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目が覚めると見覚えのある天井が目に入った。頭が少し痛い。枕元のデバイスを手に取り腕に装着した。
「ニンショウシマシタ。ミャクハクセイジョウ」
デバイスを確認する。
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やっぱり戻ってる。そして記憶もしっかり引き継いでる。ケンと最後に話したことがさっきのことのようだ。
すずかとヤマトのことも鮮明に覚えている。
部屋の中を見回すとメイド服を着た女性がいた。
メイドはパッチリとした目で俺を見ると、今回は少し微笑みながら口を開いた。
「おはようございます。目が覚めたようですね。10分以内に支度をして部屋から出てください」
「ああ、今すぐ出たいくらいだがな」
「そこの壁に掛かっているスーツを装着してください。ヘッドギアを頭に付けて、銃を腰のホルスターに装着してください」
メイドはすらりとした腕を伸ばし、細い指を壁にかかっているボディスーツに向けていた。
「わかってるよ」
立ち上がり壁まで行きボディスーツを手に取った。そしてササッと着替えて銃も手に取った。慣れたものだ。
「なあ、今って何回目のゲームなんだ?」
「……」メイドは短く沈黙してから「その質問にはお答え出来ません」と答えた。
しばらくメイドを見つめていた。
「ミッション開始まで残り3分を切りました。1分前にはカプセルの外へ出てください」
「ああ」
そういえば、と部屋の中を見回すとサイドテーブルの上にドリンクが置いてあった。一回目の時は確実になかったと思うが前回も、そして今回もあった。アイテムも引き継げるのか?それとも支給品が増えるのだろうか。
デバイスのボタンを適当に押すとホログラムで画面が立ち上がった。
──ブゥン。そういえば前回はアイテム使わなかったな。今回からしっかり使ってみるか。
それにしてもすごいな。最新の物体移動技術だった。というかこの身体もそうなんだろうか。これはVRというより、もっと最先端の量子力学を応用した人体転送型のゲームだ。
今日の科学技術では人体の細胞を粒子レベルにまで分解し転送、再構築することで人体の仮想空間への転送を可能にした。俺はそのゲームの製作現場に行ったことがあったのだ。少し思い出したが、しかし記憶が定かではない。
「ミッション開始1分前です。外へ出てください」メイドはそう言って扉のほうに目を向けた。
──ガチャ、シューン。
その時、ロックが外れるような音がして扉が横にスライドして開いた。相変わらず心地よい風が入ってくる。
振り返ってメイドを見るとぺこりとお辞儀をして口を開いた。
「健闘を祈ります」
一歩踏み出して外に出た。
──ビュオオォォ、と風が吹き付ける音が鳴り響いている。
──シューン、ガチャ。
外に出ると扉が自動的に閉まりロックされる。
視界一面に広がる空、白い雲が覆っていて下は見えない。
ああ、やっぱり見覚えがあるぞ。
更に周りを見渡すと、空の遠くの方に小さな丸い何かが見えた。やはりここと同じようなカプセルがいくつも見える。
あの中のどれかにすずかとケンとヤマトがいるんだろうか。
今回は目的がハッキリとしている。一刻も早くあいつらの誰かと会って記憶のことを話す。
──ガタン!
とその時、乗っている床がナナメになり転落し身体は空中に投げ出された。




