[01:00:00]
目が覚めると見覚えのない天井が目に入った。頭が少し痛い。首を横に向けると、枕元にデバイスが置いてある。それを手に取り無意識に腕に装着した。これはなんだか見覚えがある。
「ニンショウシマシタ。ミャクハクセイジョウ」
どこかで聞いたような音声、どうやらこのデバイスは俺の物のようだ。デバイスには数字が表示されている。
[01:00:00]
おかしい、0になったはずなのにまた戻ってる。
ん? さっきまでのあれは夢か? なんかこれを付けていた夢を見ていた気がする。
ようやく起き上がる気になり、ベッドから体を起こすとそこは見知らぬ部屋だった。
ここはどこだ。何をしていたんだっけか。体はダルいし頭も冴えない。ずいぶんと寝ていたんだろうか。さっきまで起きていたような気もするが。
部屋の中を見回すと天井や壁が湾曲していることからこの部屋の天井が球状になっていることがわかった。
何か動く物音がして、部屋の角を見るとメイド服を着た女性がいた。
「あ! 誰だ! なんだアンドロイドか?」
メイドの顔は無表情であり、どこか機械的だ。しかし凛として美しかった。パッチリとした目で俺を見ると口を開いた。
「おはようございます。目が覚めたようですね。10分以内に支度をして部屋から出てください」
「支度ってなんだ? ここどこだ?」
「そこの壁に掛かっているスーツを装着してください。ヘッドギアを頭に付けて、銃を腰のホルスターに装着してください」
メイドはすらりとした腕を伸ばし、細い指を壁にかかっているボディスーツに向けていた。
立ち上がり壁まで行きボディスーツを手に取った。そばの棚にはヘッドギアと銃が置いてある。
ボディスーツを着てみると体にジャストフィットした。体を左右に捻ってみても、しっかりと伸び縮みする素材で出来ておりしなやかに腰を動かすことができる。足首から先は靴のような形状になっており靴を履かなくても、このボディスーツ一着で動き回れるようだ。頭に着けるヘッドギアもジャストサイズだ。まるで俺の身体の寸法を測り用意されていたかのようだ。
棚の上の銃を見る。存在感抜群の無骨な黒色のハンドガンだ。すんなりと手に取ると握った感触を確かめた。
「なあ、殺し合いでもさせようってのか?」
「頑張って生き残ってくださいね」メイドは短くそう答えた。
俺はメイドの予想外の返答に驚き、少しの間言葉を失って見つめていた。
「ミッション開始まで残り3分を切りました。1分前にはカプセルの外へ出てください」
「なあ、これから何するんだっけ。ようやく頭が冴えてきた。これは夢じゃないんだな」
「その質問にはお答え出来ません。ミッション開始まで残り2分40秒です。1分前にはカプセルの外へ出てください」
「ミッションてなんだよ」俺がそう言ってもメイドは反応しなかった。
知性アンドロイドというものは普通はプログラム外の会話も柔軟に行うよう作られているはずだが、あまり反応がよくないようだ。慣れが必要なのかもしれない。
何か情報源はないかと部屋の中を見回すとサイドテーブルの上にドリンクが置いてあった。ちょうどノドが乾いてたし飲もうと思ったがフタが開かなかった。
「ここではアイテムは使えませんよ」
「アイテム?」首を傾げるとドリンクが急に手から消えた。
「アイテムを呼び出す時はデバイスをタッチして選んでください」
デバイスのボタンを適当に押すとホログラムで画面が立ち上がった。
──ブゥン。どこか懐かしい感覚に襲われる。
BAGの表示を開くとドリンクという文字が書いてあった。ドリンクの表示をタッチすると目の前にドリンクが出てきた。
すごいな。最新の物体移動技術か。仕組みは知っているが体験したのは初めてだった。
外へ出ようとしたが扉はロックされているようで開かない。部屋の上の方に明かり取りの小窓がありそこから青空が見えている。昼間だったのか。
デバイスを触りいくつかある項目からMAPを押すと、地図が表示される。この地域の地図だろうか。島の中央には町がある。見覚えがある。とりあえずこの町を目指せばいいんだよな。
「ミッション開始1分前です。外へ出てください」メイドはそう言って扉のほうに目を向けた。
──ガチャ、シューン。
その時、ロックが外れるような音がして扉が横にスライドして開いた。
扉の隙間から眩しい日差しが差し込み、心地よい風が入ってくる。
振り返ってメイドを見るとぺこりとお辞儀をして口を開いた。
「健闘を祈ります」
部屋の前には3メートル四方の床があり、その先には空が広がっている。一歩踏み出して外に出てみた。
部屋の外は一面の青空。ここは上空だった。
──ビュオオォォ、と風が吹き付ける音が鳴り響いている。
周りを見渡すとこの部屋はカプセル型の住居のようで上空に浮いていた。この部屋はどうやって浮いているのか。どうして自分はこんなところにいるのか。ようやく外に出たと思ったら、また様々な疑問が一瞬で湧いてきた。
──シューン、ガチャ。
扉が自動的に閉まりロックされる音がすると、途端に恐ろしくなった。
「おい!どうゆうことだ。開けろ!」必死で扉を開けようとしたが、開かないし中からも何も反応はない。
締め出されたことで一瞬焦ったが、さっきからずっと思っていたことがあり、冷静さを取り戻すために周りを観察した。
視界一面に広がる空、白い雲が覆っていて下は見えない。
ああ、やっぱり見覚えがあるぞ。
更に周りを見渡すと、空の遠くの方に小さな丸い何かが見えた。あれは──。
目を凝らして見るとそれは自分がいるカプセル型の部屋のようだった。うっすらと人が動いているのが見える。
「あれは、まさか……。俺の他にもいるのか?」
周りをよく見ると遠くの方に、ここと同じようなカプセルがいくつも見える。そしてそこには自分と同じように部屋から出されているの人影が見えた。
これは夢で見た光景だ。。上空に浮いている謎の部屋。このスーツ、ハンドガン。
俺はさっきまでこんな夢を見ていた。いや、あれは夢なんかじゃない。
──ガタン!
とその時、乗っている床がナナメになり転落した。
突如、俺の身体は空中に投げ出された。




