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三話

「まてまてまて、急に。なんだあ!?」

 アミの急な発言に驚き、宗太郎はもう三歩距離を取った。

 出会っていきなり求愛行為など、対応に苦慮するのは当たり前だ。聖人だって驚いて硬直する。ましてや、ただの恋愛経験皆無の男には荷が重すぎる。

「だから、キスしたり抱き合ったり、もっと仲良くしませんか、と」

「まてよ。もっと手順ってものがあるだろ。まずは話し合って、どこかに出かけて。手をつないだりとか。セッ―――、生殖だなんて突拍子もないぞ」

 アミはキョトンとしたように、宗太郎の言葉の意味をくみ取れていないようだった。

「普通は、なさらないんですか」

「当たり前だ。そんなことは好きあった男女が最後にすることだろ!」

 フンフンと宗太郎の必死の説得を聞いたアミは納得したのか。急に赤面した。

「ごごご、ごめんなさい。私、すごく勘違いしていたのかもしれません。私はただ仲良くしたくって、男女の関係になりたいわけではなく。お友達、そうお友達になりたくて、ただそれだけなのに」

 分かってくれたらしい。宗太郎は安堵した。

「でも、深い仲とは憧れますね。我ながらいい発想かもしれません。御生殖までいかなくとも、御手てを繋いでチュッチュしあうくらいなきっと、許されるかもしれません」

 おや、話の展開が変わったような。宗太郎はアミの顔色をうかがう。

 彼女は眼をぐるぐると回し、頬を上気させて運転したてのエンジンみたいに煙を蒸かしている。宗太郎の見立てでは、それはあまりよろしくない状態だ。

 宗太郎は話題を変えることにした。

「俺はまだ狩りの途中なんだ。仕事の方に戻らせてもらってもいいよな。いや、戻らせてもらう」

「えー、そんな。私とのアバンチュールはどうされるつもりですか」

 強引に無視しようとするも、宗太郎はアミに引き留められる。アミは宗太郎の腰にしがみつき、逃がすまいと離すつもりは毛頭ないようだ。

 これでは逃げられないと、宗太郎は無理やりにアミを引きはがすかどうか思案し始めた。

 その間に、異変を感じた。

 森の奥、シュトラウスが走り去った向こう側から、何故かまたシュトラウスの群れが戻ってくるのが見えた。

 シュトラウスが脅かされても逃げ帰ってくる理由は一つ。獰猛な捕食者がシュトラウスの群れに立ちふさがった時だ。

「やべえな… …。おい、アミ。逃げるぞ」

「えっ!?」

 今は凶暴なアミダ生物を狩る準備はしていない。ここは逃げるにしかずだ。

 宗太郎はアミを抱きかかえると、タコの上に乗せる。そして自分も乗ると、素早くタコを手綱で操り、出発させた。

「こ、これは。デートですね」

「違う! いちいち面倒なこと言うな。舌を噛むぞ」

 タコはすぐに駆け足となり、追ってくるシュトラウスの群れとの距離を取る。

 はたして、シュトラウスの群れの更に向こうから大きなシルエットが見えてきた。

「… …アーマネスか」

 宗太郎は舌打ちをする。見えてきたのは装甲車のような固い装甲を持った胴体に、人の身体ほどの太さもある四脚を持った。見上げるほど高いアミダ生物だ。

 犬歯を並べたかのような鋭い捕食者の口に、重機関銃に似たアミダ兵器を二丁、四連ミサイルポッドを一つ搭載している。全火力を集中されたら、この森の一部が更地にされかねない。

 アーマネスはぐんぐんとスピードを上げる。何故か足元のシュトラウスなど目もくれず轢殺し、宗太郎たちに迫る勢いだ。

 宗太郎は瞬時に理解する。アーマネスはアミダ細胞の質がいいタコを新たな標的にしたのだ。

「目、がいいやつだな」

 時折、サイレンに似た警告音がアーマネスから聞こえてくる。止まれ、とでも言っているのか。こちらはなおさら止まるわけにもいかない。

 タコを操舵し、急いで森の出口を目指す。シュトラウスの最高時速は六十キロほどだが、改造したタコは最大で八十キロまで加速する。スピードにさえ乗れば、アーマネスなど簡単に引きはがせる。

 アーマネスもそれを分かっているのか、武装の射出準備を始めていた。

「来るぞ! 振り落とされるな」

 先に火を噴いたのは十二.五ミリほどもある重機関銃だ。弾の連射速度は指折り数えるほど遅く、目で追えるほど弾速は遅い。それでも一撃の威力はすさまじく、細い木など触れただけで幹を折ってしまう。

 タコの走る軌跡を舐めるように曳光弾の光線が後を追う。宗太郎は、タコを右往左往に蛇行させ、一撃必殺の追撃をかろうじて回避する。

 そのためか、アーマネスとの距離は益々詰め寄られていく。

「こいつで!」

 宗太郎はクーゲルのバレルをアーマネスに向ける。いつも使う引き金とは違う、もう一つの方を握りこむ。すると、下の発射口から一際大きな弾丸が飛来した。

 アーマネスの目の前で咲いたそれは、ネットだった。金属線と共に編み込まれたそれは一度被れば、アーマネスでも簡単に引き裂けない。

 アーマネスは蜘蛛の巣を被ったように身じろぎをし、逃れようとした。けれどもそのアーマネスには手と呼べるものもないため、ネットを振り払うことはできない。

 銃撃はいったん止み、タコはその隙を縫って速度を上げようとする。

 しかしアーマネスはそうさせてくれなかった。重機関銃の下に隠されたアンカーを飛ばし、タコを狙い撃とうとしたのだ。

 タコは間一髪アンカーを避けるものの、線を引かれたワイヤーに足を取られてしまう。

 宗太郎とアミを乗せたままタコは地面に投げうたれ、強かに身体を殴打した。

 無論、乗っていた宗太郎も例外なく地面に叩かれ、のたうち回った。

「ガッ、ゴホッ」

 口の中を切ったのか、咳の中に血が混じる。すぐさま立とうとするも、足が言うことを利かない。

 苦しんでいる間も、アーマネスはタコに向かってその歩を進める。このままでは宗太郎も巻き込まれてしまう。

 一方、アミの場合はというと、なんと転倒する寸前に跳躍したのかアーマネスの目の前に降り立っていた。

 宗太郎は危ない、と声なき声を上げようとも、それは遅かった。

「暴力は」

 アミは己の右足を天高く振りかぶる。

「いけません!」

 そして自分のスカートなど構いもせず、一挙に跳ぶ。振り上げた右足は時計のバネみたいに巻き戻されてアーマネスの胴体に吸い込まれていった。

 足底がアーマネスの装甲に激突した瞬間、なんとアミの足は折れることなく装甲に大きな足跡を残した。まるで大地に突き刺さった隕石のクレーターのごとく、装甲はへこむ。

 続いて、アミは空中にいながらくるりと演舞して再び右足の一撃を去来させた。

 今度は装甲の左側面部を蹴撃、装甲にゆがみこそでないものの、アーマネスはあまりの衝撃にたまらず姿勢を崩した。

 アミは地面に着地すると同時に、ゴム毬のように自身をまたも跳ね上げる。それはアーマネスに向かうのではなく、更に高い森の木々を突き抜けるほどの高い上昇だ。

 アミは木々を蹴って、はるか高みから蹴りの構えを見せた。

「絶対殺すと書いて、絶殺! アミダーキック!!」

 空から直下へ目指した豪速の一撃がアーマネスの胴体に突き刺さり、その勢いのまま貫通して左後ろの脚部さえも叩き割った。

 どうやらその一撃はアミダ核まで届いたらしく、アーマネスは機能を停止し、轟音をたてて崩れ落ちた。

 宗太郎は一連の流れの間、目を見開いてへたり込んでいた。奇想天外な展開に頭が追い付かず、動くことさえままならなかったからだ。

「助けてくださいませんかー」

 アーマネスが沈黙した場所からアミの声が聞こえる。宗太郎は、はたと気づき、土を払うと声の聞こえた辺りへ急いだ。

 近づいて見えてきたのは、これまた予想外の光景だった。

「おまえ… …」

 アミが倒れていた。それも服はボロボロで汚れていた。

 更に右足は折れているのだが、これが奇妙だった。

 足は折れて断面さえ見ているのに、血の気は一切ない。ただ肌には陶器のようなひび割れが生じているだけで出血の様子はない。

 明らかに普通の人間のケガの状態ではなかった。

 宗太郎は困惑していると、破けた衣服から露出している胸元を見て確信した。

「アミダ生物、いやソシアルなのか」

 アミの豊満な胸の谷間の間には白濁としたアミダ核が覗いていた。


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