《ムクドリ》
翌日。俺は昼前には宿を出てファルカと合流し、そのまま冒険者ギルドへと向かった。
昨日の今日ではあるが、パーティーの申請をするためだ。といっても、それから直ぐに依頼を受けるわけではない。
こんなに早く来る必要はなかったのだが、人の少ない時間帯(昼を跨いで依頼を受ける冒険者は少ないので、昼の時間帯は人が少ない。)ということと、午後から買い物に付き合ってほしいというファルカの要望に答えた結果だ。その為、ジーズは家でトリアと一緒にお留守番である。
たぶん荷物持ちでもさせるつもりなのだろうファルカと雑談をしながら歩く。しばらくしてギルドの前まで来た。
「視線が痛いな。」
「そうか?私は気にならないが⋅⋅⋅⋅⋅⋅言われてみればそんな気もするな。」
視線が痛いのはいつものことなので、それだけで気にするほど俺は柔なやつじゃない。しかし、今俺とファルカに向かって注がれているのは、いつもとは違うタイプのもので⋅⋅⋅⋅⋅⋅
『あれ、Aランク冒険者のファルカさんじゃない!』
『それと隣にいるのは⋅⋅⋅⋅⋅⋅っ!なんであいつが!?』
毎度毎度、わざとなのかと思うほど駄々もれなのだが。
とにかく、Aランク冒険者であるファルカと俺が一緒にいることに対する驚愕や、好奇心の感情が注がれているわけである。
そんなわけで、少ないとはいってもそれなりにはいる冒険者たちが、俺たちを見てそそくさと離れていくという奇妙な構図が出来上がっていた。
「今日は何だかスムーズに進めるな!」
「そ、そうか。よかったな⋅⋅⋅⋅⋅⋅。」
こいつは少し天然っぽいのだろうか?回りの雰囲気を微塵も感じ取っていないようだ。
その様子で受付カウンターまで進む。
「お、リヴァル。あっちは空いてるぞ。」
「⋅⋅⋅⋅⋅⋅まさか。」
デジャヴである。
みなさんも分かっていた通り、ファルカに連れられて進んだ先には、数少ない俺に対して楽しそうに話をしたあのやる気なし男が居たのであった。
って、俺は誰に話しかけてるんだ?
その男⋅⋅⋅⋅⋅⋅そういや名前聞いてないな。まぁいいか。とにかく、そいつは俺たちが来たことに気づくと、気だるそうに読んでいた雑誌から目を離しこっちを見る。そして、俺の顔を見て口角を吊り上げた。
「昨日ぶりっすねぇ!今日は綺麗な姉ちゃんを連れてデートすかぁ?」
さっきまでのやる気なさが嘘かのように、そいつ⋅⋅⋅⋅⋅⋅いいや、受付男と呼ぼう。その受付男はにやにやと笑っていた。
「はぁ、あのなぁ⋅⋅⋅⋅⋅⋅」
そこまで言ったところで右側から袖を引っ張られる。話を中断してそっちを見ると、ファルカが耳を赤くしてもじもじとしていた。
その様子に少し戸惑いつつも、ファルカに問いかけた。
「な、なんだ?」
「わ、私ってリヴァルから見て、その⋅⋅⋅⋅⋅⋅き、綺麗か?」
何を言うかと思えばそんなことか⋅⋅⋅⋅⋅⋅。内心そう思いつつも、適当な答えを出す。
「まぁ、綺麗だとは思うぞ。」
「ほ、ほんとか!」
嘘は言ってない。目付きが鋭くてスラッと背が高いので可愛いとは言い難いが、綺麗とか、あと美人かどうかと言われると普通にYesだろう。
そもそも、女性に対してそこでNoなどという答えを出すのは自殺行為である。
そんな俺の思考など知らずに、ファルカは俺に背を向けて喜んでいた。いや、背を向けるぐらいならちゃんと隠せよ⋅⋅⋅⋅⋅⋅。
「すまないな⋅⋅⋅⋅⋅⋅。」
「よく見たらあのAランク冒険者のファルカさんすね。いつもの生真面目な感じから変わってて気づかなかったすよ。」
そんなファルカをよそに、俺は受付男に謝罪して話を再開した。
「それで、今日の要件なんだが⋅⋅⋅⋅⋅⋅」
「二人でパーティーを組みたいんだ!」
俺たちが話を始めたのに気づいたのか、後ろからファルカが乗り出して口を挟む。
「というわけだ。」
「はへぇ、あのファルカさんがパーティーすかぁ。今までずっと断ってたのに、なんでっすか?」
え?そうなのか?まぁ、ファルカぐらいの冒険者ならパーティーを組みたいという人は多いだろうからな。
「まぁ、これが目的だったからな。」
「⋅⋅⋅⋅⋅⋅ほほぉ、ファルカさんってそんなところあるんっすねぇ、驚きっす。」
え?なんでそこの二人は納得しちゃってんの?全然分かんないんだが。
「どういうことだ?もっと分かりやすく説明してくれ。」
「逆にさっきのでわからなかったんすか?これは致命的すね。」
「そんなに不味いのか⋅⋅⋅⋅⋅⋅?」
「ゴブリン一匹に瞬殺されるレベルで致命的すよ。」
それ、俺のこと⋅⋅⋅⋅⋅⋅いやいや、瞬殺はされてない!奇襲攻撃さえ防がれはしたがな。
「リヴァルが致命的なのはおいといて、言った通りパーティーの申請をしたいのだが。」
「分かったっすよ。」
未だに腑に落ちない俺を置いて、パーティー申請の手続きが始まってしまう。
手続きといっても、ほとんどすることはない。自分を証明するもの、冒険者カードというものを提示する。後は向こうが手続きや書類を作ってくれる。
少しして受付男が帰ってきて、俺たちの前に一枚の紙を出してきた。
「ここに、パーティーメンバーの名前と冒険者ランク、あとパーティーの名称をお願いするっす。文字は書けるっすよね。」
「大丈夫だ。」
「私も大丈夫だ。」
それぞれ紙に名前を書いていく。そして、パーティー名の欄で手が止まった。
「そういや考えてなかったな。」
「私はこうゆうの苦手だからな!適当に考えてくれ。」
「急に言われてもなぁ⋅⋅⋅⋅⋅⋅。」
パーティー名、パーティー名⋅⋅⋅⋅⋅⋅名前といえば、トリアがジーズに名前をつけようとしてたのを思い出す⋅⋅⋅⋅⋅⋅
『パーティー名?なら⋅⋅⋅⋅⋅⋅《|力を与えし者、そして破壊する者《give and destroy》》なんてどうかな!』
うぅぅ⋅⋅⋅⋅⋅⋅これは無しだ。それに、拙いとは言えどもこんな言葉が浮かんでしまうとは、俺も毒されつつあるのかもしれない。
「考えは浮かんだすか?」
「いや⋅⋅⋅⋅⋅⋅。ファルカは?」
「私はもとから考えてないぞ。」
せめてなにか考えてくれよ!
「なら⋅⋅⋅⋅⋅⋅《ムクドリ》とかどうすかね?」
は?ムクドリ?
「いいな、それ!よし。それに決まりだ!」
「おい!勝手に決め⋅⋅⋅⋅⋅⋅」
「分かったすよ。えー、ムクドリっと、」
結局、受付男の案が通ってしまい、俺たちのパーティー名は《ムクドリ》となった。
別にパーティー名などなんでもいいのだが、勝手に決められるのはなんというか、なぁ⋅⋅⋅⋅⋅⋅。
「じゃ、これでパーティー申請が完了したすよ。あと、ここにパーティーの名称が刻んであるんで、間違いないか確認お願いするっす。」
そういって、戻ってきた俺とファルカの冒険者カードの右下には、『パーティー名〔ムクドリ〕』と書いてあった。
「あぁ、間違いない。」
「こっちも、大丈夫だぞ。」
「そうすか。いやぁ、近隣一帯でも有数のAランク冒険者に、最近色々あった最弱冒険者のパーティー編成に関わらせてもらえるとは、光栄すねぇ。」
「ま、俺もお前がいてくれて良かったよ。」
受付が空いてるからな。
「それで、パーティー結成記念に何か依頼を受けるすか?」
「いや、これからリヴァルと買い物に行くんだ。」
「ははぁ、デートすかぁ。」
「で、でで、デート!?」
そう言われて、ファルカは顔を真っ赤にして俯いてしまった。手もプルプルと震えている。
あー、怒ってるよなぁ、これ。
「受付男くん、さすがにそれはダメだろ。怒ってしまっただろ?」
「受付男って⋅⋅⋅⋅⋅⋅僕っすか。それに、これ怒ってると思ってるんですか?」
「え?違うのか?」
「どう見ても喜んで⋅⋅⋅⋅⋅⋅」
「わぁぁーー!!」
突然ファルカがあたふたして叫んだかと思うと、受付男の後ろに回り込んだ。
カウンターの中なのに、どうやったんだ?
『まだバレちゃいけないんだ。合わせてくれ。』
『はぁ、逆にこれまでよくバレなかったすね。分かったすよ。』
二人でごにょごにょとなにかを話しているようだったが、俺には聞こえなかった。
話し終えたらしい、ファルカは俺の横まで戻ってきた。やっぱり移動しているのが見えない。
「ま、まぁ、今回は許してやろう!」
戻って来たファルカは、堂々とした態度でそう言った。ほら、やっぱり怒ってたじゃないか。
「え、ほんとに怒ってると思ってるんすか⋅⋅⋅⋅⋅⋅。ほんとに致命的すね。」
「えぇぇ⋅⋅⋅⋅⋅⋅。」
げ、解せぬ⋅⋅⋅⋅⋅⋅。これが世に言う女心というやつなのかもしれない。ならなぜこの受付男が理解できるのかは疑問だが。
「とにかく、申請も終わったことだし、早速デート⋅⋅⋅⋅⋅⋅ゴホンゴホンッ、買い物に行こうじゃないか。」
「あ、あぁ、分かった。」
頭に?が三つほど浮かんだままではあったが、考えても仕方ないようだ。
約束通りファルカの買い物に付き合うため冒険者ギルドを出ようとした、その時だった。
「あぁー!リ、リヴァルさん!探したんですよぉ!」
そういって走ってギルドに入ってきたのは、黒縁眼鏡に内巻きで肩上までの銀髪が綺麗な少女。
彼女は⋅⋅⋅⋅⋅⋅
「うぉっ!」
「探したんですよ!」
「分かった!分かったから!は・な・れ・ろぉ!」
「だ、大胆な⋅⋅⋅⋅⋅⋅!」
気を取り直して彼女の名前は、
「急にどうしたんだ、ハシビロさん。」
ハシビロ・コウカルさんである。
久々のハシビロさん登場、忘れてないですか?
名前の通り、物静かな人イメージ⋅⋅⋅⋅⋅⋅なのですが、興奮したり何かあるとおかしくなりますw
感想、評価、ブックマークもお願いします。