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エピローグ

 待ち合わせ場所にヤマトがやってきたのは、約束の時間を5分過ぎた頃だった。


 腕時計に目を落とす仕草をする度に、ゲーム内にいたことを思い出す。


「よお、ケン」


 気さくに挨拶するヤマトはどこにでもいるちょっとガタイのいい成人男性だ。ボディスーツを着てない姿を見るのが逆に違和感だ。


「おう、ヤマト、体の調子はどうだ?」


 俺たちはゲーム内からの脱出に成功したあと、一ヶ月ほど入院していた。


「もうバッチリよ、来月から自衛隊に復帰することになった。サイバー防衛隊からお声がかかってな」


「そりゃいい」




 ゲーム内から戻ってきたプレイヤー98名はすぐに病院に搬送され検査入院することになった。そしてリハビリや精神ケアのプログラムを受けて徐々に社会復帰していた。


 俺は退院してから一ヶ月ほどの間、今回の事を記事にするため、色々と事後処理の取材を重ねてまとめていた。


「それで、ひとしって何者だったんだ?」


 ヤマトが待ちかねたように聞いてくる。


「本名、榊原(さかきばら)ひとし。IT企業大手の、東郷集団の社員で電脳部所属の研究員だ」


「あの会社ってIT関連の事業色々やってるよな。ゲームとかアンドロイドも」


「そう、ひとしはずっとゲーム開発を担当していたんだが、5年前を境にアンドロイド開発の方に部署異動してる。本人の希望みたいだ」


「それって、例のアンドロイドテロ事件の時か」


「そうだ。その事件のことを当時の記事で調べてみたが、ひとしはあの事件で恋人を亡くしていたんだ。名前は安藤すずか。『すずか』そっくりだったよ」


「恋人の面影を追いかけてアンドロイドを作っちまったってことか?」


「ああ、ひとしはアンドロイド開発部署の責任者であり、ある程度研究室を自由に管理できる立場だったようだ。そしてあのゲーム内のシステムのアンドロイド開発にも携わってようだから、ゲーム開発部にも自由に出入りしてたみたいだ。そうやって自分の亡くした恋人そっくりのアンドロイドを作りゲームのテスターに潜り込ませたってわけだ」


「そしたらバグが起こっちまったってことか。あの人体転送の新技術ってのはもう確立されてる安全な技術なんだよな」


「もちろん、人体を原子レベルに分解して仮想空間に転送する。一昔前なら信じられないことが可能になった。しかしアンドロイドは別だったようだ。一件人間の方が複雑に見えるのになぜかアンドロイドはバグとして認識された」


「どうしてなんだ」


「それは……『すずか』には心があったんだと思う。ゲーム内のプログラムはそれを理解出来ずにバグとして検知した」


「アンドロイドに心……」


「人間の心のメカニズムってのはまだわかってない。しかしそれも含めて人体転送も可能なんだ。アンドロイドにも心が宿るってのが本当に起こってもおかしくないだろ?」


「現に俺たちはすずかを人間だと思っていたよな」


「そうだ。あいつは確かに心を持っていた」


「それで、ひとしはやっぱりまだゲーム内にいるのか?」


「ああ、と言うよりも、断絶された仮想空間にいると言った方が正しい。もう開発部からもゲーム内にはアクセス出来ないようだ」


「は? 断絶されたってどういうことだよ?」


「開発部の連中の話によると、メモリーボックスには、所持することで現実世界への転送を防ぐ機能がついてたらしい。それでひとしは肉体ごと仮想空間に残っちまったってことだろ。あいつの目的はそれだったんじゃねえかな」


「すずかに心が宿ったのは偶然なのか? それとも……」


「まーそこはいいじゃねえか。仮想空間に行き、すずかといっしょになることが目的だったとしたらあいつらは今頃仲良くやってるんじゃないか?」


 ヤマトは何も言わずに少し頷いている。


 俺は自分なりにまとめていた感想を最後に話した。


「自分の亡くした恋人ソックリに作ったアンドロイドに心が宿ったとして、それがどういうことなのかは今の科学技術では説明できないが、当人たちが納得の上で仮想空間に残ることを選んだとしたら後悔はないだろう」


「だといいな」とヤマトは言った。


 俺たちは笑いあって同時に空を見上げた。



 爽やかな青空が広がる上空、白い雲の切れ目から白いカプセルが見えた気がした。








最後まで読んでいただきありがとうございます。

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