表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
堕の星  作者: 柊 優助
5/13

5話 砂上の記憶

「この先に、古代施設がある」


エドワードが地図を広げながら指を差した。朽ちた地図には、かつての地名も道路も判読不能だったが、風化を免れた一角に、「地熱研究区画」という記述が微かに残っている。


「おい、結城。お前の親父って科学者だったんだろ? たしか、あのウイルスの開発に関わってたって……」


「関わってたというか、中心人物だった。……母さんもな」


柏木は言いながら、遠くに見える黒い岩山へと目を向けた。そこには、旧文明の建造物の残骸が転がっており、赤錆の匂いと死んだ機械の息づかいが漂っていた。


「ねぇ……柏木」


そのとき、アイシャが小さく声を発した。


「どうした?」


「ここ、来たことがある気がする」


「ここに?」


アイシャはそっと前へ歩み出ると、目を閉じて空気を感じ取るように立ち尽くした。そして、ゆっくりと指先を地面に滑らせる。


「……この下に、”棺”がある」


「棺?」


アイシャは黙って頷いた。


そのとき――地面が振動した。


「来るよ……魔素の反応体」


アイシャが叫ぶより早く、足元の地面が崩れ、巨大な虫のような生物が這い出してきた。複眼に赤い光を宿し、体表は金属のように硬質化している。


「グロウム種か! 地下に巣食ってやがったか!」


エドワードが剣を抜き、真っ向から立ち向かう。


だが、敵は一体ではなかった。数匹のグロウムが地面から姿を現し、柏木とアイシャにも襲いかかる。


「アイシャ、下がれ!」


「……いいえ、下がらない!」


アイシャの瞳が蒼く光り、周囲の空気が震えた。


「――砂よ、護りの楯となれ」


アイシャが呟いた瞬間、砂が渦を巻き、柏木たちを包み込むようにして巨大な防壁を形成した。魔素の盾――魔族にしか使えない、純粋な防御魔法。


「おい……今の、お前が?」


「ええ。これが……私に与えられた”器”の力」


グロウムの一体が砂盾に衝突し、大きな音を立てて跳ね返された。アイシャはその隙に前へ出ると、両手を広げる。


「砂よ、穿て――”崩砂刃サンドブレイド”!」


その詠唱と同時に、地面から無数の砂の刃が噴き上がり、敵を串刺しにしていく。


数分後、砂塵が収まると、そこには倒れ伏したグロウムたちの亡骸が残っていた。


「……全部、やったのか」


「ごめん……抑えきれなくて。魔素が多すぎると、私、力が勝手に溢れるの」


アイシャの肩は小さく震えていた。


エドワードが近づき、黙って上着をかけてやる。


「なあ、アイシャ。お前、なんなんだ? 本当に”王女”なのか?」


アイシャはゆっくりと頷いた。


「私は、”砂の王国”の末娘。アイシャ=ロゼリア=マルゼラ。地球が滅びたあの時、王国は魔素の影響を受けて真っ先に魔族化が進んだの。私たち三姉妹は、それぞれの適応能力に応じて役割を与えられた」


「お前は……災厄の器、だったな」


「ええ。私の体には、ウイルスに混ざった”根源因子”が封印されている。それを遺伝的に継いだ私は、地球上でもっとも強い”魔素の変換炉”になった。でも……それが暴走すれば、私はこの星そのものを焼き尽くすかもしれない」


沈黙が落ちた。


「それでも俺は、お前を止めない」


柏木の言葉に、アイシャは目を見開く。


「止めなきゃいけない時が来たら、俺がやる。でも、お前自身が自分を否定してる限り、お前はきっと壊れる。だったら、誰かが肯定してやらなきゃならねぇだろ」


「柏木……」


「それに、俺の両親が作ったウイルスのせいで、お前が苦しんでるなら……俺にはその責任がある」


「違う。柏木、あなたのせいじゃない。あの人たちが”道を選び間違えた”だけ。でも……」


アイシャは、一歩だけ柏木に近づき、手をそっと重ねた。


「あなたに出会えて、本当に良かった」


その瞬間、地下の棺と呼ばれた場所が微かに発光し、空気が震えた。


「今……何かが目覚めたぞ」


次の目的地は、この地下にある。

失われた”ウイルス”の起源に、少しずつ近づいていく彼らの旅。


だが、地下に眠るのは、ただの記憶だけではなかった。


“神の細菌”と呼ばれたものの正体。

そして、それを最初に「意思」として目覚めさせた存在――


やがて彼らは、真の敵と邂逅することになる。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ