依頼を受けよう
「はい、これ。」
「お、ありがとな。」
寝室から持ってきてくれたのか、トリアが俺の剣を渡してくれた。
剣を受け取り、刃の状態を確認する。ついでにポーションのほうも見ておいた。よし、不足はないな。
「今日は依頼を受けにいくんだよね?」
「あぁ、行ってくるよ。」
「わかった、気を付けてね。美味しいご飯作ってまってるよ。」
「ありがとな。」
正直とても楽しみだ。
今日はトリアの言うように冒険者として『依頼』を受けに行くのだ。といっても俺の実力で受けられる依頼は限られてくる。
この前剣士から加護師にジョブチェンジしたのだが、どのみち加護する対象がいないのでやることは剣士と変わらない。
加護についてはまた今度試そうか。
部屋の扉を開け、冒険者ギルドに向かおうとすると、
わん!
「どうしたんだ、ジーズ?」
わふわふ、はふぅ。
「おまえも、行きたいのか?」
わふぅ!
「え、えぇ⋅⋅⋅⋅⋅。」
そ、そうか⋅⋅⋅⋅⋅⋅。どうだろう?真っ黒で隻眼と見た目は強そうではあるが、まだ子犬だしなぁ。
そう思い足元を見ると、ジーズが目を潤ませてこっちを見ていた⋅⋅⋅⋅⋅⋅。
「まぁ、いいか。」
「そうかなぁ。」
「強い魔物と戦う訳でもないからな。大丈夫だろう。」
ワン!
ジーズも目を輝かせてこっちを見ているしな。
「気を付けてね?」
「分かってるよ。ご飯も楽しみにしてるしな。」
「っ!⋅⋅⋅⋅⋅⋅う、うん!」
そうして、俺は冒険者ギルドへと向かった。
◆
冒険者ギルドはいつも通り人でごった返していた。そしてこれもいつも通り、俺が入ると回りからはヒソヒソと陰口が聞こえてきた。
いや、聞こえてるからな?
はぐれないようにジーズを抱き抱え、受付へと向かう。回りからの視線も痛いので手早く終わらせたい。
ちょうど受付の一つが空いていたので、そこに向かった。
⋅⋅⋅⋅⋅⋅ファルカはいないな?
「依頼を受けたいのだが。」
「はぁ、依頼すか?」
そこにいたのは、この前もいたやる気のない若い男だった。
だから空いていたのか。
「あぁ」
「依頼表は⋅⋅⋅⋅⋅⋅持ってないすか。常設依頼すね。」
《常設依頼》
依頼にはいくつか種類があり、そのうち常に出ているもののことである。
例えば《薬草採集》需要が高いので不足することは殆どなく、常に集めてもらえるよう常設依頼となっている。
他の依頼として、一般の依頼主からギルドを通して受ける《一般依頼》危険度が高く、国から依頼される《特別依頼》スタンピードなどの災害と認定されるものの対処をするために強制参加もある《緊急依頼》といったものがある。
説明はこれぐらいにして、俺が今日受ける依頼。それは、
「《ゴブリン討伐》に行きたいんだが。」
ゴブリン。俺が倒せる数少ない魔物の1つである。大きさは成人男性の腰ぐらいまでしかなく、肌は深い緑色、耳は上に尖っているというのが特徴だ。
個々の強さは、冒険者でなくても倒せるぐらい弱くはあるが、ゴブリンは他の魔物に比べて知能が高い傾向にある。そのため、やつらは普通集団で行動し、連携して戦闘を行う。
舐めてかかった新米冒険者が返り討ちにあったというのはよく聞く話だ。
─────因みに俺は4匹以上の集団には勝てない。
ゴブリンは基本どんなところにも発生するので、すぐに増えてしまう。なので常設依頼になっているわけだ。
受付の男は、気だるそうにカウンターの下に手を突っ込み、一枚の紙を取り出した。
「これがゴブリン討伐の依頼表。討伐部位と一緒に出す。以上。」
「わかった。ありがとう。」
カウンターに置かれた依頼表を受け取る。
これ以上ここにいる必要もないので、早く目的の場所に行くとするか。
依頼表をポーションバッグのポケットにしまい、ゴブリンのよくいる《ノビタキ平原》へと向かった。
「⋅⋅⋅⋅⋅⋅そういや、あれ言うの忘れてた。ま、いいか。」
やる気の無いその男の呟きが、誰かの耳に届くことはなかった。
◆
「といっても、どうしようか⋅⋅⋅⋅⋅⋅。」
《ノビタキ平原》ゴブリンやスライムといった魔物しか湧かない比較的安全な地帯だ。
それが仇となってか利益の少ないこの地に来る冒険者は殆どおらず、そのせいでスライムより強いゴブリンの方が溜まってしまうのだ。
俺が悩んでいる理由、それは、
「運良くいいゴブリン集団が見つかればいいんだが」
ということである。ゴブリン自体はすぐに見つかるだろうが、小さい集団でなければいけないからな。
悩んでいても仕方ないので、しらみ潰しに探し始めようとすると
ワン!
「なんだ?ジーズ。」
ジーズが突然吠えたと思えば右前方の方へと走っていった。
「ちょっ、どこにいくんだ!?」
子犬とは思えないような速さで平原を駆けていくジーズになんとかくらいついていく。
幾ばくかすると前方に森が現れた。
ジーズの目的地はあそこのようだ。
ガサガサガサ
「い、痛⋅⋅⋅⋅⋅⋅。」
森に入ってもジーズの速度は落ちず、見失わないように注意していたせいで茂みに突っ込んでしまった。
「ジ、ジーズ。まだなのか?」
わふ。
茂みの途中でしゃがむと、目の前にジーズがいた。
わふわふ。
何かをこっちに伝えたいようで、そういった後ジーズは茂みの先の方を見た。
つられてそっちを見ると、そこには単独で行動しているゴブリンがいた。
『あれか?』
わふぅ!
どうやらジーズはゴブリンを見つけられるようだ。
ん?おかしくないか?魔物を見つけるなんて普通じゃないが⋅⋅⋅⋅⋅⋅。
まぁいいか。とにかく今はあいつを倒すことを考えよう。
ゴブリンまでの距離は約10メートル。まだ俺たちに気づいている様子はない。
先手必勝だな。一気に駆けて一気に切る。それがいい。
なんて色々考えているが、相手はゴブリン。
─────変なことは考えないようにしよう。むなしくなるだけだ。
体勢を整えて、地面を蹴る。
茂みの音にゴブリンが俺の存在に気づいたようだが、もう遅⋅⋅⋅⋅⋅⋅
カァンッ!
「えっ?」
降り下ろした俺の剣は、ゴブリンの持っていた小さな棍棒のようなもので簡単に弾かれてしまった。
ギャァァス!
弾かれて体勢の崩れている俺に、縦振りの棍棒が襲いかかる。
「うぉっと!」
なんとか体を捻ってかわし、今度は横から剣を切りつけた。
ギャグゥゥ⋅⋅⋅⋅⋅⋅。
切り口から瘴気が吹き出し、ゴブリンはその場に倒れた。
「ふ、ふぅ~。これは、不味いな。」
わふぅ⋅⋅⋅⋅⋅⋅。
そう呟きながら、討伐部位であるゴブリンの耳を切り取っていると、いつのまにかこっちに来ていたジーズにも呆れられてしまった。
ゴブリン一体相手でもこれだからなぁ。本当に3体同時でも相手できるのか、自分でも信じられなくなってきた。
「と、とにかく、次行こうか。」
ワンワン!
すると、再びジーズはどこかに向かって走っていった。
それからは少しばかりは慣れたのか、案外順調に進んだ。一度だけ3体の集団とも戦ったが、左足に一撃くらうだけで倒すことができた。
「よし、こんなもんでいいか。」
ゴブリン討伐は最低でも5匹以上の討伐部位を持っていけば換金してくれる。今日は13匹倒したので、それなりの金にはなるだろう。
そう思って、ジーズを連れて帰ろうとしたその時、
ガサガサガサガサ
グルルルゥゥゥ⋅⋅⋅⋅⋅⋅。
背後の茂みから音が聞こえてきた。それもなかなか大きい。
ジーズが唸っている茂みの先から現れたもの。それは、
背は俺の1.5倍ほど。肌はゴブリンと同じ深い緑だが、その顔は豚に近い。体も筋肉の起伏がはっきりしていて、見るからに力がありそうだ。
そいつの名は⋅⋅⋅⋅⋅⋅
「お、オーク、だと?」
ガグゥ、グバァァ!
オーク、まあまあ強い魔物ってことで書きましたがこんな感じですよね?
次話
はじめての加護。対象は⋅⋅⋅⋅⋅⋅。
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