クレーデレ
夕日が射し込む教室に、二人の男女がいた。
「信じてっ! 恭、私じゃないの…… 私じゃない!」
恭と呼ばれた男子は目を見開いている。
普段の彼女からは想像もできない、声の大きさや表情、焦燥に駆られる姿を見て、驚愕しているようだ。
状況が掴めていない恭は一歩、後ずさると彼女は俯いた。
拒絶されたと思ったのだろう。小さな笑い声を上げる。
どこかのネジが外れたように不気味に笑う姿は、恭にとって恐怖でしかなかった。
だが、このままでは話も進まず、彼女が何の疑念を晴らそうとしているのか、わからない。
まずは彼女を落ち着かせるために恭は優しく微笑み、話しかけた。
「美結、落ち着いて話をしよう? 大丈夫、ゆっくりでいいから」
「え、でもっ早く、違うって、わかってもらわないと」
「俺はわかってるから、だいじょ……」
「わかってないっ!! ちゃんとわかってたらっ、恭あんなこと言わない……」
大丈夫の言葉は彼女の怒号で遮られ、萎縮してしまった。
恭の微笑みが堅くなり、自身も怖気づいてしまう。
静寂が場を支配する。
彼女は焦点の定まっていない瞳を右往左往していた。
恭は困惑と恐怖に押し負けそうになるが、彼は決して屈しなかった。
彼を支えるのは、彼女への想いと自身への怒り。
心優しく、穏やかな彼女は分け隔てなく接してくれるため、みんなから好かれている。
そんな彼女が時折、自分にだけ浮かべる照れた笑顔を見て、恭は意識するようになった。
気づけば彼女を目で追い、考え、すきがあれば話しかける。
誰よりも信頼していると彼女が言ってくれた。
それなのに、こんな状態でやっと気づく自分が、許せない。
彼女の信頼を裏切るようなことは、これ以上したくなかった。
恭は大きく息を吐き、話しかけながら彼女へゆっくりと近づく。
「僕は、君を否定しないよ。多分、勘違いしてるんだ」
子供を諭すように、優しく、笑顔を浮かべて。
「うそっ! うそつき!! 恭はうそつきだ! 私をもっと傷つけるために、またそんなこと言って! グルなんでしょ!?」
目を見開き、彼女は力任せに叫ぶ。
心臓が縛りあげられる苦しみを味わいながらも、恭は歩みを止めない。
「僕は味方だよ、誰がなんと言おうと、君を信じ続ける」
二人の距離はあと一歩でぶつかる所まで縮まった。
「なんで? たくさん、うそついて楽しいの? 私が苦しいのを見て、楽しい?」
「嘘じゃない! 僕の目を見て、確かめろよっ!」
恭は彼女の俯いた顔を持ち上げる。
急に怒鳴られた彼女は放心状態になり、恭の目をまっすぐ見つめていた。
しばらく見つめ合うと彼女は涙を浮かべる。
雫が1つ頬を伝う。
すると次々に涙があふれ、声を上げて彼女は泣き出した。
嗚咽混じりの泣き声は聞いてる方も苦しく感じる。
見ていられない恭は彼女を抱き寄せ、落ち着くまで優しく声をかけた。
彼女が落ち着きを取り戻した後、机に座って何故あんな状態になったのか事情を聞いた。
1つ1つ詳しく教えてくれるが、彼女は今も苦しいのだろう、話すたびに顔が険しくなっている。
「大丈夫? 苦しいならゆっくりと休んでから聞くよ?」
「ううん、大丈夫。私が話したいと思ったから話すの。それに今は、隣に恭がいるから心強いよ」
そう言うと彼女は恭と繋いでいる手を強く握った。
素直な彼女に恭は照れる。
恭は嬉しい気持ちともう1つ強い想いが込み上げてくる。
「こんな状況で少しずるいと思うけど……」
恥ずかしくて、彼女の顔が見れない恭。
しかし、弱腰ではいけないとまっすぐ瞳を見つめた。
「ずっと、前から……好きでした。……僕と付き合ってくれませんか?」
そう言うと恥ずかしさのあまり、ギュッと瞳を閉じる。
すると、唇に柔らかい感触がした。
月の光が射し込む教室に、二人の恋人がいた。
三人称とセリフの練習




