ナルシストなギルド長
─────コツ、コツ、コツ、コツ⋅⋅⋅⋅⋅⋅。
石造りの廊下に反響して籠った足音が響く。
表向きには立派な佇まいだったのギルドだったが、ひと度裏に入ってみれば案外無骨な見た目だ。
そしてこの足音の主はもちろん、ハシビロさんと俺だ。ハシビロさん曰く、この先にギルド長の部屋があるらしい。
廊下を歩きながらも、俺たちは無言のままだった。というのも、なぜか廊下が薄暗くまたその見た目から、謂わばダンジョンのような雰囲気を醸し出しておりどうにも話をする気にはならなかった。
ダンジョン廊下を進んでいくと、暫くして重厚な扉が現れる。それはさながらダンジョン最奥のボス部屋への扉のようで⋅⋅⋅⋅⋅⋅
「つきましたよ。それでは、私はこの辺で、」
「え?ハシビロさんは来ないのか?」
「えぇ、『連れてこい』としか言われていませんもの。それ以上に、あいつとは言葉を交わすのも労力の無駄というものですので。では。」
「お、おぅ。ありがとな⋅⋅⋅⋅⋅⋅」
後半をマシンガンのように捲し立てたハシビロさんは、言い終わるや否や早足でダンジョン廊下を戻って行ってしまった。
(例外があるとしても、温厚そうなハシビロさんをここまで苛立たせるギルド長とは、どんな人だろうか?)
少なくともまともな人ではないことは分かるが、下手に突っ掛からないようにしようと心に決める。
そして、恐る恐る最奥の扉を叩いた。
─────コンコンコンッ
「⋅⋅⋅⋅⋅⋅。」
返事がない。もう暫く待ってみよう。
「⋅⋅⋅⋅⋅⋅⋅⋅⋅⋅⋅⋅。」
やはり返事がない⋅⋅⋅⋅⋅⋅。寝ているのだろうか。もしそうなら少し申し訳ないが、俺もいつまでも待つわけにいかないので、再び、今度はもう少し強めに扉を叩こうとした、そのとき、
─────ゴゴゴゴゴゴッ
地鳴りのような音と共に扉が内側に開いていく。突然のことに思わず1歩後ずさる。
少しずつ開いていく扉の隙間からは眩い光が零れ、俺の目を眩ませる。
少しして目が光に慣れてくると、徐々に中の物の輪郭が見え始め、また正面にはぼやっとした人形が見えてきた。
「誰だい?僕だけのマイスイートルームに入ろうとしているのは?」
突然の聞こえてきた声は目の前の人形の物が発したものだろう。声質から男だろうと判断できるが、その声は少し高めでやや伸びるような、どうも鼻につく声であった。
そうこうしているうちにもすっかり目が慣れ、部屋の様子がはっきりと見えるようになる。
真っ赤なシートに縁は金の紐がファサファサとついているソファー。
銀の縁取りに白のテーブル。
その他諸々、今までのダンジョン廊下の先とは思えない、赤、白、金、銀といった豪華さを象徴するような色で統一された物が大量に置いてあり、目がチカチカする。
さらに、統一されていると言っても色だけで、配色が考えられていないせいでごちゃごちゃとしているのが脳への刺激にさらに拍車をかける。
そして極めつけには、白地に襟や袖口にソファーの金のファサファサのようなものをつけた、いかにも派手派手しい服を着た20代半ばほどの男である。
ロン毛気味の金髪は少しカールしており、なかなかな高身長(といっても俺と同じぐらい、またはもう少し低いぐらいだろう。)そしてイケメンだ。(俺自身イケメンの定義が分からんからたぶんだが、平均よりはそれなりに良いほうの顔だろう。俺の顔?そんなもの⋅⋅⋅⋅⋅⋅言わないでくれ。)
綺麗に整った顔からは、自分への完全な自信が溢れだしているようである。
「おぉ、誰だい、キミは?」
「あ、俺か。俺はリヴァル。訳あって姓は名乗れない。許してくれ。」
訳というのは、as you know ご存じの通り父に勘当されて追い出されたからである。
⋅⋅⋅⋅⋅⋅英語なんて使って楽しく言ってみたが、やはり思い出すだけで悲しくなる。
あれ、英語ってなんだ?
「大丈夫さ、僕ほど心の広い人はこの世の中にいないからね、ふっ。」
と言いながら髪を掻き上げる。不味いな、これは俺が苦手なタイプの人間だ。
「それで、ギルド長のこの僕に何の用だい?」
「え、あぁ。ハシビロさんに呼び出されて来たんだが⋅⋅⋅⋅⋅⋅。」
「ハシビロちゃんだってぇ!?」
ハシビロさんの事を出した瞬間、突然ギルド長が飛び跳ねた。それに、ハシビロ『ちゃん』?
「あぁ、愛しのマイハニー⋅⋅⋅⋅⋅⋅私のお願いを聴いて頑張ってくれたんだね。」
ムカッ⋅⋅⋅⋅⋅⋅。聞いたところギルド長はハシビロさんが好きなのかもしれないが、言い方がいちいちくどいしなんかウザい。これがハシビロさんの言ってたことか。
若干の反抗心から告げ口をしてやる。
「でも、ハシビロさんは文句を言ってたぞ?無理難題を言うから困ってるって。」
さすがにアホウドリのことなどは言わないでおいた。ハシビロさんにこれ以上の無理難題が行くようなことになれば問題だからな。
「ふふっ、分かっているさ。」
なっ?
「好きな子にはイタズラをしたくなっちゃう。それが男の性ってものだろう?ハシビロちゃんも分かって答えてくれているのさ。何てったって、この僕のお願いなんだからね。ふっ」
またしても髪を掻き上げる。
よし、諦めも肝心だ。聞き流すようにしよう。
「それで、そろそろ本題に入らないか?」
「え~、本題って何だったかな。」
「忘れたのか?」
「ははは!僕にだって間違いはあるさ。」
ポジティブ過ぎるだろ⋅⋅⋅⋅⋅⋅。気にするな~、気にするな~。
「俺のジョブ《加護師》についてだろ?」
「あー、そうだったね。じゃあ話を聞きたいからあの辺に座っておいてくれるかい?」
そうやって示されたのは、あの真っ赤な金のファサファサソファーだ。座りたくねぇ⋅⋅⋅⋅⋅⋅。
とも言ってられないのでとりあえず座る。ギルド長は何やら奥の方でごそごそしているのが見えた。
暫くして戻って来たギルド長の手には、紅茶があった。それも一つだけ。
「それじゃあ、始めてくれて良いよ。」
─────コクコク、カチャ
いや、自分で飲むんかい!そう言うのってだいたい客人に出すもんだろ!まぁ出されてもたぶん飲まないけどな!
それに話を聞きながらメモを取るための専用の紙とかを取りに行ったのかと思ってたんだが、紅茶ってなんだ紅茶って!
「はぁ、はぁ、はぁ。」
「どうしたんだい?急に肩で息をして。」
てめぇのせいだよ!
とはさすがに言わず。あー、き・き・な・が・せ~!
とにかく自分の話を始めてしまえばこっちのもんだろう。
手早く話を終わらせてしまおうと決心した。
ギルド長の性格。まともな奴じゃないってことは決まっていましたが、まさかナルシストになるとは⋅⋅⋅⋅⋅⋅。書いた私(sinθ)も驚きですw
次話
「あの廊下、すごかっただろう!私の最高傑作といっても過言じゃない。」
(あれお前がやったのかよ!)
話し合いは無事終わるのか⋅⋅⋅⋅⋅⋅。お楽しみに!
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