saygoodbye &goodday
予定より遅れてしまいすいませんでした。
Twitterのほうに情報だしてますので、そちらも御覧ください。
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満さんは思ったより見舞いにきた。
週に三回程来ては他愛のない話をする。
「でさ、自称漫画通のじじいに何が好きですかって聞いたら、最近はゆるキャンが好きだっていうのよ。笑っちゃってさー、めちゃくちゃ趣味いいじゃんって。」
「50超えてゆるキャンはすげーな。」
週イチくらいで真面目な話をちょこっとするだけで、後はしょーもない話をして帰っていく。まぁ、話し相手はいないから有り難いんだけど。
姉はあれから一度も来てない。
仕事大変だろうから、別になんとも思わないし、来てもらう立場上、無理に来られてもなんか申し訳ないしこれでいい。
「じゃあ、ヴィンランド・サガを全巻置いていくから、来週までには読んでおいてね。」
笑いながら去っていった。
このパワフルさは体が元気になってもかなわないな。
暫く漫画を読んでいると、三星がやってきた。
「おーす! エロ本読んでるか?」
よっと手振りをしてこっちも元気だな。
「今日はエロ本じゃないよ。ほら。」
満さんから借りた本の表紙を見せた。
「お、ヴィンランド・サガじゃん。いい趣味してんね~。」
「満さんからの借り物だけどな。」
満さんと言ったところで、話してる最中感じた違和感を思い出した。
中庭で、三星さんを知ってる様子だった満さんの目を。
名前を出して三星の顔をみたけど、特に変わりなかった。
思い過ごしか。
「あいつ結構いい漫画読むんだね! じゃあ今度、私も持ってきてあげるよ。」
「おー…。」
三星の読む漫画か。癖強そうだな。
「何その反応。言っとくけど漫画は結構うるさいからね。」
「期待してます…。」
まぁ、センスは良さそうだからな。
「幹くんはどういうのが好きなの?」
うーん、面白ければ何でも読むけど、それだと選びづらいよな。
「そうだなぁ。一番ハマったのはバガボンドかな。ああいうの好き。」
「なるほどぉ…。」
珍しく真面目にメモを取る。
その労力を仕事に向けてほしい。
「オケー。じゃあ、明日持ってきてあげるよ。」
「期待してます…。」
それから特に仕事をする様子ではなく、やっぱり部屋でだらだらしている。
これで性格悪ければチクッてるけど、居心地は悪くないからいいか。
うんうん、と声を上げながら快楽天を読んでた三星は急に本を閉じて立ち上がった。
「ふー、満足。ちょっと運動しよっか。」
ドキッとした。
まさか快楽天的な運動ですか?
え、まさか。本当にナースとそういう事ってあるの?
「う、運動ですか…?」
「うん、本ばっか読んでたからスッキリしたいっしょ?」
ごく…。
覚悟を決めよう。据え膳食わぬはってやつだ。
「じゃあ、お願いしてもいいですか…?」
「オケー!」
言うまでもなくそういうものではなかった。
「もはや、三星さんと中庭来るのは日課ですね。」
「ここ以外にいくとこないじゃん。ロビーでテレビでも見る?」
待合スペースまで行けばテレビはある。
だが、日中は大体老人が占拠してるので、ほぼNHKか昼のワイドショー。
そんなの見てると逆に病気になりそうだ。
「いや、ここのほうがいいな。」
気が病むようなニュース番組も、気が滅入るような教養番組も今はいらない。
それならここで三星と花でも見ながら話している方がよっぽど有意義だ。
「今日も綺麗だね、三星さん。」
「へっ!?」
「花のことだけど…。」
「ベタだね~、幹くん。ちょっとドキッとしたけど。」
最初に見た時はスタイルにしか目が行かなかったけど、顔立ちも綺麗というより可愛らしいし、何より性格が明るくて一緒にいると元気になる。
特にこういう状況で気が滅入ってるってのもあるのかもな。弱ってる時にこのポジティブさは素直に憧れるし、いいなと思ってしまう。
「そういえば、三星さんって結婚してるんですか?」
「ん? してないけどする?」
「いや、結構です。」
「そっか。あぁでも、子供はいるよ。男の子。」
へぇ……
「えっ?」
「三歳の男の子が一人、可愛いんだよぉ。」
スマホには確かに可愛い子どもの画像が…。
「って、三星さん何歳なんですか?」
「えへへ、今年で19。最近よく年齢聞かれるわ~。」
「…。」
この童顔。仕事もしてるし二十歳は越えてると思ったが、まだ18歳とは…
やっぱり色んな所で年齢確認されてるんだな。俺がコンビニ店員だとしたら分かってても毎回聞くと思う。
「あれ、じゃあ一人で育ててるんですか?」
「うん、この病院、託児所ついてるから何とかやってけてるわー。去年までは託児所にも預けられないから、もうカツカツで大変だったんだよ!」
「サボってるから結構暇なんだと思ってました。」
三星はべーと舌をだした。
旦那のこととかも聞きたかったけど、流石に踏み込みすぎだろうし、やっぱ人って皆いろいろ抱えてるんだな。
それでもやっぱり、この元気な姿は凄いなと再三思った。
「あ、ちょっとまっててね。」
三星は何かを見つけたように走り出した。
「優子ちゃーん!」
俺も気になってそちらを見る。遠くからでも誰がいるのかよく分かった。
あぁ、いつものピンクの人か。
遠くてよくは見えないが、この前見たときよりはだいぶ元気になったようで、三星とわちゃわちゃしている。
程なくして、三星は優子という子を連れてこっちへ戻ってきた。
「じゃーん、飢える若者よ。私の友達を紹介してあげよう!」
「…ゆ、優子です。こんにちは。」
前からここで何度かみた彼女は、少し顔を赤らめて、恥ずかしそうに上目遣いをした。
ぼさぼさの髪が目につくけど、やっぱり鼻筋が綺麗で、上目遣いでも目の大きさがハッキリとわかる。
「ど、どうも。椿です…。」
これが童貞の精一杯の返事だった。