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異世界に転生したら世界を救う旅に出ることになった件  作者: ながもん
序章 異世界に転生することになりました
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第2話 騎士の少女

「――神聖眼」


神聖眼、かつて俺がとある事件から開眼した、神の持っていたと言われる特殊な能力を宿した瞳。


「それは神代の伝説を継ぐ資格を持ちし者にのみ、開眼を許された瞳。私と同じ眼を持つあなたたちなら、鍵の場所をきっと見つけることができます」


女王の瞳がスーっと通常の青色へと戻る。


「私がかつての継承権を持っていただけの一王族だったころなら、自身が旅に出ることも可能でした。しかし女王という立場になった私が、国を長らく留守にすることはあってはならないこと。……それに、仮に私が国を離れられたとしても、私の神聖眼は成長に失敗した欠陥品。人より少しいいだけの眼に過ぎません。……頼めるのはあなたたちしかいないのです」


「……女王陛下、確かに俺は神聖眼を持っています。ですがまだ未熟で、自分の意志で能力を発動させることすらままなりません」


「私も、陛下が期待されるような神聖眼の使い手ではありません。私の師である騎士リンドウや騎士長ペリノア様の足元にも……」


「誰も、最初から彼らと同等の活躍ができるとは考えていません。ですが、あなたたちならきっと、旅を通じて、ラウンズをも超えるような立派な聖星騎士になれるはずです。……どうか、世界を救う大役を請け負っていただけないですか」


女王は玉座から立ち上がり、深々と頭を下げる。


「陛下、そこまでなされなくても!!」


「いいえイズナ。私は今、若く希望溢れたあなたたちに、何年かかるかもわからないお願いをしているのです。これくらい、当然のこと」


女王が頭を下げるのは思ってもいなかった。女王の人がいいというのは話でも聞いていたが、ここまでされるというのは完全に予想外だった。


「――わかりました。俺でいいと言うなら、その大役、受けさせてもらいます」


――日本にいる頃や転生した直後にこの依頼を受けたのなら俺は絶対にノーと答えただろう。


だが、記憶を失っているとはいえ十数年後の間は、純粋にこの国の一国民として育ってきたし、俺が断れば近いうちに世界が滅びるのが本当なら、どの道何とかしなければならない。


――もしかしたら、俺が転生したのもこのためなのかもしれない。


……まるでRPGの勇者だな


「……なら、私も同じく受けさせてもらいます」


それに、セルカのような絶世の美女と旅できるなんて、役得だしな。


「ありがとう、ふたりとも。では情報が入りましたらサクヤを通じて伝えます。それまでは普段通り、過ごしてもらって大丈夫ですよ」




「――あなた、神聖眼を持っているって本当なの?」


兵士たちに見送られ城を後にし、近くの喫茶店でセルカと昼食を取る。俺の予想では城を出た後は期日までお別れだと思っていたが、意外にも彼女は俺の昼食の提案に同意して付き合ってくれた。


「ああ。子供の頃に開眼したみたいなんだけど、その時の記憶が残ってないんだ。今でも自分の意志でオンオフができないし……」


神聖眼は俺が子供の頃、近くの森でモンスターに襲われた時に開眼したのだが、何故かその時の前後の記憶が抜け落ちており一切記憶に残っていないのだ。憶えているのは気がついたら目の前にモンスターが倒れていたことだけ。その後、爺さんに神聖眼のことについて教えてもらい、日々の訓練の一環に神聖眼のコントロールを追加し修行を始めた……のだが、結局今でも全然うまくいっていない。


「つまり、選ばれた瞳を持っているけど、実態は未熟中の未熟と」


「確かに神聖眼の扱いは未熟だと思うけど、エルベスとしてならそれなりに自信はあるぞ」


「ま、私もあの眼に関してはあまり人のこと言えないんだけどね」


「お待たせいたしました。」


ちょうどそこに、俺たちが注文したケーキと紅茶が運ばれてくる。セルカは運ばれてきた紅茶を優雅に嗜み、ケーキをすくう。まるで貴族のティータイムのように映える光景だ。


「でも意外だったよ。君がこうして昼食に付き合ってくれるなんてさ」


「それ、どういう意味よ?」


「ほら、直接言うのも失礼かもしれないけど、君ってギルドだと人を避けているだろ?」


セルカはケーキを食べる手を止め、少しの間俺の方を見つめる。


――やっちまった


さらっとあまりにストレートに失礼なことを言ってしまったので、セルカの視線の圧が気まずくなった俺は、冷汗を垂らしながら視線をチラチラ逸らす。そしてしばしの間の後、セルカは再びケーキを食べ始めた。


「あなた、その問い失礼極まりないでしょ」


「……すみません、自覚しています」


少女はムッとした顔でこちらへしばらく見た後、大きなため息をつき、またケーキを口に入れた。


「まあいいわ。私自身がそう見られるような行動をしているんだし、これはこれで成功ってことよね」


「どういうことだよ?」


「そっちのほうがエルベスとして活動するのに都合がいいだけ。あなたは気にしなくていいわ」


ケーキを食べ終わったセルカは残った紅茶を口にすする。


「ほら、あなたも早く食べちゃいなさい。お昼時なんだから、長居しちゃお店に迷惑でしょ」


入口の方を見てみると、既に入店街の若い女性たちが十数メートルほどの列をなしていた。


「ここ、お城の前ってことで王族のようなリッチな気分になれるらしく、近頃若い娘たちのブームになっているの。私たちは運よく並ばず入れたけど、あと10分遅かったらそうはいかなかったわね」


「確かにそうだな」


まあ、俺も前世の頃から喫茶店やファミレスで長居するのが趣味ではなかったので、さっとケーキを口に入れる。しいて残念なことを挙げるとするなら、絶世の美女であるセルカとのお茶タイムをすんなりと終わらせてしまうことだが。


「うん、うまい」


ケーキと紅茶を平らげ、会計をすまして店を出る。


「……さすが一等地の人気喫茶店、それなりの値がしたな」


無造作にこの店に入ったことを若干後悔しつつ、今後の予定をセルカに尋ねる。


「セルカ、この後はどうする?」


「……どうするって、このまま解散する気だけど」


「解散って、まだ今後の方針のこと何も決めてないぞ」


――やはりお開きか。


建前上はああいったが、内心では彼女ともう少し一緒にいたいというのが本音である。むしろ男ならこのレベルの美女をおいそれと手放すとはまず言わないだろう。


「それなら、明日の朝一でエルベスのギルド本部に来て。あなたが私と共に陛下の依頼を受けるに値するか、腕試しをさせてもらうから」


「腕試し?」


「そ。私とパーティを組んで、モンスター退治に行くの。何を倒しに行くかは決めてはいないけど、それなりの相手をチョイスさせてもらうから覚悟はしておいてよね」


「……ていうか、えらく上から目線なんだな」


美人の多少の口の悪さくらいなら我慢できるが、さすがに同い年の少女にこうも見下されては俺にもプライドというものがある。


「さっきも言ったけど、俺だってエルベスとしてならそれなりの腕のプライドはある。そこまで見下すのは失礼だと思うけど?」


俺の問いを聞いた少女は少し驚いたような様子を見せたが、その表情はすぐに落ち着いてどこか客観したようなものへと変化した。


「だって当然でしょ。あなたと私では、圧倒的に私の方が強いもの」


――なっ!?


「じゃ、明日の朝また会いましょ。足を引っ張ることの無いよう、しっかり準備してきてね」


セルカは手を振ると体を翻し、人混みの中へ消えていった。


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