ナルシギルド長から以来を受ける
─────カチャッ
「ほぅほぅ。とても興味深いねぇ。」
(こっちはお前の思考回路にある意味興味津々だよ!?)
話を終え、俺は表には出さないものの心のなかでは息が上がるほどイライラしていた。
こっちは自慢話を聞きに来たんじゃないんだよ!と言ってやりたいぐらい、話の要所要所で自慢話を捩じ込んでくるのだ。
「僕が冒険者やってた頃には、魔道師でも効果3倍なんてそうそういなかったねぇ。それが本当なら、高難易度ダンジョンに挑む冒険者にも引っ張りだこさ。」
とのことだ。まぁ俺はファルカとパーティーを組んでるから、他の冒険者とやるつもりはないがな。
⋅⋅⋅⋅⋅⋅そもそも誰もやりたがらないだろう。俺は『最弱冒険者』として有名になってしまっている。
そんなことは置いといて、さっき言っていた通りギルド長は元々冒険者だったらしい。自慢というのも、この冒険者だった頃のことを何かにつけて言ってくるというものだったのだ。
⋅⋅⋅⋅⋅⋅自分が冒険者として上手くいっていない分余計に腹が立つ。
「そ、そうか。」
「そうそう、ダンジョンといえばね。」
む?これはまた自慢が始まりそうだ。
「この部屋の外、どうだった?」
「は、はぁ⋅⋅⋅⋅⋅⋅。」
部屋の外といえば、あのダンジョン廊下のことか?
⋅⋅⋅⋅⋅⋅ん?ダンジョン?
「すばらしかっただろう!ダンジョンの通路とボス部屋への扉をイメージして作ったのさ。私の作った数々の天才的美術作品のなかでも最高傑作と言っても過言じゃないだろう!」
あれお前が作ったのかぁ!
見えないところだから荒削りなのかと思ったが、まさか意図してやっていたとは⋅⋅⋅⋅⋅⋅無駄な努力だ。それに暗くて歩きにくいし、安全面にも問題があるだろう。
「正直、色々問題がありそうだが⋅⋅⋅⋅⋅⋅。」
「ふふっ、君にはこの素晴らしさが分からないようだね。新の芸術というのは、後世に残るものなのさ。」
そりゃ残るでしょうね!ギルドだからな!改修工事でもしないかぎり。
そんな風に心のなかで毒づく。
ギルド長の芸術になど俺は興味がないし、これ以上自慢をされてもたまったもんじゃない。
「取り敢えず、説明はこんなもんだ。これ以上何か話を聞きたいことはあるか?」
「んー⋅⋅⋅⋅⋅⋅特にないね。」
よかった。これで自慢を聞かなくてすみそうだ。
「じゃあ、俺はこの辺で。」
そう言って立ち上がり入ってきた扉へと向かう。
「あ、そうそう。」
取っ手に手をかけたところで、引き留められる。なんだ?また自慢か?
イラつきを悟られないように、できるだけ自然に振り返る。
「⋅⋅⋅⋅⋅⋅なんだ?」
「言い忘れたことがあったのさ。いやはや、僕ほどの人でも忘れることはあるものだね。」
いいから早く話せ。
「まず、君のような例外の冒険者はここの小さなギルドだけじゃ対処しきれないからね。この案件は王都に送ることになるよ。」
おぃ、マジか。加護師になったなど家族に知られたら不味いし、あまり大事にしたくはないのだが。
「大出世のチャンスだね。けど、僕のようにそんな簡単に出世できると思ったらダメだよ?王都に送るには条件があってね。」
「はぁ⋅⋅⋅⋅⋅⋅。」
いちいち自慢っぽくてウザいが、これは朗報だ。その条件とやらをクリアさえしなければ大事にならないで済むだろう。
「それで、条件というのは?」
「ダンジョン調査さ。確か君はAランク冒険者のファルカ・ホークスとパーティーを組んだそうだね。」
「そうだが。」
「彼女も良いところに目をつけたね。まぁそれは置いておくとして、君たちのパーティーで最近発見された新しいダンジョンを調査してほしいんだよ。」
新しいダンジョンか。
何度か出てきているが、ここらでダンジョンについて説明しておこう。
と言ってもダンジョンについて分かっていることは少ない。ダンジョンとは姿形は様々だが入り組んだ形をした穴である。
そしてダンジョンとして認められるもう一つの条件は、魔物の発生である。
ダンジョン内では定期的に魔物が補充されるようになっている。その原理は解明されておらず、どれだけ倒しても暫くすれば再発生しているのだ。
この魔物の素材やダンジョン最奥のボスを倒して得られる宝を求めて冒険者などがダンジョンに挑戦するのである。
こういった理由から、ダンジョンは魔物を構築する瘴気が溢れてくる場所だと言う説や、昔の生物が宝を隠すために作ったという説、同じく昔の生物が単に遊びで作ったなんて珍説もある。
説明はこれぐらいにして、そのダンジョンの調査をすると言うことらしい。
「その新しいダンジョンが、《マグリット峡谷》の底にあるようでね。最初に調査に入った冒険者パーティーが重症を負って帰ってきたのさ。Aランク冒険者もいる手慣れパーティーだったんだけど、余程の恐怖だったのか精神的にもやられちゃったらしいね。」
《マグリット峡谷》冒険者なら危険な場所として誰でも聞いたことがあるだろう。
峡谷の底は常に薄暗く、生息する魔物も危険度の高い⋅⋅⋅⋅⋅⋅こないだのオーククラスの魔物が普通にいるらしい。
俺には縁もゆかりもない場所だと思っていたが、まさか行くことになるとは。
「とにかく、それ以来挑戦してくれる冒険者がいなくて困っていたのさ。」
つまりそれって、
「やる人がいなくて困ってるから、適当な理由をつけて俺たちにやらせようって訳か?」
「いやだなぁ、僕の完璧且つ粋な計らいの結果さ、ふっ。」
嘘つけぃ!
と思ったが、これはさらに朗報かもしれない。
手慣れパーティーでさえ惨敗したのだ。俺たちも失敗しておかしくない。
これならファルカの名を汚すことなく、大事にならないように出来るだろう。
「⋅⋅⋅⋅⋅⋅分かった。しっかり調査してこよう。」
「成功すればそれはそれでちゃんと報酬をだすからね。まぁ頑張ってくれたまえ。」
端から見てはやる気が有るように、心のなかでは適当に失敗しようと思いつつ、俺はギルド長の部屋を後にする。
扉を閉めると、入るときは気づかなかったが横に表札が掛けてあった。
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ギルド長〔アホウ・ドリ〕
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「えぇっ!?」
思わず変な声が出る。
ハシビロさんが言っていたのは本当のことだったらしい。
まあまあ驚きの発見をしつつも、俺はダンジョン廊下を歩いていったのだった。
やっとちゃんとした戦闘シーンへの足掛かりができました。
あ、リヴァル君は戦えませんよ?
あと数話した後、戦闘へと入ります。上手く書けるか分かりませんが、戦闘シーンが好きな人も、できればそうじゃない人も楽しみにしていただければ嬉しいです!
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