旧インターバル
インターバル 大罪人の娘たち
「大罪人の娘 前編」を読んで頂き、ありがとうございました。
この物語の主人公は明智光秀の次女、凛です。
光秀は本能寺で主君を討ち大罪人となり、凛は大罪人の娘となりました。
「大罪人の娘 前編」では、凛が大罪人の娘となるまでの過程が描かれています。
第壱節 女の戦い
織田信長は、凛を荒木村重の子、村次へ嫁ぐことを命じます。
荒木村重は、三好氏家臣の池田長正の娘婿に過ぎませんでしたが、池田氏を乗っ取り信長に接近し摂津国全ての支配を任された実力者でした。
ただし凛には、左馬助という既に愛していた男がいたのです。
嫁ぐ前夜、愛する者と結ばれぬ辛さに一晩中泣き続けます。
そして凛は、左馬助への愛を断ち荒木村次の妻となるのでした。
凛には、荒木一族を光秀の与党に確実に繋ぐという任務がありました。
たった一人で荒木一族そして摂津国に、まさに女の戦いを挑みます。
凛の持つ謙虚な姿勢、人当たりの良さ、そして弱い者への思いやりに夫や夫の親族は心を開き、荒木一族の内部情報が凛に集まるようになります。まさに才能の片鱗を見せたのです。
そして荒木家家臣や摂津国の領主達の不穏な動きをいち早く察知し、万見仙千代という信長の側近を使いそれに対処しようと奮闘します。
しかし、事態の悪化は凛の想定を超えていました。
村重は、領主達に一定の自由や独立を許すことで支持を得たことで素早い摂津国の統一を達成したものの、これが裏目に出ていました。
このときの信長は敵が多くほぼ毎日戦っていましたが、摂津国の領主達にとって信長の敵は自分の敵ではありません。出陣命令を拒否する領主達が現れたのです。
最大の問題は、石山本願寺との戦いでした。石山本願寺は摂津国にあり、そこにいるのは同じ摂津人なのです。
ついに村重は、家臣達から織田家と縁を切り、毛利家に属すよう迫られるのです。
第弐節 謀反
実は、摂津国は謀略を受けていたのです。
仕掛けたのは安芸国吉田郡の小領主から最大で中国九州10ヶ国を支配するまでに登りつめた天才、毛利元就の三男にして元就の能力を最も受け継ぐ男、小早川隆景。
とても凛が太刀打ちできる相手ではなかったのです。
隆景は信長と石山本願寺との戦いの長期化のため、摂津国を信長から引き離そうとしていました。
その理由は、鉄砲の火薬の原料となる硝石です。
この硝石は東南アジアからの輸入に頼っており、毛利家はこの貿易船が通る瀬戸内海を押さえていました。
戦いが長期化すれば大量の硝石が必要となり、貿易船から通行税を徴収する毛利家は大きな利益を上げ続けることができるのです。
さて、家臣からの要求を無視できない村重は、信長への謀反やむなしと考え凛を尼崎へ避難させました。
そして、明智光秀が登場します。
凛が万見仙千代を通じて信長へ訴えたことが功を奏し、事情を理解した信長が、策を練るよう光秀に指示していたのです。
光秀の策は、村重と親族を一時的に避難させるとともに石山本願寺との戦いを停止し、そこに張り付けていた大軍の圧力で摂津国の領主達を再び信長側に戻そうというものでした。
第参節 離縁
万見仙千代は、ありとあらゆる偽装工作で荒木村重の親族を有岡城から脱出させ、尼崎から舟に乗せます。
しかし、その舟は不運にも毛利水軍と遭遇、更なる不運も重なって毛利家に捕まってしまいました。
この不運を知らない光秀は、信長の許可を得て石山本願寺に対峙している軍勢から兵を引き抜き、摂津国の国境の山崎へ集結させます。
石山本願寺は光秀の偽装工作を見抜けず、作戦は順調に推移していたはずでした。
村重は親族が捕まったことを知り、動揺します。
家臣達は村重へ、有岡城に戻って反織田軍の指揮を取るか、戻らなければ毛利家から指揮する者を迎えると選択を迫ってきました。
もし毛利家から指揮する者が来れば、村重の親族は殺される可能性が高くなります。
その中には、だしという名前の村重最愛の側室もいました。
村重の信頼する高山右近は、光秀の作戦を続行するよう説得しましたが、村重は有岡城に戻ることを決断、荒木一族の謀反ははっきりと決まってしまうのです。
凛を愛するようになった夫の村次は、凛を逃がそうとします。
彼は、信長と毛利家では決断力に天と地ほどの差があり、信長に謀反を起こせば荒木一族は確実に滅ぶと思っていました。
だからこそ、凛を同じ運命に合わせたくなかったのです。
しかし、夫婦の誓いを重んじる凛は逃げるのを拒否します。
凛をどうしても生かしたいと考えていたのは村次だけではありませんでした。あの織田信長もです。
光秀は村重へ離縁という非常手段を求め、村重と村次も同意します。
村次は凛に別れを告げ、荒木家から追い出したのです。
第四章 修羅
信長は、謀反を起こした摂津国の攻略に集中しようと、石山本願寺に対峙している軍勢のほとんどを振り向けようとします。
それには、石山本願寺の戦う意欲を限界まで落とす必要がありました。
そこで信長は、鉄甲船という船に鉄板を敷き詰めた秘密兵器で補給路を塞ぐという方法を使います。
毛利水軍はこれを排除できず、石山本願寺は完全に補給路を断たれました。
加えて和平の使者をこれでもかと送り、雰囲気は和平そのものとなりました。
そして信長は、5万人近い大軍で摂津国を攻めるのです。
小早川隆景はこの状況に焦ります。
そして、毛利家が有利なうちに毛利家も大軍を編成して信長へ痛打を与えようとするのです。
しかしここで、毛利家の弱点が露呈しました。
毛利家に属する領主達がそれぞれ自分の利益だけを追求し足並みが揃いません。
結果的に大軍を編成することは叶いませんでした。
隆景は、信長のように力ずくで従わせることができればと、自分の限界を知るのでした。
いよいよ、信長の摂津国攻略が開始します。
光秀は信長に、力攻めの前に高山右近と中川清秀の寝返りを提案します。
この2人が村重に謀反を思い留まらせようとした事実を凛から聞いたからです。
信長の圧力により高山右近が降伏し、万見仙千代の謀略により中川清秀や他の城も寝返り、村重のいる有岡城では逃亡兵が相次ぎます。
信長は有岡城攻めるに当たり、攻撃軍から万見仙千代を外します。
仙千代が命を捨てるのではないかと心配していたからです。
しかし、最後は攻撃に参加したいとの強い願いを聞き入れてしまいました。
仙千代は城内突入寸前まで進みましたが、荒木軍の罠にはまって討死します。
信長は仙千代を参加させたことを深く後悔し、荒木一族へ激しい憎悪を抱くのです。
この激しい憎悪は、悲惨な結果を生んでしまいました。
降伏してきた荒木一族の使者に過酷な要求を突きつけたのです。
使者はその要求通りにできず信長を恐れるあまり消息を絶ちます。
これによって荒木一族や有岡城にいた多くの人質が処刑が決まりました。
凛は、戦国の世の酷さ、そして世の中の矛盾を嘆きます。
光秀は父として、世の中の真実を教えるときがきたと感じました。
第五節 光秀の構想
凛は、その感情のままに人質を処刑した信長を責めます。
信長はそれに怒ることもなく凛へ謝罪しました。彼の共感力がそうさせたのでしょうか。
そして、凛がかつて愛していた左馬助に、凛を妻とするよう命じるのです。
光秀は凛に、世の中の真実を教え始めます。
真実を知るには背景、つまり歴史を知ることが必要でした。
まずは武士の起こりを教えます。それには米作りが深く関係していました。
さらに、日本を戦国の世にしてしまった致命的な間違いを明らかにします。
続いて、戦国の世を終わらせることのできる者は誰か、源頼朝と足利義満を例にその者が身につけておくべき特質を話します。
最後に、戦いのない世を持続させるための秘策も、凛に教えたのでした。
第六節 新しい国作り
左馬助は光秀の命令により、福智山城の築城を急ぎます。
それは福智山を何度も襲い、多くの命を奪い続けた水害から民を守るためのものでした。
光秀は、堤防代わりに城を築くという前代未聞の方法を思い付いたのです。
築城を急ぐため、凛は民に訴え、民はその熱い想いに耳を傾けます。
墓石の提供もあって短期間で城は完成したのです。
そして福智山は、丹波国の中心となったのでした。
さて、信長は正義感の強い人間です。
戦国の世が、未曾有の経済成長をもたらしたものの、その裏側では戦いに負けて搾取される多くの犠牲者を生み、持っている者は更に持ち、持たざる者は持っているわずかな物さえ奪われる異常な格差を生み続けていることを知り、激しい憤りを覚えます。
信長の正義感は、そのような世を許すことができませんでした。
光秀も同様でした。
ついに、織田信長と明智光秀の日本史上の3つの謎の一番目、信長は何を目的に誰と戦ったのかが明らかになります。
第一の敵は、国の政治を担うとの信念を忘れ、自己の利益を最優先する幕府内の者たち。
第二の敵は、都合の良いことしか幕府の命令に従わず、領主達の支持を集めるためには無用な戦いを起こし略奪も厭わない戦国大名たち。
第三の敵は、自分の利益になる者しか支持しない領主たち。
第四の敵は、戦国大名や領主達の思惑を利用して金を稼ぎ、無用な戦いを促進する商人たち。
第五の敵は、金と銀と日本人奴隷を欲しがるスペインとポルトガル。今は貿易相手だが、日本が隙を見せれば何をしてくるか分からない曲者たち。
信長は光秀の助言により、5つの敵と同時に戦わず、最も弱い敵から叩く各個撃破戦法を取ることにしたのです。
信長は第一の敵の幕府と第二の敵の戦国大名を叩き、第三の敵、領主を叩く段階に入ります。
領主をどのように叩くべきか、信長は考えました。
次には第四の敵の商人、第五の敵のスペインやポルトガルなどの南蛮諸国が控えており、彼らは恐るべき敵です。
この敵に立ち向かうには、信長自身がありとあらゆる大名と領主を従え圧倒的な力を持つ必要があると結論付けました。
そこで、領主を信長や信長が任命した者へ完全服従させるため、光秀が平定した丹波国で家臣集住という画期的な施策を試します。
これは、領主の独立と自由を完全に奪うことでもあり、領主達にとってとても受け入れられるものではありません。
そこで信長は、従わない領主の一族を抹殺し見せしめとします。
こうして丹波国の領主と武士は全て光秀に完全服従しましたが、信長や光秀に深い恨みを持つこととなりました。
これが、織田信長と明智光秀の日本史上の3つの謎の二番目、本能寺の変はなぜ起こったのかの答えの一つとなったのです。
1582年6月1日、左馬助は福智山城を出陣します。毛利家から和平の申し出があったためです。
信長は和平の条件として毛利家の領地を大幅に削減しようとし、その要求を飲まざるを得ないよう圧倒的な大軍で圧力を掛けるようとしました。
信長がそのまま九州も平定し、西日本の武士を全て従わせれば、凛の願いに一歩近づきます。
ただし、凛はその前に京で丹波の兵の閲兵をすることについて悪い予感に襲われるのでした。
毛利家から取り上げる予定の出雲国と石見国は、凛と左馬助で新しい国作りをすることになります。
左馬助は、福智山に戻ったら共に出雲と石見に旅立つことを凛に求め、それに対し凛は、付いていくと答えました。
第七節 明智家滅亡
凛の悪い予感は、的中してしまいます。
光秀はもはや引き返せないと知り、ここで織田家への謀反を決断します。
織田信長と明智光秀の日本史上の3つの謎の三番目、光秀はなぜ謀反を起こしたのかが明らかとなりました。
凛と左馬助が望む戦いのない世は、まさにこの手に掴むところにあったのに、それはこの手からこぼれ落ちてしまいました。
そして、十分な態勢が整う前にあの男がやってきます。
光秀も一目置いていた、羽柴秀吉。
秀吉は驚くべき速さで引き返し、6月11日には尼崎に着きます。
そして、官兵衛の助言を受け入れて配下の武将の反対意見を一蹴し、光秀の布陣する山崎へ進出するのです。
山崎の決戦は、光秀の敗北に終わりました。
光秀は敗北を悟ると、戦いを早く終わらせるための手を打ちます。
そして左馬助に、凛と逃げ延びるよう命じるのです。
凛と左馬助は東へ旅立ちました。
第八節 後編予告
「大罪人の娘 後編」では、さらに2人の女性が登場します。
1人目は、明智光秀の長女、玉。
凛の姉で、関ヶ原の戦いの前夜に悲劇の最期を遂げた細川ガラシャです。
2人目は、斎藤利三の娘、福。
江戸幕府三代将軍の徳川家光の乳母にして教育係を勤め、大奥を作り江戸幕府を影で操り、女帝とも呼ばれた春日局です。
そして、豊臣秀吉と徳川家康そして江戸幕府に関わる日本史上の3つの謎の新説を描きます。
一番目は、豊臣秀吉はなぜ朝鮮出兵したのかです。
朝鮮出兵は、1592年の文禄の役と、1597年の慶長の役から成ります。
朝鮮半島が戦場となりましたが、秀吉の征服対象はあくまで明であり、朝鮮半島はその通過点に過ぎません。
ではなぜ秀吉は明を征服しようとしたのでしょうか?
動機については諸説あります。
征服欲説、領地拡張欲説、国内の集権化説などありますが、一つ大事な説が抜けています。
二番目は、関ヶ原の戦いの本当の目的です。
一般的な歴史の教科書には、石田三成が豊臣政権を脅かす存在であるとして徳川家康を倒すことを目的に起こった戦いであると、書かれています。
詳しく書くと、三成は直江兼続と共謀しまず会津で上杉氏が立ち上がり、家康がこれを討ちに行くと三成は毛利氏や宇喜多氏などの反家康軍を組織し、東西から家康を挟み撃ちにする、という構想です。
結果として三成は敗北し、関ヶ原の戦いの首謀者として処刑されます。
しかし、本当に三成は首謀者だったのでしょうか?
そもそも西軍とも呼ばれますが、反家康軍の総大将は毛利氏で、副将は宇喜多氏です。
戦後、毛利氏は領地削減、秀家は領地没収となりました。なぜか総大将の罰が一番軽いのです。不自然ではないでしょうか?
結論を言うと、石田三成は西軍首謀者に仕立て上げられて処刑されたのではないかと思っています。
では、実際の首謀者は誰でしょうか?その者は何を目的に関ヶ原の戦いを起こしたのでしょうか?
三番目は、江戸幕府はなぜ鎖国したのかです。
鎖国というと、外国との関係を完全に閉ざしたように見られがちです。
しかし、江戸幕府が行った鎖国は、スペインとポルトガル人の来日と、日本人の東南アジアへの出入国を禁止したに過ぎません。
当時は清という国であった中国、朝鮮国、現在の沖縄県の琉球王国そしてオランダとの関係は閉ざしていません。
そう、極めて限定的な鎖国だったのです。むしろ鎖国という言葉自体がふさわしくないように思います。
ではなぜ、スペインとポルトガルそして東南アジアに限って関係を閉ざしたのでしょうか?
そして、「大罪人の娘 前編」の最後で東へ逃れた凛と左馬助の運命は?
いよいよ、明智光秀の理想を受け継いだ者たちが挑む、新たな戦いの幕が上がります!
「大罪人の娘 後編」を是非宜しくお願い致します。
インターバル 大罪人の娘たち 終わり