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雪の降る夜

 夜はレストラン。…なんてオシャレなことは望んでないけど…。

 寿夫が焼き鳥が食べたいと言うので、居酒屋に入った。

 せっかくのデートなんだから、ご飯くらいはちょっといい感じの店行きたい!

 そんな事言い出せずに、和風のご座敷に不満はあるものの、ちんまりと座る。

 運転があるからお酒は駄目と言うと分かったと言いながら、ハイボールを頼んだ。


 「ちょ、ちょっと。バイクどうすんのよ。」


 あ~? と寿夫は返事した。


 「まぁ、ちょっとだったら良くね。やばそうだったら置いてお前んち行くよ。」

 「…まぁ、でも。呑むなら泊まってね。」


 わかったわかったと寿夫は言った。

 

 寿夫は慣れた感じで串を頼み、お前も頼めよと言わんばかりにメニュー表を渡してきた。

 ぶっちゃけ焼き鳥屋のメニューなんかほとんど意味分かんない。

 砂肝とカシオレだけ追加で頼むと店員はにこやかに去っていった。


 「砂肝か~渋いね。」

 「そうなの?」


 先に酒が届いたので、二人で乾杯。

 なんか、酒のんだ時にくぅ~とやるのかっこいい。

 先に焼き鳥が何本か届いた。

 砂肝あるじゃん!

 焼き鳥の部位はよくわからないけど、砂肝は美味しい。

 砂肝をひたすら食べていると酔った寿夫は笑い出した。


 「やっぱ優子、お前面白いな」

 「え? なんで。」

 「なんつーかこだわり強いっていうのか、好きなものばっかり食うじゃん。服もそう、なんか一辺倒だよな。悪くねーけど。」


 ちょっとチクっとくる。もしかして悪口?


 「え、変? でも好きな物って好きじゃん。ちょっと好きなのもあるけどさ、好きなものだけ食べ続けられるならそれが一番じゃない?」


 酒のせいかずっと笑顔だ。


 「よくわからんけど、飽きないの?」

 「飽きないから好きなんだよ。あんただって雨でも乗ってくるくらいバイク好きじゃない。」

 なんか言ってて恥ずかしくなる。

 「確かになぁ。お前の好きってそういう感じなのか~。」


 店員さんが焼き鳥を持ってきた。盛り合わせと砂肝三本。

 ハイボールも届いて気持ちのいい飲みっぷりだが、既に六杯目。

 今日は泊まりだな、と思ったら寿夫がじっと目を見てきた。

 酔ってるからちゃんと開いてないけど、じーっと見てくる。恥ずかしい。


 「優子にとって、俺は砂肝なのかな。」

 「え?」

 「一生好きでいてくれんのかなって。ちょっと思った。」


 一瞬で顔が赤くなった。


 「ちょ、はぁ? 急に何言ってんの? え?」

 「で、どうなの?俺、砂肝になれる? 色黒だし丁度いいっしょ。」

 「…馬鹿。」


 ゲラゲラと寿夫は笑っていたが、内心嬉しさと恥ずかしさでぐちゃぐちゃになった。

 でも、なんかいいな。

 寿夫の笑顔ってなんか温かい。

 スピード結婚とか馬鹿にしてたけど、何か今はちょっと分かる気がする。

 ちょっと機嫌が良くなって、もうやめようと思いつつ、ついお酒を頼んでしまった。

 

 「まぁ、俺は優子なら一生愛せるけどな。」


 居酒屋を出て、雨だったそれは雪に変わっていた。

 なんか私の気分みたいな天気。


 ロマンチック。


 ちょっと嬉しくなって、寿夫の腕に手を回した。

 酔っ払った彼は少しよろめいたが、へへっと笑っている。

 タクシーで帰ろうと道路際に出ると、寿夫はちょっと待っててと言った。

 なんだろう。お酒のせいかあまり深く考えない。


 暫くして戻ってくると、バイクを押していた。


 「おまえんちまで近いからぱぱっと行こうぜ。」

 

 え? 正気?


 「いやいや、お酒飲んでるし。駄目だよ。」


 「すぐそこだろ。雪も降ってるから捕まんねえよ。」


 「いやいや…。馬鹿でしょ。絶対乗らないから。」


 こんな馬鹿は置いて帰ろうと思ったが、エンジンを付け早くしろよと言わんばかりに待つ寿夫。

 いや、駄目でしょ。

 

 …。

 

 またがって無言で待つ寿夫。


 いや、うーん…。


 普段なら絶対にありえないんだけど、なんかその場の雰囲気で乗ってしまった。

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