パーティー解雇
「すまないが、これ以上お前と一緒に冒険はできない。」
依頼達成後、俺はパーティーのリーダーから呼び出されそう告げられた。
「分かってる。」
俺はぶっきらぼうにそう答えた。薄々、いや、ずっと前から気づいていたことだ。ここまで一緒にやってきてくれたのも、こいつが優しかったから、それだけだ。
「退職金、ってわけになるが、これぐらい持っていってくれ。」
彼が出してきたのは、少なくない量の金貨と冒険で手に入れた装備の一部だった。
これだけあれば、すぐに困ることはないだろう。
「ありがとな。」
申し訳なさを感じつつもそれを受け取ろうとすると、リーダーの隣で不機嫌そうにしていた彼女が口を開いた。
「ちょっと、全くパーティーに貢献してこなかったこいつになんで退職金なんて渡さなきゃいけないわけ?」
そういって彼女は机の上の金と装備をバックに入れてしまった。
「おい、メーテル⋅⋅⋅⋅⋅⋅。」
「当たり前でしょ!雷狐一匹倒せないようなやつに私たちの利益を盗られるなんて嫌だもの!」
彼女の言うことは最もだ。今回の依頼、雷狐の討伐はS~EのうちDランク依頼、下から二番目の難易度だ。
そんな魔物でさえ倒せない俺に、苦労して得た利益を盗られるのはおかしいと考えるのが普通である。
「メーテル、流石にそれは⋅⋅⋅⋅⋅⋅。」
「ダリルは甘すぎるの! ⋅⋅⋅⋅⋅⋅ならこのわんころでも持っていけば?どうせあんたになついてるんだし、私はペットを飼う気もないんだから。」
そう言って渡されたのは一匹の真っ黒な子犬だ。目は右目しかない、所謂隻眼で、黄色をしている。
犬を飼うとなると食費もかかるし、子犬だから戦闘もできない。厄介払いってところだろう。
⋅⋅⋅⋅⋅⋅俺にはお似合いか。
「⋅⋅⋅⋅⋅⋅わかった。こいつだけ貰っていくよ。」
俺は子犬を抱き抱え、扉へと向かう。
「待ちなさいよ。その武器と防具もパーティーのものでしょ?」
「いくらなんでもそれはないだろメーテル!そんなことしたらリヴァルはこれからどうするんだ!」
「そんなの私たちの知ったことじゃないでしょ?」
二人が言い合っているが、俺はメーテルに同意する。俺はこの子犬だけを貰っていくと言ったわけだ。ここで装備を持っていってしまえば、矛盾することになる。
「⋅⋅⋅⋅⋅⋅そうだな。」
俺は一度子犬を置いて装備を外していく。子犬はおとなしく俺の足元に座っていた。
「これでいいだろう?じゃあな。」
「お、おい、リヴァル!まて⋅⋅⋅⋅⋅⋅」
もう一度子犬を抱き抱える。
これ以上話をしても迷惑をかけるだけだ。俺は足早に、そして無言で部屋を出ていった。
メーテルが止めたのだろうか、あとから追いかけてくるようなこともなかった。
◆
「あぁーーーー!くそっ!」
町の近くにある草原。
イライラを少しでも発散しようと、叫びながらスライムを殴りつける。殴られたスライムは5mほど吹き飛んだあと、またこっちに突進してきた。
「ぬわっ!ぐっ!」
咄嗟に殴りつけるが、体勢が悪かったため後ろに飛ばされる。だが相討ちになったようで、スライムは地面に叩きつけられて四散した。
「なぁーー!くそぉっ!」
飛ばされて倒れこんだまま、立ち上がるのもめんどくさくなる。うつ伏せの状態で地面を叩きつける。
手の皮が擦り剥けただけだった。
何もかもがめんどくさくなり、俺は仰向けになって大の字で寝転んだ。
わふわふわふ
ボーッとしていると、子犬がやってきて俺の顔を舐める。ベトベトになるのが嫌なので抱えて腹の上に乗せる。すると、子犬は安心した様子で丸くなって寝始めた。
「俺はどうしてこうなんだろうなぁ⋅⋅⋅⋅⋅⋅。」
そんなことを呟きながら、自分の才能のなさに落胆していた。
俺はリヴァル・セルバール。18歳、彼女いない歴=年齢の冒険者だ。両親も健在、3歳下の妹が一人いる。
そして、俺を苦しめているもの。それはセルバール家の才能だ。
セルバール家、と聞いてその名を知らないものはいない。何故なら、このセルバール家は先代から続く《剣士》の才能を持ったことで有名な家系だからだ。
息子が一人産まれれば、その子供を優秀な剣士と結婚させるという筋金入りの剣士家系だ。
息子を二人以上持った場合はどちらか片方を後継者とし、もう一人のほうは家系から追い出す、という風にしているらしく、親戚はいるものの全く関わりを持つことはなかった。
父母は二人でパーティーを組んでいて、どちらもSランク冒険者をしている。妹も既に期待の新生として冒険者の道を進んでいる。たしかこないだもワイバーンの群れを一掃して国から表彰を受けていたな。
剣士の才能を受け継いできた家系。勿論、俺も家族のみならず多くの人に期待され、そして自分でも両親のような剣士になるんだと思っていた。
ジョブの適正確認の必要もなく、そのまま剣士になって最初の依頼 ⋅⋅⋅⋅⋅⋅全員の期待は裏切られることになった。
「依頼の失敗」
このことは俺の心に深く突き刺さった。それでも両親や回りの人たちは"まだ初めてだったから"と言ってくれた。自分もそう割り切って冒険者を続けた。
それでも、失敗が2回目・3回目と増えるのに対して、成功は一度もなく、それにともなって回りの目も可哀想なものを見るものへと変わっていった。
そして二ヶ月前、周囲の目に耐えられなくなり、父からも
「お前はセルバール家の面汚しだ!出ていけ!」
と言われ、謂わば追い出される形でこの町までやって来たのだった
◆
「ん、ふわぁ~。なんだ、寝ちまったのか。」
目を開けると、空はもう真っ赤に染まっていた。ここに来たのが昼過ぎだったから、4、5時間ぐらいか。
起き上がろうとすると、お腹の上にいたはずの子犬がいなくなっていた。一瞬ビビったが、すぐに横にいるのを見つけて安心した。
(思ったより情が移ってしまったのかもな。)
そう考えつつ、子犬を抱き抱えた。
この子犬、見つけたのは今日受けた依頼の途中だった。
最近山に大量発生している雷狐の駆除をしている途中、俺が攻撃をくらってしまい吹き飛ばされた先に倒れていたのがこいつだった。近くに崖があったので、そこから落ちたとだと思われる。
隻眼はそのときになったわけではなく、前からのようだった。
とにかく俺はこの子犬を拾い上げ、持っていたポーションで回復させる。すると、みるみるうちに傷は治り、子犬は目を覚ました。
パーティーのみんなにこの事を話し、最終的にはこの子犬を連れて帰ることにした。
あとは今までの通りだ。
回りを見回すと、俺が倒したはずのスライムの残骸は消えていた。魔物は倒した後、人が手を加えなければ2時間ほどで消えてしまう。動物と違って魔物は生命体ではないため、活動が止まるとエネルギーとなって消えてしまう、と考えられている。
「とにかく、帰るか。」
ここにいてもどうにもならないので、町へ帰ることにする。夜になる前には帰りたいので、少し急ぎながら町へと向かおうとしたそのとき⋅⋅⋅⋅⋅⋅。
ツルッ
「おぉっと!な、なんだ?」
何かぶよぶよとしたものを踏んだような感触の直後、滑ってこけそうになる。
何があったのかと下を確認すると、そのにはスライムの死骸があった。
「スライムが死んでる?誰が倒したんだ?」
死骸が残っていると言うことは、多くても二時間前には誰かが倒したと言うことだ。この辺にはスライムしかいないので、他の魔物に殺られることも、冒険者が来るようなことも殆どない。それなのにスライムの死骸があるのはおかしいのだ。
「ま、いいか。」
俺はそう呟きながら、地面にあるスライムの死骸を拾い上げる。
理由はどうあれ、売れば金になるものが落ちているのだ。貯金は少しばかりあるとはいえ、今後のためにもちょっとずつでも金は貯めていきたいからな。
よく見ると、他にもスライムの死骸が落ちていた。俺は拾い上げたスライムの死骸を、唯一自分の持ち物であった《アイテムボックス》に入れて、他の死骸も拾っていった。
そして、町についた頃にはすっかり空は暗くなっていた。
第3作品目。書き始めます!
今回の目標は、細かい描写を目指すこと。指摘が有れば感想で教えて頂ければ嬉しいです!
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