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プロローグ・二人の未来

新連載開始します。

よろしくお願いします!

 ここは、王国の貴族の子女が通う学校、ルヴェイラ学院。

 十三歳から十六歳までの子女は、王都にある建国より続くこの学院で、学問に励み人脈を築く。

 まさに今、この学院の卒業パーティーが大広間で開かれている。

 国王と王妃も来賓として招かれているこのパーティーは、学生達も制服を脱いで華やかなドレスや正装を身に纏っている。

 そんな華やかなはずの会場が、バルニエ侯爵令嬢である私、リュシエンヌが入場した瞬間、シンと静まり返った。中央には最愛の婚約者と、その取り巻きと、一人の女性の姿。参加者の皆が私と彼らを見ている。


 私の評判と言えば、金の髪に紫の瞳を持つ美しい令嬢、らしい。

 今日は父がオートクチュールでオーダーメイドさせてくれたお陰で、最高の悪役令嬢らしいドレスだ。華やかに薔薇の生花をあしらった深紅のドレスに、大粒のアメジストで揃えた装飾品を身につけている私の姿は、恋愛小説の悪役令嬢そのものだ。

 ……それにしても、どうして悪役令嬢って大抵赤いドレスなのかしらっ! 私、赤ってあまり似合わないのよね……。

 とはいえその意匠や宝石の大きさから、バルニエ侯爵家の権力が分かることが大切だ。

 悪役令嬢は、権力のある家の娘で、かつ誰もが憧れる男性の婚約者でなければならないのだ。



 バルニエ侯爵家はこの王国で建国以来侯爵であり続けていて、私の父は王国の宰相を務めている。王家とその血族の貴族を除けば、王国で一、二を争う有力貴族だ。

 そして私の婚約者は、王太子である第一王子。権力、財産、知性、美貌──私を除いてこの王国で完璧な悪役令嬢が務められる人間など、いるはずがない。だって、子供の頃から将来は王妃となるべく教育を受けてきたのだもの。


「リュシエンヌ様には、人前で私を辱めようと言動を非難されたり、殿下とダンスをした後で嫌味を言われたり……。それに、先日には! 私を階段から突き落とそうとしました! そんな女、殿下の婚約者には相応しくありません!」


 悲劇のヒロインよろしく人々の視線を集め、はらはらと涙を流しながら私を指差している桃色のドレスの令嬢は、オデット・ラマディエ男爵令嬢だ。

 彼女は光が当たると独特の桃色に光る銀髪を振り乱し、夕暮れ色の瞳で私を睨んだ。

 ジョエル殿下は自分に縋り付いているオデット様を困惑の瞳で眺めている。


「あらあら、オデット様。弱い犬ほど良く吠えると言うんですのよ?」


 私は扇で口元を隠し、ふふふと笑った。この騒ぎの当事者の一人であるはずのジョエル殿下はこの私の言葉にどう反応してくれるかしら? 考えると楽しくなってくる。


「リュシエンヌ嬢、流石にそれは言い過ぎではないか?」


「そうです。オデット嬢が可哀想ではないですか!」


 先に私に文句を言ってきたのは、殿下ではなくその取り巻きの公爵子息と騎士見習いだった。

 そうそう。そうでなくっちゃ。

 そして、殿下が決め手になるあの言葉を言うのよ!


「リュシエンヌ。お前にはがっかりだ」


 さぁ、続けて! あの台詞を! 王道恋愛小説のヒーローの名台詞! 生で聞ける幸せったらないわ。まして、最愛の彼のものならより素晴らしい!


「貴女との婚約を、白紙に──」




   ◇ ◇ ◇




 元々、私がこの作戦を思い付いたのは、大好きな恋愛小説を読んでいるときだった。

 恋愛小説では、素敵な王子様が、身分が離れていても可愛らしい令嬢と──大抵は実は有力貴族の隠し子だったり王族だったりするのだが──真実の恋に落ち、権力を笠に着ている元々の婚約者と婚約破棄をするのだ。

 なんて素敵なロマンスかしら。


 だからこそ、初めてオデット様を知った時には、素晴らしい逸材であると感服したわ。

 最終学年が始まった時期に転校してきた彼女は、平民に育てられながら、その美しさによって領主である男爵に養子に出されたという。

 しかし彼女は──学院では誰も気付いていないらしいが──この国の王族に稀に表れる、光が当たると独特の桃色に見える銀の髪を持っていたのだ。もしかして王族の誰かの御落胤だったりするのかしら……。

 私は、彼女こそ正に恋愛小説の主人公に相応しいと思った。

 そして愛する婚約者であるジョエル殿下こそが、そのヒーローに相応しいと。

 だって殿下は本当に素敵だもの。彼は物語のヒーローとして最高だわ。だって、髪は輝くプラチナブロンドで、サファイアブルーの瞳なんて、本当に物語の中の王子様じゃない!

 私が悪役令嬢としての汚名を流せばきっと物語のように、ジョエル殿下は真実に愛する(であろう)令嬢であるオデット様と、末永く幸せに暮らしました。めでたしめでたし──と、なるはずだ。


 バルニエ侯爵家は私の婚約がなくなったくらいで傾くような家ではないし、心配ないだろう。

 とりあえず私の処遇は置いておいて、愛するジョエル殿下には幸せな結婚生活を送って欲しい。

 そうして私は、この夢のない現実世界で、最高の恋愛小説を完結させるのだ。

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