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銃声を聞いてゾンビたちが集まって来たようだ。後ろで敵を見失った上に、前からはゾンビが来るという状況は非常にマズイ。
ゾンビたちの足取りが遅いと踏んで、敢えてゾンビたちの方向へ走る事にした。あの少女の早撃ちを考えると、ゾンビたちに襲われる方がまだマシだ。
ジグザグに走りながらゾンビたちを交わし向こうの通りまで走り抜けようとした。10匹ほどのゾンビたちが、ヨロヨロと襲ってきたが動作が緩慢なためなんなく躱すことが出来た。避けきれないと思ったゾンビは足を撃つことで、よろけさせてなんとか切り抜けた。
「こいつらやっぱり遅いな、となると危険なのは他の人間の方か」
チュン! ──バン!
その時銃声が聞こえて、すぐ足元に着弾した!
「危ねぇ、どこからだ?」
後ろを振り返ると、民家の屋根の上にさっきの女がいた。
「あいつ、やはりまだ俺を狙ってたのか」
フェイントを入れながらジグザグに走り、通りの向こうまで行き隠れるように民家に入った。その間あの女はずっと撃ち続けていたが一発も当たらなかった。
民家の入口の扉の裏で耳を済ませていると、タッタッタッと足音が近づいてきた。
あの女が家に入ってくると確信し、息を潜めた。
この感覚、思い出した。ここは戦場だ。かつてこんな戦いをしていた日々──。ダメだ。具体的なことは思い出せないが、戦闘のやり方は身体が覚えている。
ガチャッ──と開いた扉の裏側で入ってくる者を観察した。家に入ってきたのは案の定さっきの女だった。
女が扉を後ろ手で閉めた。その瞬間グッと身体に力を込めて銃を持つ手を後ろから蹴りあげる。脚が女の手を強打し、銃が空中を舞った。すると女の鋭い蹴りが俺の腹目掛けて飛んできたが、それを難なく躱して女に銃口を向けた。
「降参、けどそこから離れた方がいいよ。ゾンビたちが入ってきて真っ先に襲われるのはあなたの方」女は余裕の顔を崩さない。何か当てがあるのか?
「ゾンビたちは屋内に入ってこない。なぜなら扉を開けることが出来ないからだ。違うか?」
「・・・・・・。どうして知ってるの?あなたはアタシを見ても撃たなかった。遭遇したら即戦闘の原則も知らない。つまり初心者のはずよね」女は尚も鋭い眼光を向けてくる。
「初心者だと思い勝てると思って家に入ってきたのか。その判断は間違ってない。ただ俺は初心者ではない」
「どうゆうこと?」女は困惑して薄ら笑いを浮かべる。
「やらなきゃやられることくらい知っているし、家の中にいる方が入ってくる方より有利だということも熟知してる」
「あなた一体何者?」女の左眉が吊り上がり疑念の表情を浮かべる。
「俺は、自分が誰かわからない。ここはどこなのか知ってるなら教えてくれ」自分でも意味のわからない言葉が咄嗟に口をついて出た。
「は?」
女の顔が呆気に取られたように緩んだ。その表情はまだ幼い少女の面影を残していた。