11. ふたつ角
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迷宮に出て、魔物を倒す。
帰ってきては魔石で肉体を強化して、眠るまでは魔力を練りつつ剣を振るう。
生きるためにすべてを費やす。
息をつく間もない日々。
……きっと、自分ひとりでいたのなら、そのように過ごしていただろう。
だが、そうはなっていない。
理由はわかっている。
彼女がいるからだ。
「ねえねえ、グレイ。背中、わたしが拭いたげよっか」
「……別にいいんだけど」
「やった! じゃあ向こう向いて!」
「え? いや。いまのいいってのは、要らないって意味で……」
言いかけたところで、一日の汗を拭っていたタオルを、するりと抜き取られた。
背中に回る足取りは軽く、まるで踊るようだ。
ご機嫌そのものといった声が、背後からかけられた。
「ほらほら早く」
「……」
押し切られてしまった。
まあいいか。
と、グレイは抵抗の選択肢をあっさり放棄した。
したいようにさせておけばいい。
……生きのびるため以外のことは、どうでもいいのだから。
実のところ、押されると流されやすい少年の一面は、生きること以外に対する優先度の低さの表れである。
自分が死ぬような場面でもなければ、まあいいかと受け入れてしまう。
生きること以外はどうでもいい。
そのはずだったのだ。
けれど、いまは……。
「ふんふーん」
「……」
丁寧な手つきが、未熟で薄い背中を拭っていく。
女の子の細い指が、タオル越しに肌に押し当てられている。
自分を気に掛けてくれる誰かの存在を、じかに感じ取る。
それは不思議な心地よさをもたらす経験で……。
「カミコはさ」
気付いたら、口を開いていた。
「んーん?」
「どうして、そんな世話を焼くんだ」
気になっていたことを尋ねた。
もちろん、こんな興味は生きのびるためには、なんの役にも立たない。
生きるため、以外のことをしている。
また、調子が狂っているのか。
あるいは、これはそういうことではなくて。
結論を出せずにいる間に、反応があった。
「世話を焼くのが不思議? ……ああ。邪神なのにってこと?」
微妙にカミコは誤解をした。
実際、彼女が邪神でなかったところで、グレイは同じ質問をしただろう。
どうして自分がそうするのか、いまはまだわからないままに。
「そうだねえ。理由。理由か」
少し間があってから、カミコは答えた。
「神様にとって、契約相手っていうのは特別なものだからね。たとえ邪神であったとしても」
「……なるほど」
そういえば、契約を交わしたときにも似たようなことを言っていた。
――小さな勇士に祝福を。神様にとっても、契約っていうのは特別で大事なものなんだ。わたしはキミを応援したい。
特別で、大事で。
だからいろいろと世話を焼いている。
わかりやすい。
しかし、そう思ったところで、カミコは付け加えた。
「ただ、それは勇士を讃える神格としての理由でね。わたし個人としては少し別かもしれないね」
「というと?」
「……さみしかった、のかも」
そういう彼女の声は珍しく、かげりのあるものだった。
「長い間、ここにひとり封じられていたから。うん。本当に、長い間ね……」
「……」
長い間、ひとりぼっち。
そう聞いてグレイが思い出したのは、生前の自分のことだった。
病室でのひとりの日々。
厳密にいえば、肉体を維持するための医療従事者の存在はあった。
だが、彼らはあくまで仕事としてのみ自分に接していた。
実家はそのような人材を求め、割り当てていたからだ。
極端な話、彼らは生命維持装置の一部でしかなかった。
彼ら自身がそのように徹していた。
家族が見舞いにくるようなことは、物心付いたときにはもうなかった。
別にさみしいとは感じなかった。
そのはずだ。
けれど、カミコは違ったのだろう。
封じられた邪神。
どれだけ長い間、彼女がこの部屋にひとりでいたのかは知らない。
何年か、何十年か。
ひょっとして、何百年か。それ以上か。
人懐っこい性格をしている彼女はひとりきり、薄暗い祭壇で鎖につながれて、この冷たい部屋で日々を過ごしてきたのだ。
どんな思いでいたのかは、想像することもできないけれど。
――わたしの友達になってよ。
初めて会ったときに、彼女がそう告げて、自分がそれに応えたことは覚えていた。
「だから、わたしにとってグレイは、本当に奇跡みたいな……」
カミコはなにかを言いかける。
しかし、途中で口をつぐんだ。
「……ああ。やめやめっ。なんだか暗くなっちゃうね。こういうのはなしにしよう」
ばしゃりと、タオルを水桶に落とす音がした。
どうやら背中を拭き終わったらしい。
タオルを洗い終えると、カミコは目の前に回って来た。
そのときには、いつもの笑顔だった。
「ね。ね。せっかくだから、もっと面白いことを話そうよ」
明るい笑み。
なにを言われても頷いてしまいそうになるような。
グレイはその目を見返して――
「いや。忘れてるかもだけど、俺は寝る前に体を拭いてたんだ。背中拭いたら寝るから」
「がーん! 断られた!」
――流されることなく、さっくり断った。
睡眠は大事である。
明日に差し支えるのはいけない。
生きるために大事なところはゆずらない。
このあたりは変わらないグレイの一面だった。
「ぷう」
カミコの可憐な笑顔は、瞬く間にふくれっ面に変わった。
ただ、彼女はふくれながらも素直に引き下がった。
契約者のこうした一面を、彼女もまた理解しつつあるということだった。
「もう。仕方ないなあ。それじゃあ、おやすみ。グレイ」
「ああ。おやすみ」
返したグレイは、敷物の上に寝転がった。
目を閉じた。
「……」
カミコの吐息が聞こえた。
それは、いまの自分はひとりではないのだと感じさせるものだった。
彼女だけではなく、自分も。
かつてはひとりだったけれど、いまはふたり一緒にいる。
どこか似た境遇の自分たち。
そんな共通点を、彼女は知らないけれど。
伝えてはいないけれど。
いつかは話すこともあるのかもしれない。
そんなことを思った。
……思ってしまった。
まるで自分には、未来の時間が絶対にあるみたいに。
それが違うと思い知ったのは、この翌日のことだった。
グレイは迷宮で『ふたつ角』と遭遇した。
***
探索は順調だった。
1体だけでいる『ひとつ角』を探しては狩る。
シャドーと戦えるようになって対象が増えたことで、少しだが効率は上がった。
とはいっても、1日に手に入れられる魔石の数が、当初が4個か5個だったのが、5、6個になったくらいの小さなものだ。
それでも、1日で自分の強化に使える数は、1個から2個に増えた。
2倍である。
探索を開始して22日間で、獲得魔石数は87個。
自身を高めるために使ったものが29個。
階位上昇までに必要な数が、1000個。
……これを考えると、気が遠くなってしまうのだけれど。
とはいえ、この数はあくまで目安だ。
単純に魔石だけで強化した場合の話でもある。
精神修養など魂を鍛えるには他にも要素があるので、実際に必要な数はもっと少ないはずだ。
ただ、それでも先が長いことには違いない。
探索効率は現状、決してよいとは言えない。
状況を劇的に改善するためには、根本的な解決が必要だと認識はしていた。
もっとも、カミコに言わせれば、これでも非常識なくらいに速いのだという。
装備もろくに整えられないどころか、食料すら手に入らない状況を考えれば、驚異的だとさえ言っていた。
調子は良かった。
かといって、決して油断をしていたわけではなかった。
だが、それでも危険をゼロにすることはできない。
スケルトンを倒して、さて次に行こうかとしたときだった。
精霊が不思議な動きをした。
ぐるぐると、不自然に速くらせんを描くように飛んだのだ。
「――ッ」
直後、グレイは迷うことなく駆け出していた。
全力疾走だ。
脇目も振らずに、迷宮の通路を走り抜けていく。
それが、話をすることのできない精霊と、事前に決めておいた合図だったからだ。
――すぐに逃げて!
精霊の伝えてくれた警告は、最大級の危機を告げていた。
「……くそっ」
もちろん、常に準備はしていた。
迷宮の通路図は、頭に叩き込んである。
全力で走った。
それでも、追い付かれた。
弓鳴りの音がした。
衝撃、激痛。
「……っ! がぁあ!?」
肩になにかが突き刺さったのだ。
痛い、痛い。
それでも、振り返るのを我慢して走る。
速度をゆるめれば死ぬとわかっていたからだ。
すると、今度は背筋に衝撃があった。
「……がっ」
痛みに頭が白くなり、衝撃につんのめりそうになる。
またなにか刺さったのだ。
肩に刺さったほうを抜いた。
骨でできた矢だった。
それで、敵の正体が確定した。
「スケルトン・ナイト……!」
骸骨の狼と一体化したスケルトンの騎士。
階級は――『ふたつ角』。
封じられたカミコの影響の強い迷宮最深部付近では、ほとんど見かけないはずの存在だった。
ただ、確率はゼロではない。
ゼロではない確率のなかでは、最悪に近い相手だった。
だからこそ、こんな状況になっているとも言えた。
スケルトン・ナイトがまずいのは、狼の嗅覚と速度だ。
通常であれば精霊のほうが感知が先なので、敵が強い場合は逃げられる。
だが、スケルトン・ナイトは嗅覚で感知してくる。
今回はそれで気付かれた。
それでもスピードがこちらのほうが速ければいいのだが、速度も向こうが上だ。
そのうえ、騎乗したスケルトンは矢で遠距離からこちらを攻撃してきて、逃亡の邪魔をする。
追い付かれたら終わりだ。
騎射は命中率も悪く、これでも威力はふたつ角にしてはたいしたことない部類なのだが、接近戦はまずい。
この世界において『ふたつ角』の魔物は、町ひとつ滅ぼしかねない災害だ。
グレイは邪神の契約者として人並み外れた力を持っているが、まだ災害には敵わない。
安全マージンを取り払ったいまのグレイの実力は『ひとつ角』の上の中とやりあえる程度といったところか。
対するスケルトン・ナイトは『ふたつ角』の中の下。
相手にならない。
普通であれば見付かった時点で死亡が確定。
グレイがこうして逃げられているのが驚異的と称賛されるべきことなのだ。
相手の土俵である接近戦では、とてもではないが敵わない。
遠距離だから瞬殺されずに済んでいるのだ。
逃げるしかない。
恐るべき敵に背中を見せて。
「ぐっ、がっ……ぎぃ」
容赦なく矢が撃ち込まれる。
どすっ、どすっ、と体のなかから身の毛のよだつ音がする。
そのたびに、激痛が脳みそを殴りつける。
のどの奥から血があふれてきて、息が苦しい。
まずい、まずい、まずい、まずい。
でも、走らなければ。
……実際、なにかひとつでも間違えていれば、グレイは死んでいただろう。
精霊は最速で敵の存在に気付いてくれた。
即座に逃げ出す決断を下せたのは、事前にこういう事態を想定して、備えていたからだ。
気を失っても当然の痛みは、痛みに強い彼だからこそ堪えられた。
身体能力強化も、根本的な体の動かし方も、スケルトン相手の戦闘を繰り返すことで最初よりはるかにうまくなった。
これまでコツコツ集めてきて、強化に30個近く費やした魔石も体を強くしていた。
それでも、追い付かれた。
「――っ」
精霊が目の前に飛び出してきた。
邪魔をされたのかと一瞬思った。
そうでないと気付けたのは、これまでふたりで迷宮探索をしてきた時間があったからだ。
こいつは、意味もなくこんなことしない。
信頼だった。
だから気付けた。
振り返った。
「……あ」
そこに、髑髏の顔があった。
ただのスケルトンとはモノが違った。
骸骨の眼窩の奥に鬼火が燃えている。
生命を呪い、敵意と殺意をまき散らす怨嗟の炎だ。
すでに近接戦の距離。
骨を組み合わせて作られた不気味な槍が突き出されて――。
「あぁああああああ!」
――振り返りざま、錆びた剣を振り払った。
全身全霊を込めた一撃。
これまで抑えていた筋肉の出力さえも全開にした、自身の肉体を損なうほどの。
剣と槍がぶつかり、衝撃が弾ける。
瞬間、剣を振った腕がひしゃげた。
「がああぁあっ!?」
視界が消失する。
勢いを抑え切れずに吹き飛ばされたのだと気付いたのは、背中に刺さった骨の矢をへし折りながら、床を転がったところだった。
「ごふっ」
息がとまり、手足がしびれている。
頭がぐらぐらと揺れて、視界が定まらない。
だが、動かないと。
「う……ぐぐ」
常人では身じろぎもできない痛みをこらえて、グレイは体を持ち上げた。
振り返る。
こちらに向かってこようと体勢を整えたスケルトン・ナイトの姿が見えた。
逆にいえば、さっきの打ち合いで体勢を崩していたということだ。
格下相手に。
そのせいで追撃ができなかったのだ。
苛立たしげに、眼窩の奥の鬼火が燃えていた。
すぐに追いつけるはずの追跡劇で逃げ続けられたこと。
背後からの必殺の一撃をしのがれたこと。
ここまでされては、苛立つのも無理はない。
ざまあみろだ。
とはいえ、こちらと違って、スケルトン・ナイトに損傷はない。
状況はさらに悪化した。
逃げないといけない。
体中が悲鳴をあげている、が……。
「ぐ、ぐぐっ」
諦めない。
限界を振り払う。
地面を蹴って、グレイは思い切り飛んだ。
「……あっ」
だが、そこで着地を失敗した。
もう力が入らなかったのだ。
無様にころんだ。
そこまでだった。
骨の四肢が石床を叩く、硬い足音が響く。
おぞましい気配が背後に飛びかかってくる。
もう動けない。
……動く必要が、なかった。
「ははっ」
グレイは小さく、血反吐混じりの笑い声をあげた。
さっきの一撃、スケルトン・ナイトはこちらを打ち負かしたと思ったかもしれない。
だが、それは違う。
自分は、生きのびたのだ。
生を勝ち取った。
そうして、ここまで逃げてきた――封印された邪神の棲まうこの部屋まで。
「わたしのグレイになにしてんの?」
初めて聞く、凍え切ったカミコの声が聞こえた。
そして、飛び込んでくる少女の姿。
神官を思わせる衣服の、短い裾がひるがえる。
裸足の脚が、ムチのようにしなってスケルトン・ナイトを蹴り飛ばした。
「――ッ!」
冗談のように、骸骨の体が真逆に吹き飛んだ。
肩から片腕が吹き飛んで、地面に叩きつけられる。
続けてカミコは腕を振り上げた。
その掌の掲げられる先に、水が生み出されて宙に浮かぶ。
魔法だ。
生み出されたのは、人の身の丈を越える水の大剣だった。
カミコの自由はグレイとの契約によって得られたものなので、力もそれに準じたものになっている。
つまりは、二階紋。
体にハンデのあるホムンクルスのグレイとは違って、本来の二階紋だ。
とはいえ、スケルトン・ナイトも魔物としての階級的には同格の『ふたつ角』。
そのなかでも力はそう低いわけではない。
同格であれば、そう簡単には倒せない。
しかし、戦いは圧倒的だった。
「滅びろ」
これこそが、神の怒りか。
渦を巻く水の大剣が振り払われる。
防御に回った骨の槍が、呆気なく弾き飛ばされた。
それだけにとどまらず、水の大剣はスケルトン・ナイトの下半身の狼の骨を半分潰した。
体勢を崩したところを見逃さず、ひるがえった水の刃が骸骨の胸に叩き込まれる。
単純に、技量が違い過ぎた。
さらには、ここは封印されているとはいえ神の領域だ。
そして、カミコは全力だった。
黄金の目は爛々と輝き、黒髪が激情を表すように揺れている。
怒り狂うその姿はまさしく荒魂。
邪神と言われても、いまだけは頷ける。
だが、思わず目を奪われてしまうくらいに――その姿は美しくもあったのだ。
「消えろ」
骨の体の中央に突き込まれた水の剣が弾け飛び、骨の体も粉々になる。
魔石が地面に転がった。
ただ、もうカミコはそちらを見ていなかった。
「グレイ!」
そう叫んだ姿は、よく知っている彼女だった。
こちらに走り寄ってくる。
その顔は、苦しそうにゆがんでいた。
自分が苦しいわけでもないのに。
「大丈夫、大丈夫だから。すぐに治すからね」
なにか答えようとしたが、ごぷごぷと血が泡立つだけだった。
カミコの手が腹に触れた。
青みがかった白い光が掌から溢れる。
回復の魔法だ。
「う、ううう……わたしが本来の神格なら、もっと速く治せたのに」
とはいうものの、カミコの手から発される光は確実に体を癒やしていた。
ここが神の領域だからというのもあるのだろう。
このぶんなら、死ぬことはなさそうだ。
自分にとっては、それだけで十分だった。
「……」
視線を感じたので横目を使えば、ホムンクルスの少女と目が合った。
彼女はいつものように、部屋のすみに寝かされていたのだ。
ほんのわずかだけ、その目が見開かれていた。
届くはずもない彼女の手が、少しだけこちらに向けて動いた。
ここまで一緒に逃げてきた精霊は、心配そうにあたりを飛び回っている。
グレイはホムンクルスの少女に笑いかけてから、天井に目をやった。
どうやら生きのびることができたらしい。
そう実感したところで、限界を迎えた意識が遠のいた。
***
目を覚ましたとき、目の前にはボロボロ泣くカミコの顔があった。
「ああ。目が覚めたんだね。よかったぁ」
全身の怪我は治っていた。
ひざまくらをされたうえで、カミコ・クッションの上に寝かされている。
「ホント、よく生きて帰ってきたよ」
「……ズタボロだったけどな」
「なに言ってんの。あんなハリネズミみたいになりながら、ここまで辿り着いたんでしょ。それも、近接で攻撃を受けておいて。100人いたら100人死んでる状況だよ」
そう言いながら、頭をなでてくる。
「グレイはすごいね」
「……」
なんだかそのときのカミコの慈愛と母性に満ちた笑顔は、本当に神聖なものに感じられた。
邪神なのに。
だからかもしれない。
もう立ち上がれたけれど、なんとなく名残惜しくてそのままでいた。
不思議な安らぎが胸を満たしていた。
なんだろうか、これは。
わからない。
こんなふうに誰かに褒められるのは、初めてだったから。
「いまは、ゆっくり休んで」
「……ああ」
胸のなかにある気持ちに名前を付けられないままに、グレイはまぶたを落とした。
考え事をするには、あまりにもいまは疲れていたし、この安らぎは抗いがたいものだった。
今日くらいは、カミコのいう通りにしよう。
今日くらいは。
どうせ明日からは、また迷宮探索の日々なのだ。
「……」
いいや。いいや。
これまでと一緒ではいけない。
安らぎの裏で、張り詰めるものがあった。
それは、とても強烈な衝動。
だって、自分は死にかけたから。
これまで通りではいけない。
いけない、いけない、いけない、いけない。
イケナイ、イケナイ、イケナイ、イケナイ。
「……」
きっとこの衝動は、グレイという存在を先に進めることだろう。
だけど、いまだけは。
「ありがとう、カミコ」
このひとときだけは、少年はあたたかなものに身をゆだねた。
◆カミコ、キレるの回。
長い封印生活で現れたグレイの存在は、彼女にとって今回語られた通りのものです。
グレイのなかでも、彼女への思い入れが強くなりつつありますね。




