支援職は追放された。
「お前はクビだ」
彼——レイドは冒険者パーティの仲間であり、リーダーにそう告げられた。
「…なんでだ? 俺は、いつもお前たちを支えてきただろう?」
レイドは魔法で仲間を強化する、所謂支援職である。常に命の危険が付きまとう冒険者にとって、支援職の存在は大きい。当然、レイドもパーティメンバーに何度も支援魔法を使用し貢献してきたつもりだ。
「支えてきた? …ハッ」
そんなレイドの言葉をパーティリーダーであるアルレは小馬鹿にしたように笑う。同時に、レイドに向けている視線には、まだ分からないのかこの馬鹿は、という言葉が込められていた。
「冗談じゃねぇ、何が支えてるだよ。お前がいるせいで俺たちの取り分が減るし、いつまでたっても前に進めやしねぇ」
「…取り分が減るからが本音だろう?」
苛立ちを覚えながらそうレイドは言い返す。
確かに、冒険者は基本的にパーティを組んでいる場合報酬は山分けである。そうなれば当然人数が増えれば取り分は減る。二人なら二分の一。三人なら三分の一、といった風に。
「そうだな。だがそれ以上にお前のせいで俺たちは停滞している。もう一度言うが、お前の存在は邪魔だ」
「…停滞しているのは自分たちのせいだろう? 俺たちの能力じゃ、今のランクのクエストをこなすので精一杯だ。下手に上ばっかり見てると、いずれ大失敗を起こすぞ」
アルレの言葉にレイドはそう言い返す。命がかかっているなら尚のこと、慎重に行くべきだ。上昇志向も結構だがそれだけじゃあやっていけない。
「じゃあ、下ばかり見ろってか? ざけんな。俺たちは更に上を目指す。その為に——」
「邪魔な俺を切ろう、ってことか」
アルレの言葉を遮って言ったレイドの言葉に、アルレは二っと笑う。
「分かってんじゃん。そういうことだ」
そう言ってアルレは小さな革袋を取り出しレイドに放る。
「手切れ金だ。感謝しろよ」
革袋の中身を軽く見て、レイドは顔をしかめた。
「感謝? 今まで一緒にやって来た仲間をあっさり切り捨てといてよくも言う…」
そう言ってレイドは背を向けてパーティの拠点の出口に向かって歩き出す。
こんなことをする連中なんて知るか。そんな思いを胸に抱いて扉に手を掛けたところで——
「忠告しといてやるがよ。お前、才能ないぜ。冒険者やめて田舎に帰るこった」
そんな言葉が届いた。
だが、その言葉をあえて聞かないふりをしてレイドはそのまま拠点を出ていく。もう、振り向くことはなかった。
それからは早かった。
レイドは以前から自身に興味を抱いていたパーティの要請を受けてそのパーティに入った。
レイドの使う支援魔法により、新しいパーティは一気に躍進を果たすのである。
自身を心から信用してくれる、新しい…真の仲間に支え支えられ、レイドはさらなる成長を遂げていく。
一方で、レイドを追放したかつてのパーティは完全に落ちぶれた。レイドの支援魔法が無いにも関わらず、以前より難しいクエストを受けて大失敗。自分たちの失敗を認められない彼らは素行も悪くなり、ついにはパーティランクも落ち始め…ついにはとあるクエストでモンスターに全滅させられることとなる。
しかし、その事をレイドは聞いても特に何とも思わなかった。なぜなら彼には今、最高の仲間がいるのだから。
と、よくある三文小説ならこういう展開になるのだろう。
だがしかし、これは現実である。
レイドをクビにしたアルレたちはまず、ギルドを利用して新たな支援職を募集した。その間、収入が途絶えないようにも注意をした。
アルレは駆け出しの冒険者に冒険者のいろはを教える教官のバイト。
パーティメンバーの魔法使いであるミーナは魔法で生成したマジックアイテムの販売。
同じくパーティメンバーであり、戦士であるギドはその腕っぷしを使っ土木建築のバイト。
そしてレンジャーであるライアは趣味の賭博でチョコチョコ稼ぐ。
そんな感じの日々を送って一週間。ついに待ち望んだ支援職の応募をあった。
ギルドを介して直接会い、人格面能力面ともに問題なしと判断し、新たな支援職を迎え入れた。
その後は手堅く達成できるクエストを受注し、支援職の能力を現地で確認。問題違和感ともに無いことを確認すると、アルレたちは更にクエストを受注する。
新たな支援職の支援魔法は、アルレたちに躍進を齎した。
そう間を置かず、彼らのパーティのランクはCからBに昇級。更にその上のAランクもそう遠くはないと期待される程の活躍をし、Aランクへの昇格は世界記録を塗り替えるほどの速度だったという。
気が付けば、ギルドにおいて彼らのことを知らないものはいない、と言っていいほどになった。
さて、一方のレイドはというと…
結論だけ言えば落ちぶれていた。
最初はアルレ以外の支援職の募集をしていたパーティに入団しようとしたものの、能力面が非常に劣るとして入団を拒否されてしまったのだ。それも、一つや二つではない。
遂にはレイドは名指しで入団拒否をされてしまったのである。
こうなってしまえばどこのパーティにも所属することはできない。
更にレイドは支援職であるため、単独でクエストをこなすのも難しい。レイドのような支援職にとっては、仲間こそが武器であり防具なのだ。さすがに武器も防具も無しにクエストを受注するのはまずいということは分かる。
しかし、そうなるとレイドは収入が無くなる。何か冒険者以外の仕事をすれば解決しそうだが、パーティをクビになったことで内心冒険者としてあいつらを見返したいという気持ちがあり、そのせいで無意識に冒険者以外の仕事をするのを嫌がったのだ。
レイドがそもそもパーティをクビになったのは簡単に言ってしまえば支援魔法の弱さである。
支援魔法は冒険者の能力を向上させるものだ。筋力を上げる、敏捷を上げる、魔法の攻撃力を上げるなど、様々な効果をもたらす。
だが、レイドの支援魔法はとてつもなく効果が薄いのだ。
例えば筋力アップの支援魔法をかけるとする。その際、普通の支援職の使う支援魔法なら筋力をほぼ倍近くにまで上昇させる。数字で表せば50が100になる。練度が高ければ、三倍にも四倍にもなる。
しかし、レイドが同じことをした場合50が51になる程度。下手をすれば50.5にしかならない。
それ故に、アルレのパーティも募集をしていたパーティも有っても無くても変わらないなら無い方がいい、という結果になったのだ。
もともと、アルレ達も最初はレイドの支援魔法が弱い…弱すぎなことに気が付いてなかった。
支援魔法という言葉に対するイメージから、まぁこんなものなんだろう程度に思っていたのだ。
それでも支援職であるレイドの支援魔法があるから自分たちは苦労しながらもやっていけている。そう思っていた。
しかし、パーティランクがDに上がり、とある合同クエストで彼らは知ってしまったのだ。本当の支援魔法というものを。
その合同クエストの最中、アルレたちはレイドの掛けた支援魔法が切れてしまったのだ。レイドに再びかけてもらおうと思ったが、モンスターとの戦闘のゴタゴタが原因でレイドと逸れてしまったのだ。
その時、偶々その場に居合わせた他のパーティの支援職に支援魔法をかけてもらったのだ。
その結果、アルレたちは先ほどまで苦戦を強いられた相手を難なく倒したのだ。え、ちょ、なんだこれ?と言いたくなるほどに。
その合同クエストが終わった後で、アルレたちはレイドを除いた形でその時支援魔法をかけてくれた支援職のパーティにお礼を言うついでにあの時、自分たちに掛けてくれた支援魔法のことを聞いたのだ。何かコツがあるのでは、特別なアイテムでもつかっているのでは、そう当たりをつけて。
しかし、結果はどれもハズレ。返って来た答えは支援魔法はあれが普通、であった。
それを聞いてアルレたちは考える。じゃあ、レイドの支援魔法は何なんだ? と。レイドが手を抜いていることも考えたが支援職にとって仲間は武器であり防具である。命の危険がある冒険者業でそんなことをするメリットは何もない。それこそ自殺志願者でもない限り。
そこから導き出される答えはただ一つ。レイドの支援魔法はとてつもなく弱い、というものだ。
それを理解してしまえば、あとは早かった。レイドに対する感謝も無くなり、寧ろこいつの支援魔法の弱さのせいで自分たちはこんなに苦労していたのか、という苛立ちと怒りに変わった。その結果があの追放劇である。
アルレがレイドに行った最後の言葉は、せめてもの情けであり、忠告だったのだ。
そうとも知らないレイドはうだつが上がらない日々を送り続ける。いつか自分は見返せる、成り上がれる。そんな幻想を抱きながら。
追放ものっていつも追放する側が悪いですけど、こんな風に追放される側が悪い場合もあるよな、って思って書きました。