥員数名のみとなった。

「……更織様、本当によろしかったのですか?」

 おずおずとした様子で、警護に当たる生徒の一人が訊ねた。あまり一人一人の顔を覚えてはいないが、どうやら最近派閥に参加した新入りのようだった。

「差し出がましいことを申しますが、璃桜さん達を放置されては、その……私達にどのような危害が及ぶか……」

「その心配は不要ですよ」

 新入りの言葉を遮り、更織が言う。

「あの人は私達に何もしませんよ。興味が無い相手には何もしません」

「更織様は……眼中に無いと? そんな……」

 自分達が慕う人物が相手にされていないと言われ、親衛隊員達の表情が怒りや悲しみで曇っていく。しかし、その感情は更織を動かす決め手にはなり得ない。

 手にしたカップが空になったことを近くの派閥員に示すと、すぐさま新しい紅茶が注がれる。元より今回の集まりは派閥員とのお茶会の予定だった――璃桜が後輩を同居生活を始めたがために、報告会が始まり、抗争の一歩手前の雰囲気になってしまったが。

「改めて、派閥の長として命じます。こちらから璃桜さんと吾大さんに手を出さないように」



***



「――という訳で、派閥員があなたを襲うことはないかと思いますが、璃桜さん……。あなた、一体何をしているんですか?」



 そして現在、出されたコーヒーを飲みつつ、()()()()()()()()



 派閥の集会を終え、一人になった更織は直接ファニーナイト宅へと足を運んだ。勿論、他の派閥員の目には入らないように。

「いきなり訊ねた来たと思えば……何の話かしら? 折角、これから久那ちゃんが作ったカレーが食べられると思ったのに」

 腕を組んだまま璃桜が問い返す。これから食事が始まるというタイミングでの来訪だったため、不機嫌な様子を隠さない。

 一方で、コーヒーを運んだ吾大は混乱から抜け出せないでいた。インターホンが鳴り、璃桜が玄関に向かったかと思えば、今度は更織大義を連れてリビングに戻ってきたのだから、無理からぬことではあるが。

「親切心でこうして敵勢力であるあなたに情報を明け渡したのですから、そこはほら、もっと感謝の言葉が返ってきても良いのではないでしょうか」

「私を敵として認識しているという情報が一番有益ね。そのコーヒーにお金を払ってもらうわよ」

 さっさと帰りなさいよ――シッシッ、と手で追い払うジェスチャーをする璃桜。

 そのコーヒーを淹れたのは吾大なのだが、と口を挟むのは流石に無粋か。

「学園の生徒として、優美さに欠ける振る舞いですね。それとあなたが淹れた訳ではないでしょう――ですが、ええ……結構なお手前です」

 そして、賞賛の言葉を述べる際に、初めて更織は吾大の方を向いた。

「吾大さん、今からでも遅くはありません。いますぐにでもご自宅に戻るべきですよ。そして、璃桜さんとのお付き合いについても見直すべきと忠告させていただきます」

「は、はぁ……」

 何度となく言われてきたアドバイスに、苦笑いを浮かべながら吾大が曖昧に返答をする。

 言っていること自体は間違っていないのだが、彼女の親衛隊達に向けられた武器の記憶が消えるにはまだ日が浅過ぎる。ましてや、彼女はその状況において一切自身の派閥員の行動を諫めようとしない――むしろ、日常茶飯事とばかりに話を進めようとしていた。

 警戒心のレベルを最大にしたまま、吾大はコーヒーを運ぶ時に使ったトレイをギュっと抱き締める。もしも拳銃を隠し持っていた場合、少しでも急所を庇えるように。

(……プラスチック製品で銃弾を止められるとは思えないけれど)

「あ、あの……更織、先輩……?」

「はい。何でしょうか、吾大さん?」

「あの……失礼を承知で言わせていただきますが、璃桜さんと更織先輩は……その、敵対関係というか、仲がそこまで良くはなかったというか……」

 言葉を選んでいく内に弱々しい口調になる吾大。思わず質問してしまったが、それで更織の地雷を踏んでしまっていたら、あるいは璃桜の方の逆鱗に触れているかもしれなかった。そうなれば、あの親衛隊達以上の暴力の矛先が今度こそ自分に向けられることになる。

 リビングが静まり返る。それは一瞬にも満たない時間だったが、心臓が激しく鼓動している吾大にとっては、永遠にも思える時間だった。

「敵対関係……というのは、間違っていないかもしれないけれど、仲が悪いってことではないのよ、久那ちゃん」

 それから、璃桜が柔和な笑みを浮かべて返答する。次いで更織も答える。

「立場上公にはしませんが、こうしてコーヒーを振る舞っていただく程度の仲ですよ。あなたが思っているような殺伐とした関係性ではありません」

 だからコーヒーを淹れたのは自分なんだけど、と言いたくなるのをグッと呑み込み、吾大は璃桜の方を見る。前回の両者の対峙に立ち会った側としては、殺伐とした関係性以外有り得ないと思った。あのまま殺し合いに発展してしまうのではないかと思った。

「流石に殺し合いはないわ。あの時は、久那ちゃんがちょっかいを掛けられていたから、少し圧を掛けただけよ」

「あれが少しですか。目隠しされた状態でしたけど、ライオンが近くで威圧しているかと思いましたよ」

「なるほど、()()()()()が目隠しした状態でそれが分かるのなら見込み有りよ、久那ちゃん」

 流れるように賞賛の言葉を告げる璃桜に対して、更織は値踏みするかのように吾大を見つめる。身内に対する甘さは以前から把握していたし、それを派閥員の数名は付け入る隙だと認識していたようだが――

(隙だなんて冗談じゃない。この人の身内を害することが逆鱗に触れることになるのが分からないんですかね……。間違いなく私達は全滅ですよ)

 仲が良好であることと対等な関係であることはイコールとは限らない。

「ええ、殺し合いにまでは発展しませんね。()()()()()()

「私としては向かってくるなら構わないわよ? 良いわよ、ここで殺し合う?」

 挑発する璃桜と更織の間で火花が散ったように見えた。しかし、それは先日の廊下での睨みあいとは異なり、まだ口喧嘩の範疇といった様子だ。

「……話を戻すけれど、何をしてるのかって訊いたわね? 別に何もしていないわ。私が久那ちゃんを助手にしたことが、()()()()()()()()()()()()()()()のかもしれないけれど、今まで通り私はあなた達と事を構えるつもりはないの」

 璃桜が静かに言い放つと、更織は残された片目で再び吾大を一瞥し、フッと笑う。馬鹿にした嫌味な笑みという訳ではなく、得心が行ったという感じの笑いだ。

 吾大が額から大粒の冷や汗を流す。嫌な予感が止まらない。

「ええ、なるほど。そういうことであれば良いでしょう。では、()()()()()()()()()()()()()()()()

 社交辞令のような挨拶と共に更織がスッと立ち上がる。聞き捨てならない言葉を告げて。

「え、あの……今後とも?」

「久那ちゃん、そんな素直に警戒心を剥き出しにしなくても良いわよ。今の言葉に裏なんかないから。単純にこれからも仲良くしましょう、程度の意味合いよ」

 そうよね、と僅かに圧を込めた笑みと共に璃桜が問い掛ける。当然といわんばかりに更織は笑んで首肯する。



「私達はあなた達と楽しい学園生活を送りたいと思っています、これは嘘偽りない本音ですよ」



 吾大はまだ更織とそれ程付き合いがある訳ではなく、彼女の人格がどんなものかは全く分からない。だから、これは完全な偏見でしかないのだが――

(……どうしよう。この人のことを、何一つ信用できない)

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