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堕の星  作者: 柊 優助
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7話 封印のささやき

翌朝、乾いた風が大地を吹き抜ける中、柏木たちは再び旅の足を進めていた。目指すは、旧世界で“聖域”と呼ばれていた場所――【グランカリオン】。そこは、地球滅亡の前に一部の科学者と魔族が最後の共同研究を行っていたとされる区域だ。


「ここには、俺の父と母が最期に残した記録があるはずだ」


柏木はそう言いながら、バイクのハンドルを強く握る。その背には、いつの間にかしっかりとつかまるようになったアイシャの手。エドワードとフィーネは、魔素の低い谷地を歩いて並走していた。


数時間の移動の後、一行は古びた神殿のような建築物にたどり着いた。重厚な石造りの建物には、かすかに残された“言語ではない”記号が刻まれている。


「この模様……初めて見るのに、見覚えがある気がする」


アイシャが壁に触れると、その手のひらが微かに光った。


「また反応してるな、お前の“因子”が」


エドワードが身構えるが、柏木はすぐに手をかざし、落ち着くよう促した。


「アイシャは……ここに来るべくして生まれたのかもしれない」


その言葉の直後だった。建物全体が微かに震え、奥の壁が自動的にスライドした。


その先に広がっていたのは、巨大な球体の装置が浮かぶホールだった。球体の中心部には赤黒い結晶のようなコアがあり、まるで脈打つように鼓動している。


「これは……?」


近づくと、球体から低い振動音と共に、【音】が聞こえてきた。


《──こ・え・が──こえが、たりない──》


「今、声が……?」


フィーネが肩をすくめる。誰も話していないのに、脳内に直接響くような感覚だった。


《──われらハ──とうに目覚めテイル──忘れラレ──消され──封じられ──それでもワレらハ──"還リ"ヲまつ──》


「……誰だ、今のは……?」


柏木はコアの前で足を止め、眉をひそめる。


《カギは目覚メた──器は近い──全テは輪に──還ル──》


声が止んだ。


「どういうこと……?器って……私?」


アイシャがつぶやいた。


そのとき、コアから放たれた赤黒い光が天井へと走り、神殿全体に展開された“記憶映像”が浮かび上がった。


そこに映っていたのは、終末の直前――ウイルスの真実を告げる会議の様子だった。


「DJIRS-5329は、感染力を抑えられない。意志を持ち始めている可能性がある」


「ウイルスが意志? 馬鹿を言うな、そんなものはありえない!」


「いや、これは”プログラム”ではない。”意思構造体”としての知性反応だ。我々が生み出してしまったのは、概念そのものが自立する存在だ!」


科学者たちが混乱の中で声を張り上げる。だがその映像の最後、ひとりの人物が立ち上がった。


「これ以上、進めてはならない。人類が”理”を持ち込んだこの行為は、いずれこの星を喰うだろう。彼らは既に”扉”を見つけている。あとは、開ける者を待つだけだ」


映像が消える。


「……これは……ウイルスに、意志があるということか?」


柏木は蒼白な顔でコアを見つめた。


アイシャはゆっくりと手を胸に当てる。そこには、常に熱を持った魔素の脈動がある。自分の中にある“因子”が、誰かに呼応している。まるで、自分がただの人間でも魔族でもない、“なにか”に繋がっているかのように。


「私が……目覚めの“鍵”なら……開ける扉の先にいるのは、“それ”なのね」


「まだ名前もわからない。けど……俺はもう、ただの旅だとは思ってない」


柏木は拳を握った。


「この先、”あれ”が待ってる。その正体を暴く。たとえ、俺の家族がそれに関わっていたとしても、だ」


アイシャがそっと手を重ねる。


「私も行く。私がこの世界に生まれた意味を、私の意志で見届けたい」


そして、フィーネもまた静かに口を開いた。


「私にも……聞こえたの。あの声、私の中にも残響がある。もしかしたら、私も何か関わってるのかもしれない」


「なら、進むだけだな」

エドワードが肩を叩いた。


一行は、再びバイクと歩みで進路を南へ取る。


目指すは、ウイルス発祥の“0地点”――そこに“奴”の核心が眠っている。


だが、その道中ではすでに、“目覚めた者たち”が動き始めていた。


彼らを阻もうとする者か、導こうとする者か。

それはまだ、誰にもわからない――

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