◇白い監獄
近くで救急車のサイレンの音がする。
雪が降っているのに体が熱い。
酒の所為かな。
なんか騒がしいし、誰か事故ったのかなぁ。
あぁ、もう眠いんだから静かにしてよ。
…ねぇ、寿夫。
―――ピッピッピッピ……
真っ白な部屋。蛍光灯がぼんやり見える。
なんか視界が狭い。
鼻の辺りに何か透明なプラスチックがあって邪魔なんだけど。
なんか気になる。
取ろうとするんだけど、なんか上手く触れない。
なんだこれ。
「ちょっと、取っちゃ駄目だよ。」
野太い男性の声が手を握った。
寿夫にしちゃ太くてごつい指。誰だろう。
見ようとしても首が動かない。
なんだこれ、どうなってるの?
そう思っていると、上から手の主が覗き込んできた。
「意識はハッキリしてる? 自分の名前言ってごらん。」
何いってんのこいつ。
ちょっとイラッとする。
「……優子。」
名前を言うと、熊沢はにっこりと笑った。
「うん、大丈夫そうだね。体痛いところはない? まぁ、麻酔効いてるから大丈夫だとは思うけど。」
麻酔……、その言葉で段々と記憶が蘇ってきた。
血が通うように記憶が戻ると、体が熱くなる。
あぁ、あの夢の中のサイレンは本物だったんだ。
色々思うこと、聞きたいことが多すぎて軽いパニックになったが、最初に聞いたことは
「寿夫は…?」
だった。
「寿夫…。あぁ、バイクを運転してた彼ね。」
医者はカルテを見ながらうんうん、と頷いた。
「まぁ、なんとか一命は…って感じかな。彼も一応安定してるから、今は自分の事を考えなさい。」
良かったと心から思ってしまった。
だけど、次第にハッキリしてくると無性に腹が立った。
元はと言えばあいつの飲酒運転が原因じゃない。
次あったら顔面殴ってやる。
医者は熊沢といった。その名の通りゴツかった。
「飲酒運転が駄目なのは当たり前だけど、それに乗ってしまった君も同罪だから。まぁ、因果応報とは言うけど、君たちは償いきれない程の事をしてしまったんだ。怪我が治ってからは一生反省して生きることになるが、今はゆっくり休みなさい。」
犯罪歴がつくことだろうか。
これだけの事になったんだから当たり前。
だけど、熊沢の言葉は正論すぎて何かむかついた。
はぁ……。寿夫に会いたい。
その後、熊沢は怪我の具合を説明すると足早に去っていった。
全身、衝撃でバイクから降り飛ばされた衝撃で打撲多数。
右前腕の橈骨、尺骨骨折。
胸部打撲による、肋骨骨折。
――脊髄損傷。
まぁ、接触した時の衝撃で吹き飛んだから割と軽めで済んだねと熊沢は言っていた。
って、脊髄ってやばいんじゃないの…?
てか、私がこれで軽めって寿夫どうなってるの…
息が荒くなって、無機質な風景が動いて見えた。




