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自白独白シリーズ

クリスマスの自白独白

作者: ザ・ディル


 

 外。巨大なクリスマスツリーの下、桐谷(きりたに)亜美(あみ)は白い吐息を溢す。

 亜美は、ぼーっとしながら空を見た。

 

――今日って雪降るんだっけ? 

 

 それほどまでの曇り空だった。

 亜美は空を見飽きて、時計を見ると、集合時間が過ぎていたことに気づく。

――時間にルーズな人じゃないはずなのにな……。

 そのとき、走りながら亜美のもとに来た人がいた。

 

「遅いわ倫理(りんり)っ!」

 

「すまない、少し支度をするのに手間取ってしまってな……」

 

 亜美の待ち人(付き合っていない)は異性――南雲倫理だった。

 今日は休日で、クリスマスイブ。

 しかし――、

 

「倫理その格好は……何?」

 

「何って――見た目通りだぞ、亜美。見ての通り、制服だ」

 

 この日、異性と会う約束をしていたにもかかわらず、そのような格好で来た倫理に亜美は「……あ、あり得ない……」と、言ったあと――、

 

「あ、あんた馬鹿ぁ!? 普通、制服着る!? 休日よ!? しかも今日はクリスマスよ!?」

 

「えっ? でも今日は映画を一緒に観るだけの約束だろ?」

 

 そう。亜美と倫理は恋人なんかではなく、普通の、高校生同士だ。同じクラスメイトだ。

 二人は、たまたま暇だったので、今回たまたま映画を一緒に観にきたのだ。

 断じて亜美が、裏で手を回してようやく一緒に約束にこぎつけたとかではなく。

 断じて倫理が、亜美にどうすれば映画に誘われるかプランを計画し、行動した結果、紆余曲折ありながらも約束を取り付けたわけではなく。

 

――決して倫理と映画を観たいから、誘うように仕向けたわけじゃないんだからね!

――断じて亜美と映画を観たいとは思ってはないからな!

 

 などという、ツンデレ二人の心の中はさておき。

 一拍おいて。

 

「ねぇ倫理。一応映画の時間までには時間もあるし、あんたの服も変えておきたいし、洋服店寄るわよ!」

 

「なんだそれ。洋服店に行くのは決定事項なのか?」

 

「決定事項よ。異性と映画に行くんだから、男子はオシャレしてくるものよ、普通は」

 

「なんだよその『あんたは普通じゃない』って言い方!」

 

「だってあんたは普通じゃないわ! クリスマスに制服で映画を観るなんて! っと、時間すぎちゃうから早速行きましょう!」

 

 急かしてくる亜美に、倫理は渋々「はいはい」と了解した。

 

 

 実は倫理が制服で来ること、それを亜美は知っていた。

 だから亜美は、あらかじめ手を打っている。

 

 *****

 

「すいません店員さん、この人オシャレしてくださーい」

 

 洋服店に入り、開口一番の亜美のその声で店員たちが寄ってきた。

 

「この男性に似合う服を選べばいいんですね!」

 

「そうよ! 時間がないのでテキパキお願いしますね!」

 

 亜美のその傲慢な態度はしかし、店員は特に気にもとめない。

 

「じゃあ、ついてきてもらえるかな? 試着室に案内するわ」

 

「……はい……?」

 

 よく分からずも、店員になんとなく委ねた倫理は……

 

 

 *****

 

 

「これレディースじゃねぇか!!」

 

「はい! とってもお似合いですよお客様!」

 

 店員と亜美はグルだった。そのことに倫理は遅れて気づく。

 倫理は女子と言われても遜色ないほどの女装が施されていた。

 長袖のブラウス。黒のフレアスカート。オマケに何故か化粧まで。

 他者から見ても、今の倫理は大人しい女子と言われてもいいほど、綺麗で華麗だった。決して男には見えない。

 

「はー(パシャ)倫理の女装やっぱ可愛いわねー(パシャ))」

 

 スマホで、倫理が女子となった姿を取る亜美は、なんかもう、ヨダレ垂らしてるくらいに、よく分からないオタクみたいに熱心に倫理を見つめていた。

 

「おいやめろ亜美。やめてくださいやめろください」

 

「亜美様……と言ってほしいわね、倫理ちゃん」

 

「ちゃん付けやめろ!!」

 

「どうしようかなー」

 

 といいながら笑いを浮かべる亜美は、「うそうそ、冗談よ」と言った。

 亜美はそのまま言葉を紡ぐ。

 

「ただし! 今日はこのまま映画に来てもらうわよ! 」

 

 *****

 

「おい、僕の制服はどこに隠したんだよ!?」

 

 映画館手前、倫理は亜美に問う。

 

「ふーん、ボクっ子なんだー。そういうキャラにしたんだー。可愛いわね!」

 

「可愛いわけねーだろ!!」

 

「いやいや、十分可愛いわ。抱きしめたいくらい可愛いわよ。あっ、でもそうね、可愛いというよりは可憐なのかもしれないわ。すっごく大人びてるもん、今の倫理」

 

 自分の服装をよく判断できていない倫理は、亜美の言葉に惑わされる。

 

「大人びてる……そうなのか? ――って待て、話を変な方向に曲げるんじゃない。僕の制服どこにやったんだ? まさかあの店内に隠したのか?」

 

「まぁまぁ落ち着いて。映画が終わったら返してあげるからー」

 

「……それじゃ、駄目なんだ……」

 

 突然、トーンが低くなる倫理の声に、亜美は不思議に思う。

 

「どうしてかしら?」

 

「とにかく。どうしても制服がほしい。着なくてもいいから、さっきの店員と掛け合ってくれないか?」

 

「…………」

 

 亜美は思う――これほどまでに懇願する倫理の姿を見たのはいつぶりだろう?

 

 そんな考えを巡らせ、だからこそ亜美は、

 

「仕方ないわね。映画始まるまで時間あるし、行ってきていいわよ」

 

「……ありがとな」

 

 *****

 

 

 映画館内にて。

 二人は隣の席に座っていた。

 

「倫理、貴方結局何を取りに行ったの? 制服を持ってきてないってことは、つまりは何か物を忘れたんでしょう?」

 

「ん? ああ、だって映画のチケットを制服に入れっぱだったからな。なかったら映画見れないだろ?」

 

「ああ、そうだったのね……」

――てっきり、私のためにプレゼントを持ってきたのかと……っていけないいけない、それじゃ私が倫理のことかとが大好きみたいじゃない!

 

 頭を振り、今の思考をかき消す亜美。

 いつの間にか、映画は始まっていた。

 

 内容はシンプルだ。

 二人の男女が付き合うまでの物語。

 人間関係が、糸同士を交差するように絡み合い、感情が交差しあい、時に波長が合い、時に波長が乱れる。

 結末は、ハッピーエンド。

 上映客はそれしか認めない――それほどのハッピーエンドを醸しだしていた技術が集約していた。

 事実、亜美と倫理――さらに上映客全員がハッピーエンド以外は認めないと決心がつくほどだった。

 そして、最後はハッピーエンド。そんな映画で、そんな映画だからこそ、上映客は全員満足する。

 

 

 *****

 

 

「映画良かったな」

 

 映画館から退出したあと、倫理はそういった。

 

「ええ。とっても満足できたわ」

 

 二人は満足していた。

 映画を見て満足もしていたが、普段は二人きりにならない二人が、二人で映画を観たことで、満足した。

 

「んじゃ、あとは帰るだけだな。ここからだと、俺の家はお前ん家と逆だから――」

 

「ここでお別れよね」

――まだ、別れたくない……。

 

「ああ、そうだな。でもまぁ、すぐ会えるだろ?」

 

「そうね」

――このままだと、約束できず正月に会えることなくなる……! それは避けないと!

 

 亜美は焦っていた。

 いかに、自分の好意を隠しながら正月の約束をこぎつけるか。頭の中で今も必死に考えている。

 もともと、このクリスマスイベントは手筈通りだったが、正月のときに誘うことは無理だった(理由:好意を隠して誘う方法が思い付かなかったから)。

 だから今、正月に会う約束を考えつかなければ、倫理と正月に一緒に歩くことはない。

 クリスマス前からずっと考えていたことだ。ゆえに、この短時間で約束を取り付けるアイデアは、浮かばない。

 

「じゃあな、亜美」

「ええ」

 

 *****

 

「あ゛あ゛! どうして私は約束を取り付けられないの!」

 

 家に帰り、自分の部屋で発狂する亜美。

 少し時間をおいて、冷静になる。

 そして、ため息をつく。

 

「どうして上手くいかないのかしら……」

 

 声に出してみるが、そんなこと、亜美自身とっくに理解している。

 

――私のプライドが高いから……。

 

 亜美は分かっているのだ。本当は素直に約束を取り付ければ、これほど苦労せずに済むと知っている。

 しかしながら、自尊心が邪魔をする。或いは、異性を自分から誘う恥ずかしさが邪魔をする。

 

「来年こそは……どうにかしたいなぁ……」

 

 そう言いながら、約束を取り付けることを諦めた。

 亜美はグッと伸びをし――、

 

「ん?」

 

 服に違和感を感じる。

 コートのポケット部分に手を入れるて、取り出す。

 

「これは……手紙と……ペンダントかしら?」

 

 ペンダントトップは、雪の結晶のようだった。

 次に、亜美は手紙を読む。

 

 

 

 亜美へ

 

 この手紙を見たということは、お前はペンダントを入れたことにも気づかなかったってことだ。

 それほど、映画に感動したか或いは――。

 まっ、それはどうでもいい。

 これは日頃の感謝だ。クリスマスだし渡しておこうと思う。

 もし恩返ししたいなら、正月にでもまた会う約束してやるよ。

 

 倫理より

 

 

 

 読み終わったとき、亜美の顔は朱に染まる。

 嬉しかったのと、倫理が好きだと見透かされたような文章で、感情がちぐはぐだ。

 数分おいて。

 気を落ちつかせた亜美は窓の向こうを見る。

 雪が降っていた。

 

「ホワイトクリスマスね……。雪が降ると思ったから、倫理はこれを渡したのかな?」

 

 倫理の思惑は不明瞭だった。

 しかし、

 

「私にプレゼントを送ってくれてる、それほどの仲って認めたのかしら? でも、それをいうなら……」

――私も服をプレゼントした。

 

 あまり描写しなかったが、亜美も(女装用の)服をプレゼントした。

 だから、お互いがプライド高くとも、今現在はそれほどの関係を認めていると理解している。

 亜美がそう思ったとき、ふと笑う。

 

「さて、仕方ないな、倫理は。手紙を渡すシャイな彼には私が堂々と正月の約束をとりつけてあげるわ」

 

 そして携帯を取り出して、倫理と正月に会う約束をしたのだった。

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