◇プロローグ
その日は起きると真っ暗で、雨がザーザーと降っていた。
体は思いし、だるい。
布団でうだうだしてからゆっくりと起き、リビングのソファに腰掛ける。
あ~、頭痛い。
テーブルの上には昨日呑んだ酒の空き缶と、ポテチの袋が散らかっていた。
「今日はちょっとやる気がでないんですけど……。」
誰もいない部屋で一人文句を言う。
今日は夕方から彼氏の寿夫とデートする予定だ。
ソファの上で暫くゴロゴロしてからシャワーを浴びて、服選び。
秋だし雨だし、絶対寒いよね。
上は適当なシャツを選び、中にヒートテックを着込む。
スカートだけど、下もヒートテックを履く。
うん、完全防備。
だんだんとテンションが上がってきたので、化粧は結構気合が入った。
扉を開けて後悔する。
少し出ただけでめちゃくちゃ寒いじゃん。
とはいえ、準備しちゃったし、待たせたら悪いし。
傘をさして大通りに向かい、タクシーを拾う。
程なくして一台、ハザードを焚いて止まった。
「星雲駅まで。」
「あいよ~」
走り出してすぐの赤信号。ここ長いんだよな…。
流れが悪いなぁと思いながらスマホを見ると、メッセージが五件もきていた。
開いてみると、三件は電子タバコの広告。あと二件は寿夫だった。
『寿夫:わりー。すげー雨で遅れるわ。』
『寿夫:あれ、まだ寝てる系?』
間隔は三分しか空いてないのに、相変わらず忙しい男だ。
『もう着いてるよ! 怒』
『じゃあ、先にコーヒー飲んでるね 怒』
ちょっと嘘を付く。
寿夫はバイクが好きで、移動は全てバイク。
隙あらばデート中でも私を放置してバイクを見に行く。バイク馬鹿。
この雨でもバイクで来るのだから、その根性は凄いと思う。
窓の外の灰色の別世界をぼーっと眺めていると、すぐに返信はきた。
運転中だろうに早いな。
『寿夫:マジ? すぐ行くから俺のも頼んでおいて。』
既読だけ付けて閉じる。
信号は変わり、雨音はエンジン音に変わり、発車した。
『ブラック2つ、店内で。』
寿夫の言う通り、コーヒーを二つ頼み、窓際の席で待つ。
入り口は割と頻繁に開くので、足元は少し肌寒い。
外見てるだけでテンション下がるなぁ。
気付け代わりにブラックを啜った。
結構急いだのだろう。
あれから寿夫は五分ほどで到着した。
窓の外で水たまりを踏まないようにステップを踏む寿夫は馬鹿らしい。
「わりー、またせたよな。いやー、寒い。」
ガラッと扉を入ってきた寿夫はびしょ濡れで、顔は赤くなっている。
「あはは…」
私は急いで席を立ち、そのまま腕を引っ張り連れ出した。
ちょっとちょっと、と寿夫は言っていたがこんな格好で店員に迷惑をかけるのは嫌だ。
引っ張りながら、向かいのショッピングモールへ向かう。
こんなびしょ濡れで入れられないよ。
入り口について、ハンカチで寿夫を拭いていく。
「優子、お前めっちゃ良いやつだな。」
何も言わずに拭いていると、寿夫はそっと抱きしめてきた。
つか、まだめっちゃ水ついてるからやめてほしいんだけど!
嬉しいんだけどさ。
両手で押しのけて、手を繋ぐ。
「もう、こんな日くらいバイクやめたら?」
「いや、最高っしょ。スピード出すと雨気持ちいいし。」
子供のように笑う。
なんでこんな馬鹿を、と思ったが。
私はこんな馬鹿なところを好きになったんだろうなと思った。
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