同盟
リビング中央にある丸テーブル。その回りを、俺とトリア、そしてファルカが囲っていた。
わん!
あと俺の横にはジーズもいる。俺たちの目の前にあるもの⋅⋅⋅⋅⋅⋅それは、トリアが作ってくれた料理の数々である。
というのも、俺がファルカを連れて⋅⋅⋅⋅⋅⋅についてこられたまま家に入ると、トリアが晩御飯の準備をして待っていた。いくらなんでも俺たちだけで晩御飯を食べるのも良くないということで、ファルカと一緒に食卓を囲むことになったというわけだ。
カチャ、カチャカチャ⋅⋅⋅⋅⋅⋅
(((き、気まずい⋅⋅⋅⋅⋅⋅。)))
わふぅ?
食器の音だけが聞こえ、全員が全く同じことを考えていた。
成り行きでこうなってしまったが、ほとんど関わりのない他人と食卓を囲みながら楽しく話など出来るわけがない。
それにファルカはAランク冒険者、俺やトリアとはすむ世界が違うと言っても過言ではないだろう。
早々に自分の食事を終えたジーズが俺のご飯を狙っている中、現状を打破しようとトリアが話を振ってくれる。
「そういや、ファルカさんは何か話があったと言ってませんでしたか?」
トリアはいつもとは違う敬語でそう問いかけた。
「え、あぁ!そうだったな。」
「そういやそんなことを言ってたな。確か⋅⋅⋅⋅⋅⋅ジーズがどうって。」
そうだった。気まずさで頭が一杯になって忘れていたが、何も晩御飯を食べたり、世間話をしに来た訳でもない。
「で、その話ってゆうのはなんだ?」
「あ、えーっとな、うん、えー⋅⋅⋅⋅⋅⋅そ、それより!トリアさんといったかな?別に敬語を使わなくてもいいからな?楽しく話をしたいからな!」
「そう?なら普通に喋るからね。で、話って何?」
「うっ⋅⋅⋅⋅⋅⋅。」
突然関係のない話をしたと思ったら、今度は目を泳がせながら黙りこくってしまった。
その様子を見て、トリアが目をキランと光らせたかと思うと、
「あっ!お母さんに用事頼まれてたの忘れてたぁー!ファルカさん。ちょっと手伝ってくれない?」
「え?⋅⋅⋅⋅⋅⋅っ!わ、わかった。」
「用事?なら俺も手伝おうか?」
「「大丈夫だから!」」
「え、えぇ⋅⋅⋅⋅⋅⋅。」
そんな頑なに断らなくても⋅⋅⋅⋅⋅⋅。
「え、えーっと⋅⋅⋅⋅⋅⋅ほら、頼まれてたのって女性の泊まってる部屋の備品補充に行くことだからさ、リヴァルは行けないでしょ?」
「あ、そうゆうことか。なら俺は待ってるよ。」
なんだ、ちゃんとした理由があったんだな。
そうゆうわけで、俺は晩御飯を食べながらジーズと一緒に暫しの間留守番をすることになったのだった。
因みに、なぜ頼み事を知らないはずのファルカまでが拒否したのかという疑問を持ったのは少し先の話だ。
◆
❮ファルカ・ホークス視点❯
トリアさんに『備品の取り替えの手伝い』という建前で移動した先は、案の定その部屋ではなく店の裏だった。
やはりそうゆうことか、と一人納得しつつ前を見ると、彼女はイタズラな笑みを浮かべながら口を開いた。
「で、本当の理由は何かな?」
この文面だけを見れば理解出来ないが、私たちのなかでは意味を理解するのに十分過ぎるぐらいだ。
つまり、彼女は私があの犬のことで話があったわけではないということを悟った上で、気を利かせて私を連れ出したというわけだ。
私がそんなことを考えているうちにも、彼女の笑みはますますイタズラっぽさ増していた。
「それとも、女の子同士でも言えないような悩みなのかなぁ~?」
「そ、そうゆうわけでは⋅⋅⋅⋅⋅⋅。」
「ふぅ~ん⋅⋅⋅⋅⋅⋅ふふっ、くふふふふ、あははははは⋅⋅⋅⋅⋅⋅」
私が言葉に詰まったのを見て、彼女は一頻り笑い終えるとこう言った。
「ごめんね~、ちょっとからかってみたくて。あと、内容についてはもう察しがついてるからね。」
「ど、どうゆうことだ?」
「リヴァルが言ってたんだ。毎回『パーティーに入らないか』と言ってくるやつがいるって。」
「っ!⋅⋅⋅⋅⋅⋅聞こえてたのか。」
「当の本人はそうやってからかわれてるんだと思ってるみたいだけどね。」
ここまで知られていることに若干の恐怖を感じるものの、なぜこんな風に二人で話が出来るようにしたのかという疑問もあった。
白状すると、あの犬がどうこうというのは嘘で、どうにかしてリヴァルくんとちゃんと話がしたかったというのが本音である。もちろん、パーティー勧誘のためだ。
「ひとつだけ質問したいんだけど、いいかな?」
「大丈夫だが。」
「パーティー勧誘したいってゆう目的はわかったけど、その理由って⋅⋅⋅⋅⋅⋅恋心とか?」
「っ!そ、それは⋅⋅⋅⋅⋅⋅」
再びあのイタズラな笑みに追い詰められる。冒険者として心も強くなったと思っていたが、自分の思っているほど強くはないようだ。
この答えは、私にもはっきりとは分からない。まずリヴァルくんとの接点がほとんどないのだ。そのなかで、その⋅⋅⋅⋅⋅好きになるというのは不自然な気もする。
今のところ、私のなかで分かっているのは、彼への興味があることぐらいだ。弱くても諦めずに頑張っている姿を見て、『あぁ、守ってあげたい。』なんて考えてしまう。
自分の思考に意識を置きすぎてしまい、ふと彼女の顔を見ると、ニヤニヤと口角が上がっていた。
「ふぅ~ん。好きかどうかは自分でも分からないけど、興味はあるって感じだね。」
「⋅⋅⋅⋅⋅⋅トリアさん。君はエスパーか何かなのか?」
なぜ思考を読まれてしまうのか。私がそんなに分かりやすいのだろうかと思うと、リヴァルくんの事を考えていつのまにか顔が熱くなっていることに気がついた。
「じゃあ、今のうちに同盟を組んでおかなくちゃね。」
「同盟?」
さっきまであった少しばかりのシリアスさを吹き飛ばすように、彼女は満面の笑みを浮かべた。
「もしかしなくても、ファルカさんはリヴァルのことを好きになっちゃうからね。」
「なぜそう思うんだ?」
「私がそうだからかな~。あ、これはリヴァルには内緒にしてよ?」
「そ、そうなのか。わかった、内緒にする。約束を違えたら、そのときは切腹でも何でもしよう。」
「そ、そこまで重大にしなくてもいいけど⋅⋅⋅⋅⋅⋅とにかく、好きになってしまったならそのときは報告してね。抜け駆けはなしだから。」
それだけではこっちにメリットがないのでは?と思うと、それを分かっていたかのように彼女はこう言った。
「その代わり、私が色々手伝ってあげる。パーティーのほうも⋅⋅⋅⋅⋅⋅恋愛のほうもね。」
そんな誘惑に、私の胸がドクドクと大きな音を立てた。
「トリアさんは、そういったことは経験あるのか?」
そういったこと、というのは無論恋愛についてだ。
「え?全くないよ。」
「は?」
「だって、初恋なんだもん。だけど、リヴァルと距離が近い分手伝ってあげられるって訳。」
ということだった。つまり距離を縮めるきっかけは作ってくれるけどそこから先は手探りでやっていくしか⋅⋅⋅⋅⋅⋅って何で好きなこと前提で話を進めてるんだ?
「で、同盟、組む?」
彼女が再びそう聞いてくるので、同盟について考えてみる。内容としては、きちんと両方にメリットがある。いや、そもそも私がリヴァルくんを好きにさえならなければ私だけがメリットを得られる訳だ。
となると、答えは一択だった。
「わかった。組ませてもらおう。」
「よし、契約完了!」
彼女はまた満面の笑みを浮かべた。私としても良い話だ。自然と頬がゆるんだ。
─────その嬉しさのなかに少なくない恋心によるものが含まれていることに、そのとき全く気づかなかった。
「そろそろ部屋に戻ろっか。リヴァルを待たせちゃうし、早速パーティーになるための手を打っていくから、ちゃんと反応してね。」
「あ、あぁ!よろしく頼む。」
そうして、私は同盟という新しい力を使ってリヴァルくんを攻略(パーティー勧誘)しに行くのだった。
二人の恋心がちゃんと書かれる回となりました。なんか文面が暗くなってしまった気がしますけど、大丈夫ですかね?
さて、ファルカ・ホークスは無事、パーティー勧誘をすることができたのか。
次話もお楽しみに!
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